🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

Paul Graham のエッセイを読んで、自分なりにまとめたものです。今でも見返すと示唆があるので、読みやすくなるようブログでも書いておくことにしました。Paul Graham のエッセイの翻訳はこちらでリストになっています。ぜひ原文も当たってください(文末に参照先を書いています)。

昔書いたスライドからの転載です。

www.slideshare.net

原則

Make something people want 「人々の欲しいと思うものを作ろう」

スタートアップにとって一番難しいのは、人々の欲しいと思うものを作れるかどうかである(二番目は資金調達)。人々の欲しいと思うものを作れるまで、粘り強くかつ素早くローンチを繰り返し、諦めないこと。

ユーザーを知ろう

ユーザーのことを知っていれば、状況が最悪になっても士気を保てるし、製品を愛してくれるユーザーが10人いるだけで仕事を続けることができる。

スケールしないことをしよう

ユーザーを知るためには Do things that don’t scale – スケールしないことをしよう。そうすれば顧客に対して驚くほど良いサービスを提供できるし、顧客のことをよりよく知ることができる。少数のユーザーに愛されるほうが、多くの人に好かれるよりもよっぽど良い。

スタートアップ=成長

スタートアップとは、新しく設立された企業ではなく、テクノロジー分野での起業でもない。上場や M&A がスタートアップではない。スタートアップに必要不可欠なことは「成長」だ。他のすべてのことは成長を達成するための要素にしか過ぎない。

進む方向を間違えたら、決して成功しない。だから成長を追求することを忘れないこと。成長を追いかければ、他のこともうまくいく。迷ったときは、成長するかどうかをコンパスにすればいい。すべての意思決定で成長するかどうかを判断基準にしよう。

ひどいことは起こる

酷いことは起こる。それはスタートアップの常だ。災難に見舞われないスタートアップはいない。だからといって、それでやる気をなくさないようにしよう。やる気を失えばスタートアップは死ぬ。死ななければいずれは成功する。


アイデア

新しいものを作る6つの原則

  1. 単純な解決策を探し、
  2. 見過ごされている問題で、
  3. かつ実際に解決すべき問題に
  4. できるだけくだけた形で解決策を示し、
  5. 大雑把なバージョン 1 から初めて、
  6. 迅速に繰り返すこと

新しいものを作る6つの原則より。

良いアイデアは最初バカげたものに見える(秘密を知る、ブラックスワン)

成功した創業者は「他の人が気づいていない問題」を知っている。そして「自分が欲しいと思っており」「自分が作り出すことができ」「ほとんどの人がそれに価値があると認識していない」アイデアが最善であると言える。

技術に強い人はそれだけでアイデアという点でリードしていると言ってよい。なぜなら技術の進歩は速く、過去には実現不可能なアイデアが誰にも気づかれないうちに解決可能になっていることがあるから。若者にも同じアドバンテージがある。

ただし誰かが望んでいるものを作ること。誰もほしがらないものを作ってはいけない。ただし製品をリリースする前に誰かに製品が欲しいかと聞いても意味がないので、早くローンチしよう。そのとき、製品を大好きになってくれる少数の人たちから始めること。粗末なバージョン 1.0 のものでも、どうしても使いたいと思ってもらえるものを作ろう。多数のまあまあ好きなユーザーよりも、よっぽど良いフィードバックをしてくれる。

柔軟でいよう

ユーザーと対話してフィードバックをもらおう。そしてユーザーとの対話から利益を得たいのなら、アイデアを変更しても良いと思う必要がある。素早く繰り返してアイデアを変えられる程度に柔軟であり続けよう。

大きな問題に取り組みたいなら、正面攻撃を避けよう

小さなマーケットから始めよう。数億人が使う Web サイトを作りたいのなら、Harvard の学生が使うストーキングサイトを作ればいい。コンピュータの OS を寡占したいのなら、数千人の使うマシンのための Basic インタプリタを作ることだ。

ただし競争を避けるあまり、小さなニッチマーケットを選ばないようにすること。いいものを作ろうとすれば、競合は出てくるだろうが、それを避けずに向き合うことが重要。競争を避けると、いいアイデアを避けることになってしまう。

優れたテクノロジーで勝負するなら、小さな顧客のほうが良い。営業力では大企業に勝てないし、テクノロジーの世界では、常にローエンドがハイエンドを食っている。安価な製品を強力にしていこう。たとえば中くらいのサイズの非テクノロジー企業で、彼らがコンピュータを使って何をやっているか2週間ほど観察してみるとよい。


課題

解決すべき最良の問題は、自分が個人的に抱えている問題

Google はオンラインで情報を欲しかったから生まれた。Apple はコンピュータが欲しかったから生まれた。模倣のアイデアを避けよう。それは誰かの問題だ。自分の直接的な体験から始めたほうがずっと良い。だから「アイデアが起業に足るか?」を考えるより、単に自分が問題だと思った点を修正しよう。そうすることで最終的に多くの人が欲しがるものが作れる。

未来に生き、未来に欠けているものを作る

未来を生き、欠けているものを作ればいい。

問題は考えるのではなく、気付くものだ

起業のアイデアは「考える」のではなく「気づく」ものなのだ。Y Combinator では創業者の経験から出てくるアイデアを重要視している。今ある非効率的なものに気づけば、それは問題となりうる。それに気づくには、未来を生き、未来に欠けているものを作ればいい。そうした中で、対応可能な未知のニーズに気づけたら、それは金鉱と同様だ。金を掘り出すために一所懸命に働く必要はあるが、どこを掘ればいいか分かっていることが金鉱では最も重要だと言える。

たとえば仮にいま大企業で働いていれば、仕事をしている中で「誰かが○を作ってくれればお金を払うのに」という問題を思いつけば、それが良いプロダクトのアイデアになる。

顧客を観察する

YC のパートナーの Blackwell の起業のレシピでは「お金を持っている人々の使い方を観察し、何に時間を使っているかを見て、解決策を見つけ出し、彼らに売りつけること。利益を生む解決策は驚くほど小さく、まだ手つかずだ」とまとめている。


成長

正しく成長しているのか

大きく成長するには、大勢の人々が欲しがり、かつ欲しい人全員に届ける必要がある。ソフトウェアは届ける能力に秀でているが、大勢の人々が欲しがるものを作れるかの制約は残る。ソフトウェア企業が成長するには、大勢の人々が欲しがるものを作ろう。

初期の段階は成長しないことがある。だが人が欲しがる製品を作って届ける方法を見つければ、急速な成長が始まる。このうち、スタートアップと呼ばれるフェーズは急成長のフェーズであり、それは獲得した顧客の絶対数ではなく、既存の顧客数に対する新規の顧客の割合で測られる。

スタートアップの立ち上げとは最適化の問題だ。焦点を絞ることで効率的になる。成長率に焦点を当てれば、スタートアップが取り組まないといけない様々な問題を考える必要がなくなる。だからスタートアップは成長率に最適化していこう。

正しく進んでいるかどうかを確認するには、「どのくらいの成長率があれば、スタートアップと言えるのか」ではなく「成功するスタートアップは、どのような成長率で伸びているのか」を問う。 Y Combinator では週次の成長率を計測しており、良い成長率は週 5 – 7%。10% を達成すれば非常に好調と言える。

成長率の測定は売り上げの成長率を見るのが良い。課金をしないのならアクティブなユーザー数で測る。ユーザー数がのちの売り上げの指標となるから。

成長を追い求めれば成功する

成長を目標にすれば、次第に最適化されてくるし、新しいアイデアを持つこともできる。成長だけを追い求めるのは問題が起きるかもしれないと思うかもしれない。けれど、毎週の成長率を達成することこそが、創業者を行動させる。そして行動を起こすことが成功につながる。だから迷ったときは成長を指標にすること。成長率をコンパスにしてあらゆる判断を行う。

CEO や CTO の役割は 6 – 12 か月ごとに完全に変わる。プログラムを書く時間が半分になり、社員のさまざまな動機に対応する必要が出てくるだろう。だから気構えを持とう。そしていったん成長の軌道に乗れば、ストレスははるかに減る可能性がある。


製品開発

素早くローンチし、ユーザーと話し、改良してローンチを繰り返す

リリースして、現実のユーザーとの対話が始まってから本当の学びが始まる。

最初のバージョンはシンプルかつ最小のものから始める。プライドのせいで改良の余地のあるものをリリースしたがらないが、最初のバージョンをリリースしてから本格的な学びが始まる。自分がリリースしたものが恥ずかしくないなら、リリースが遅すぎるということを肝に銘じよう。ただしローンチは早すぎてもいけない。それ自体有用であって、徐々にプロジェクト全体へと拡大していけるようなコアを見つけて、その部分だけをリリースすること。

ユーザーと関わろう

商品開発とは、リリースしてから本当に始まるユーザとの対話だ。そしてユーザーとの対話から利益を得たいなら、アイデアを変更する必要が出てくる。起業時のアイデアは青写真ではなく仮説だ。その時に最高だと思えることをなんでもしよう。

ユーザの獲得は大変だ。製品がユーザにリーチできていないだけなのか、単に製品が悪いせいなのか、どちらかわかりづらいからだ。よい製品でさえユーザ数が減る場合がある。ユーザが何を求めているかのデータを収集する方法や、ユーザーに近づくための情報が知りたいのなら、周りのアドバイザーに相談しよう。彼らは知恵を持っていることが多い。

絶えず出荷をすることがエンジニアをエンジニアであり続けさせる

「本物の芸術家は出荷する」という Steve Jobs の格言は、単に芸術家が出荷しているというだけではなく、芸術家は出荷をしたがっているということでもある。だから出荷をさせなければ、芸術家はいなくなる。エンジニアにはコードをすぐにリリースさせて、常にエンジニアであり続けさせることが重要だ。

既存の技術の周辺には拡張できる場所がたくさんある。何を最初に作るべきか、という問いが最も重要で、どの製品を作るかについては、「その製品を作るのにどれぐらいの時間がかかるか」「ユーザはその製品のレベルの高さにどれくらい興奮するか」で何かを選ぶ。一度リリースが終わったら、ユーザーの獲得や売り込みの基本路線について話そう。


共同創業者

共同創業者は必要だ、けれど選ぶのは慎重に

スタートアップにおける共同創業者は、不動産でいう立地条件に等しい。立地条件と同様に共同創業者を変えるのは難しい。そしてスタートアップの成功は、創業者たちの働きに依存する。そして、通常、一人での創業は厳しすぎてうまくいかない。特に最悪のときに元気づけてくれる同僚が必要だ。共同創業者は必要だが、変更はきかない。慎重に選ぼう。

共同創業者は、能力ではなく性格と熱心さで選ぶこと。特に失敗する理由は、性格と熱意の不足にある。できれば1年以上の人間関係ができている人と創業しよう。それでも創業後の関係維持には苦労する。共同創業は友情ではなく結婚に近い。スタートアップは共同創業者間の子供である。

技術的なスタートアップにビジネスの得意な共同創業者が必要かと言うと、場合による。ただチームに一人は、顧客を理解し、顧客が何を望んでいるかということに喜んでフォーカスできる人間が一人は必要だ。それはもちろんビジネス側の人間である必要はなく、プログラマであってもよい。

手伝わなくても大丈夫な創業者チーム

Y Combinator では、「見込みがあるチーム」と「見込みがないチーム」と「見込みのないアイデアにはまった、見込みのあるチーム」に分かれる。Y Combinator に採用するのは、1 番目と 3 番目のケースである。

成功するスタートアップは「彼らは手伝わなくても大丈夫だ」と思われる。「本当に賢い」とか「素晴らしいアイデアの持ち主だ」と評されるのではない。

つまり成功する根拠となる気質は、精神力、適応力、決断力などが挙げられる。チームとしてそのような気質を持つ共同創業者を選ぼう。

喧嘩は必ず起こる

最高のスタートアップチームですら喧嘩をする。みなが思うよりも喧嘩は多い。喧嘩が起きたときはアドバイザーに相談しよう。きっと同じような状況を何度も見ているので、うまく仲裁してくれるはずだ。


採用

採用は十分な検討の上で行うこと

採用を行うことで余計な業務が発生し、短期的に成長率を悪化させることがある。また人を増やさずに成長率を達成し続ける方法があるのであればそうしよう。

採用に関する一般的な提案は、避けられる限りは採用せず、サラリーよりも株式で払う(献身的なタイプの人が集まる)、そしてコードを書く人か外に出てユーザーを獲得する人だけを雇う、ということだ。最初必要となるのはその人たちだけだ。

誰を雇うかを決めるアニマルテスト:「その人を動物に例えられるか?」

スタートアップにとっての優れた人は、動物のように脅迫的に仕事をする。度が過ぎて真剣で、一度始めたら仕事を止めない。営業なら商談を成立させるまで帰ってこないし、ハッカーであればコードにバグが残った状態でベッドへ行くくらいなら、朝まで起きているような人が動物であると言える。デザイナーなら、2ミリずれていると肉体的苦痛を感じるような人が好ましい。

雇う人が動物的であるかどうか、を問おう。頭が良くても、動物的でなければスタートアップには向いていない。

出来の悪いプログラマを雇わない

プログラマはアニマルテストのほかに、「純粋に頭がいいか」そうであるなら「物事を成し遂げるか」、そして最後に「一緒にいて耐えられるか」をテストしよう。態度が大きな人間は、頭がいいわけではないケースが多いので、おおよそ最初のテストで落ちる(頭のいい人間は自分の頭が良いと見せかけようとしない)。

そして優れたプログラマは、ビジネス屋の言われたままのことを実装する仕事はやりたがらないと肝に銘じよう。


資金繰り

ラーメン代を稼げば資金調達のやり方が変わる

日々の生活費(最低食費のインスタントラーメンを毎日食べられる程度の収益)を稼ごう。そうすれば生き残るための資金調達が必要なくなり、創業者と投資家の関係性は一変する。投資家に強く出れるようになるし、もとより投資家も自分たちの投資が必要のないスタートアップが好きなのだ。ラーメン代を稼いでいれば、起業家たちにお金を払ってくれる顧客がいて、人々が望むものを作っており、コストを意識しているということが投資家たちにも伝わる。それはこのスタートアップがお金を儲けようとしている姿勢を投資家たちに示している。

またラーメン代を稼げるようになれば、士気が上がる。だんだん自分の生活費を稼いでいる気になり、企業になったと感じ始める。自分たちの生活費を稼げるようになるのが、その重要な分岐点で、その時点から倒産ではなく存続がデフォルトになる。

何より、資金を調達する必要がなければ、資金調達のために仕事を中断しなくて済む。資金調達中の仕事の中断はスタートアップにとっては致命的になりうるので、常に「この資金調達が最後の資金調達だ」と思うようにしよう。

支出を下げよう

資金難になった時には、たいてい人を削るしかない。人を首にするにはハードであるが、今がその時だと思うしかない。全員のサラリーを減らすことは得策ではない。

(もしそれが適切であれば)コンサルティングをできるようにしておく

コンサルティングをすれば、ラーメン代を稼ぐことはできる。けれどコンサルティングはスケールしない。月 3,000 ドルのコンサル会社になるのは簡単で、急場はしのげるだろうが、それは安売りする契約するプログラマとなることと同義だ。それに受託やコンサルティングは本来苦手な部分をやらされるケースもある。

ただしコンサルティングに良い面もある。ユーザーをより深く理解できる。またソフトウェア販売では捕まえられない顧客を、コンサルティングであれば捕まえることができるかもしれない。


資金調達

資金調達はスタートアップにとって妨害である:それでも資金調達は必要だが

資金調達が必要なのは、生き続けるためか、急成長をするためだ。スタートアップは十分な顧客や収益をすぐに生まず、時間がかかる。そしてどれぐらいの時間がかかるかは、やってみないと分からない。資金調達をしないとスタートアップは大成功はしないが、けれどスタートアップにとって資金調達は脇道である。

資金調達期間は驚くほどにそれ以外のことが進まなくなる。下手をすると数か月仕事が止まる。資金調達は誰か一人専任でアサインして、他の人はプロダクトに集中しておくべきだ。会社のリソースが減るが、それでもこれが最善の手と言える。

資金調達すべきタイミングは、急成長するために資金が必要で、かつ急成長のポテンシャルがあるときにのみすべきだ。

資金調達モードに入っていないのであれば、投資家とのミーティングは避けよう。依頼があっても丁重にお断りするべきだ。

資金調達モードに入るのなら、できるだけ短期間で終わらせるよう心掛けること。さっさと終わらせて仕事に戻ろう。長期間減速してしまうのはスタートアップにとって最悪の事態だし、スタートアップは資金不足なので、交渉が遅れればスタートアップが譲歩することが多くなる。投資家が興味を持っているなら、投資家を座らせず、熱意のある状態で小切手を書かせる。

投資を受けるかどうかの判断は、 1/(1 – n) の方程式で考えること。手放したもの (n) により企業価値が大きくなればいい。

調達したお金を使わないこと

大きな金額で急成長を目論み、多くの顧客を得ようとすると、多くの人を早く雇い入れることにつながる。一番のお金の使いどころは人を雇うところだが、ただしそれは一般的に良い手ではない。資金調達した資金のベストな使い方は、お金を使わないこと。バーンレートを下げよう。

それに大きな資金を使うのに忙しくなりすぎてはいけない。顧客が本当に欲しいものを作ることにフォーカスするべきだ。

資金調達にあまり期待しないこと

資金調達は期待するよりはるかに困難であり、スタートアップに失望を生む。失望はスタートアップを殺すだろう。


投資家

投資家の仕組みを知ろう:彼らがなぜ臆病で悪徳なのかが分かるから

投資家は無能なのが普通だ。投資家は自分たちの理解していないものに対して決定を迫られ、そしてしばしば間違う。理解していないことに対して決断をしなければならないので、投資家は臆病になり、起業家を振り回すことすらある。

VC が臆病なのは主に給与体系のせいだと言える。VC では通常、ファンドの 2% を年間の運営費(ベースの給与)として取り、利益の 20% をインセンティブとしてもらう。1人では多くの取引を管理できないから、それぞれの取引は大きくならざるを得ない(巨額の資金は時にはスタートアップにとって悪いことですらあるというのに)。そのため臆病にならざるをえないし、悪徳に行動せざるをえない。また投資家にとって、事実上すべてのリターンはわずかな企業から来ており、他のスタートアップはコストとなることを起業家側も知っておこう。

新米と二流の VC を避けよう。新米は怖く見えないが神経質で危険かもしれない。新米の投資家から資金を得たいなら、主導権をこちらで握るか、他の投資家が主導権を持っているラウンドの一部に使おう。二流の VC には通常一流の VC を断られた案件しか来ず、自分より優秀な創業者と働かなければいけないケースが多い。選べるなら、極力二流は避けるべきだろう。

投資家は「他の投資家が投資している」という事実に最も大きな影響を受ける。資金調達の交渉中、VC に他の交渉している VC のことを聞かれても答えないようにしよう。エンジェルは協調して、VC は徒党を組んで企業価値を低く見積もるときがある。それに「他の投資家が投資している」という性質がある以上、最初の投資家の説得はつらいが、二人目以降は簡単だ。

創業者は投資家を管理する必要がある

スタートアップが投資家を必要としているのと同様に、投資家もまたスタートアップを必要としている。ファンドのリターンを生むために、特に成功しそうなスタートアップに投資をする必要がある。

投資家は有用な洞察を持っているかもしれないので、無視すべきではない。ただし牛耳られないようにスタートアップ側が管理する必要がある。最近はシリーズ A 後もスタートアップの経営権をスタートアップ側が持つことが普通だ。


ピッチ

「自分たちが何をしているかを説明する」ことと「なぜユーザがそれを望むかを説明する」ことの 2 点を達成することに絞る

漠然とした説明より限定した説明のほうを選ぶ。何でもできる、という説明は内容がゼロに近づく。

上記 2 点以外の副次的な話には時間を割かないようにする。競合は3社ぐらいリストし、違いを一行で説明する程度でいい。

早くにデモを持っていき、ユーザーのことを話す

ビジネスモデルについてはくどくどと話す必要はない。短いピッチの時間で投資家はビジネスモデルを聞きたがらないし、初期の段階のビジネスモデルは間違っていることが多い。そしてデモはどんな言葉よりも雄弁に語る。早くデモをしよう。

ユーザーの話をしよう。投資家が恐れるのは、起業家が独りよがりの理論に基づいて、誰もほしがらないものを作ることだ。人がすでに大金を払っているなら、ユーザーのニーズが発見できているサインである。

投資家の記憶に残るキャッチフレーズを作ることを忘れないように。投資家はたくさんのピッチを聞いていて、時間が経つと忘れてしまう。忘れられないように、記憶によく残るフレーズを作り上げておこう。

まずは熱心な投資家に Yes を言わせる

投資家が一番「Yes」と言いそうなものに焦点を絞ること。投資家の価値は、金額×Yesの可能性であらわせる。後者に焦点を絞るべき。一人の投資家が「Yes」と言えば、他の投資家も急速にあなたに興味を持ち始める。なので熱心な投資家を説得することが、あまり乗り気ではない投資家を説得する最高の方法と言える。


意思決定

スタートアップに関する直観は信じないこと(ただし人材に関する直観は信じよう)

スタートアップは多くの間違いを犯して、Y Combinator のパートナーからのアドバイスを「ちゃんと聞いておけばよかった」と後で後悔する。これはスタートアップに関する決定が反直観的だからだ。だから自分の直観のみに従わず、メンターの言うことに耳を傾けてみよう。納得いかなければ、何故そうなのかと Sam Altman のように楯突いてみること。

ただし人に関する直観は信じていい。若い創業者の犯す間違いの多くは、人に関する直観を十分に信じきれないところから生まれる傾向にある。

成功できるかどうかは決断力で決まる。余計なことに気を取られるな

スタートアップが成功するかどうかは、創業者の知能や才能ではなく、決断力で決まる。技術的なスタートアップのほうが治世の重要性が増すように見えるだろうが、究極のハイテク産業でさえ、成功は知能よりも決断力にかかっている。

決断力は頑固さであり、頑固なだけでなく自分に厳しい必要がある。自分の頑固さを自制心でバランスし、そして野心がなければならない。大きな仕事をしようと決意したら、周りに誘惑が増えるので、それに応じて自制心を強くする必要がある。自制心がなければ、だんだん頑固さが優勢になり、達成できるものは平凡なものになるだろう。

何より気を散らすものほど、スタートアップを破滅させるものはない。

良い後回しをしよう

大きな仕事のために、小さな仕事を放っておこう。仕事ができる人はみんな後回しの達人だ。やることなんて無限にあるし、何かしていたら他のことは何にもできない。だから後回しを回避するのではなく、良い後回しをすること。

真の仕事にはまとまった時間と、良い雰囲気が必要だ。時には義務的な仕事を全部後回しにする。スタートアップは常に自分ができる最良の仕事は何か、なぜ自分がそれをしていないのかを問おう。それは楽しくないことかもしれないが、やろう。


仕事

面倒で退屈で嫌な仕事 (schlep) は定義上避けられない

凄い仕事をしたいなら、面倒で退屈な仕事は避けられない。プログラムさえ書いていればスタートアップが成功するわけではない。企業は企業が引き受ける面倒な仕事によって定義されると言っても良い。大きな仕事であればあるほど、面倒な仕事が伴い、それから逃げてはいけない。逃げなければ、それは大胆なアイデアとなり、価値は倍増する。Stripe は決済という大胆で面倒なアイデアに愚直に取り組むことで、アイデアの割安株を手に入れたも同様だった。

動きの遅い組織と接触する方法は、彼らとの付き合いを本業から分離することだ。そして取引先から拒絶されることを受け入れよう。投資家は持ち込まれるプランのうち 1% 程度しか投資しないし、顧客だってほとんどの人が断るだろう。

アドバイスを得よう

多くの Y Combinator で喋る人の多くのアドバイスは一貫している。アドバイスに耳を傾けよう。アドバイスを得るためには、起業家を助けてくれる人のいる環境に身を置こう。誰かが強い興味を持ってくれるだけでもスタートアップの助けになる。

コミュニティの価値も高い。スタートアップ同士の、ボランティア精神にあふれるやり取りがスタートアップに貢献する範囲は計り知れない。それにスタートアップにとって財を成すのはゼロサムゲームではない。助け合おう。

スタートアップは職務 (job) ではない

スタートアップは職務 (job) に似ている、とみんな予想する。だが、実際には違う。スタートアップは共同創業者を選ぶのに慎重になる必要があるし、人間関係の維持に気を遣う必要があるが、職務で同僚を選ぶ必要はない。職務 (job) のメンタルモデルを捨てよう。スタートアップで酷いことが起こることが信じられないなら、それは過去の job のイメージに引きずられているからだ。スタートアップは職務 (job) ではない。酷い思いをしたときは、そう考えよう。


失敗

スタートアップを殺す失敗は「ユーザが欲しがるものを何も作らない」という 1 個だけ

スタートアップは資金がなくなり死ぬが、資金難はスタートアップの死ぬ真の原因ではない。真の原因は「ユーザーが欲しがるものを何も作れなかった」というただ一つの原因である。試験勉強や大学受験のような、試験をパスするためのコツを探すのはやめよう。我々は学校教育に毒されすぎており、どこかにスタートアップが成功するコツがあると信じているが、実際にはほとんどない。市場は学校よりも厳しい。スタートアップはユーザーの欲しいものを作ればいいが、それが最も難しい。

多くの失敗の脅威に晒されるが、多くの失敗は脅威ではない

スタートアップにとって目立つ失敗は、見た目ほど脅威ではない。スタートアップにとって失敗はいつものことで、きちんと対処すれば致命傷にはならない。そして YC で喋るような有名なスタートアップですら失敗することを知ろう。対抗となる特許が見つかっても、サーバーがダウンしても、技術的な問題に出くわしても、きちんと対処しよう。

直観に反するが、スタートアップは競合の出現ではほとんど失敗しない。競合に過剰反応する理由の一つは、アイデアを過大評価しているからだ。重要なのは実行に移すことで、そして結局自社のプロダクトとユーザーの獲得が最も大変なのだから、プレスの発表に惑わされてはいけない。大企業の競合が出てきても気にするべきではない。Google が似た製品を作っても、彼らは倒産する危機感がないし、行動を遅くする官僚的な手続きがあるので出し抜ける。

ただしまだ存在知られていない競合には気を付ける。すでに存在する競合だけを見ていると安心してしまいがちだが、他の人が実現する可能性がある何かとは競争するべきだ。気を抜けば彼らは物凄いスピードで追いついてくる。

柔軟であり続け、目標を絞り切る

フォーカスを失うのに最悪なのはお金を得られるサイドビジネスやコンサルティングだ。現在の顧客の電話に対応して中断したり、資金調達のためのミーティングをしたりは、すべてスタートアップがフォーカスを失う原因となる。

失敗した起業家とは、会話が成り立たない場合が多かった。彼らは柔軟ではなかった。失敗した起業家は、言われたことをすべて実行する能力はあったが、言われた言葉の先にある嬉しくない結論に到達したときに、嫌でもやることをしなかった。つまり本気にはなれなかった。賢くてもやる気を失ってはいけない。それを知っているのはきっと助けになるだろう。


メンタル

スタートアップは生活を支配し、感情を激しく揺さぶる

どのスタートアップでも、想定していた以上にスタートアップは生活を支配する。そして感情を揺さぶられる経験を多数味わう。素晴らしいと思った瞬間を味わってから、数時間後に絶望へと変わることもある。それを想定しておこう。 そしてその最悪の想定をも上回る最悪なことが起こるのも想定しておこう。

立ち直る力が必要

取引の多くは失敗する。期待しないようにしよう。そしてたとえ落ち込んでも諦めてはいけない。諦めないようにするだけで、驚くほど遠くへ行ける。プロダクトを改善する手を止めず、改善を続けること。 落ち込まない。スタートアップが倒産する直接的な原因は、資金不足であることが多いが、真の原因は目標を絞り切れず、やる気を失ってしまったときだ。諦めるな。

粘り強く、したたかであり続ける (relentlessly resourceful)

素晴らしい起業家を2単語にまとめると relentlessly resourceful といえる。正反対の単語は hapless だ。人々が欲しいものを作る、はゴールだが、relentlessly resourceful であり続けることはゴールに到達する方法と言える。

運は重要

製品の販売の成功率は、技術×粘り強さ×運であらわせる。失敗した起業家は自分たちを責めがちだが、運がゼロならすべて失敗する。普通、成功した起業家は自分たちが幸運に恵まれていたことを知らない。運は普通の人たちにとってはとても重要だ。ハッカーは技術に最高の価値を置き、期待通りのものを得ているだろうが、ビジネスはそうではなく、運が重要だ。だから運が来るまで粘り強く、したたかであり続けよう。

目次

参考文献

原則

アイデア

課題

成長

製品開発

共同創業者

採用

資金繰り

資金調達

投資家

ピッチ

意思決定

仕事

失敗

メンタル

基本的にすべて Paul Graham 氏の洞察であり、本まとめ主のものではありませんが、誤解があればまとめ主の責任です。

顧客インタビュー相手の見つけ方

顧客インタビューの方法は多数語られています。しかし一方で、「顧客インタビュー相手の獲得方法」はそこまで多くの言及されているわけではありません。しかし多くのスタートアップから、「顧客インタビューの相手が見つからない!!」というにはしばしば聞く共通の悩みです。

もしあなたが「そもそも顧客インタビューの相手が数人しかいない」という状況なのであれば、それはとても悪いサインでしょう。その領域に明るくない、ということだからです。

しかし仮に多くの知り合いがいたとしても、10人から20人程度で自分の知り合いの在庫がなくなってしまいます。

なので、最終的にはインタビュー候補の新規開拓をしなければなりません。そこで私たちの経験から、顧客インタビューの相手の見つけ方と、実際の獲得率(返答率)を紹介します。

サービス 返答率
機縁法 20%
ランディングページ 30%
Twitter 10 - 5%
Facebook ?
イベント ?
カンファレンス ?
ゲリラ 1%
yenta 10%
VisasQ ?
Time Ticket ?
クラウドソーシング ?
LinkedIn 3%
お問い合わせフォーム 5%

返答率をもとに、だいたいどれぐらいの人たちにリーチすれば、何人ぐらいから回答が貰えるのかが計算できるようになるはずです。たとえば 20 人必要であれば、「返答率 10% の方法を使って 200 人ぐらいにリーチすればなんとかなるかも」といった風にです。

インタビュー相手の獲得手法の紹介

紹介

人を介してインタビュー相手を見つける方法です。機縁法とも呼ばれます。

ヒット率は高いものの、それほど数多くいるわけではないところがネックです。また、インタビュー相手と仲介者がどれぐらい仲が良いかによって、返答率は変わってきます。

ランディングページ

ランディングページ MVP を作って、そこに事前登録してもらうのは一つの手です。登録者にはイノベーター層が多く、比較的多くの人が顧客インタビューの相談に乗ってくれます。

ランディングページ自体を告知することに手間がかかります。しかし見知らぬ人に顧客インタビューをお願いするときには、自分たちのことを説明する資料が必要になるため、そうしたときのためにもランディングページはあったほうが良いでしょう。

メール登録付きのランディングページは Mailchimp などで簡単に作れます(後日解説します)。

アンケートからの個別ヒアリング

アンケート自体で顧客の本当のニーズが分かることはほぼありません。「こんなに多くの人が私たちのアイデアを良いと言ってくれました!」と言ってアンケートのデータを持ってきても、説得力はほとんどないことが多いです(それが何十人であっても)。なぜならアンケートではユニークな洞察が得られることが少ないからです。

しかし簡単なアンケートを作ったうえで、連絡先を教えてもらい、そこから個別インタビューをさせてもらうことは効果的です。フットインザドアのテクニックとして、アンケートを使ってみる手法です。

Twitter

Twitter でキーワードサーチをして、それらしき人にメンションを飛ばしてみてください。体感として、初期は 5 - 10% ぐらいの方々が返答をしてくれます(返答してくれそうな人を選定できるため)。

キーワードで検索して引っかかる人がほとんど出てこなければ、同じような課題を持っている人が少ない、という悪いサインなのかもしれません。

Facebook & Facebook Group

Facebook Group を検索して、グループを探してみると意外と見つかることもあります。そうしたところに投稿してみるのも良いでしょう。ただ人数が多いグループほど返答率は悪くなります。

一度知り合った人に「どういうFacebook Group で情報を得ていますか?」と聞いてみると、意外なコミュニティが見つかることもあります。

イベント

Peatix, Connpass, Meetup などのイベントサービスで、領域に関係するコミュニティを見つけるのも一つの手です。直近のイベントに参加してみて、そこから輪を広げていきましょう。LTの機会などがあれば登壇もしてみましょう。

コミュニティから顧客インタビューは時間はかかりますが、投資対効果の高い方法だと思っています。また自分でイベントを開くのも手です。そのトピックに対して熱量の高い人たちが集まってくるはずです。

カンファレンス

ビッグサイトなどで行われている特定テーマごとのカンファレンスは、業界の動きを知ることができるだけでなく、特定の業種の人たちと知り合える機会としても使えます。

ただそこまで獲得率は高くない…という印象です。

ゲリラ

カフェなどで行うゲリラインタビューです。一般的な消費者向けアプリを考えているときには役立つかもしれません。

ただターゲットユーザーがいることは少なく、正直あまりヒット率はよくありません。またカフェなどで行う場合、カフェの店員さんなどもあまり良い顔をしません。やるときは注意してください。

yenta

ビジネスマッチングアプリです。5 - 10% 程度の確率で会える印象があります。特にB2B系のサービスを考えているときには便利です。

ただし業種を絞れば絞るほど該当する人は少なくなるため、コンタクト先がすぐに尽きてしまう可能性もあります。

VisasQ

スポットコンサルティングの visasQ は専門家に会えるサービスです。それなりにお金を支払う必要がありますが、高い確率で該当する人に会えます。

Time Ticket

タイムチケットも専門家に会えるかもしれないサービスです。B2B 向けサービスを考えているときなどに使える選択肢です。

クラウドソーシングサービス

クラウドソーシングのサービスを使って、該当しそうな人にお願いするのも一つの手です。それなりのお金を支払う必要はあるのと、専門家へのリーチが少し難しいときがありますが、一つの手として知っておくと良いと思います。

クラウドワークス、ランサーズといったクラウドソーシングサービスもあれば、ココナラなどのスキルシェアサービスも一つの出会い方かもしれません。

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まだそれほど日本人の登録は多くはないものの、相手のビジネスバックグラウンドが分かるため、B2Bビジネスを行うときには便利です。

連絡してみると 2 - 3%ぐらいの確率で返答があります。

お問い合わせフォーム

もしあなたがユニークな製品を開発しているのであれば、各企業のお問い合わせフォームから問い合わせてみると、意外と返答があります(驚くかもしれません)。

ただ問い合わせフォームを見ている人は、おそらく担当者ではないでしょう。「適切な担当者に繋いでいただければ」という風なことを書いておくほうがベターです。

顧客インタビューの際

顧客インタビューの際にはぜひテンプレートを使ってみましょう。

インタビュー質問の例(1)

東工大EDPが、リーン顧客開発の質問をベースにPDFにしてくれています。ぜひ印刷して持って行ってください。

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顧客インタビューの質問テンプレート

またインタビューの最後に「知り合いを紹介してくれませんか?」というのを必ず聞くようにしてみてください。

インタビュー質問の例(2)

Y Combinator の顧客インタビューの授業では以下の5つの質問が紹介されています。

  1. あなたが解決しようとしていることに関する、一番の難題は何ですか?
  2. その問題に最後に直面した時のことを教えてください
  3. それが困難だった理由は何ですか?
  4. その問題を解決しようと思って、したことがあれば教えてください
  5. これまで試したソリューションのなかで、気に入らなかった点は何ですか?

PDFにはなっていませんが、使う場合は必ず印刷して持って行くようにしましょう。

インタビュー後

インタビューしてくれた人には必ずお礼をしましょう(もし仲介者がいるのであれば、そのインタビュー相手を紹介してくれた仲介者にもお礼の一報を入れておきましょう)。

礼儀として、という側面もありますが、一度インタビューに乗ってくれた人に対して改めてインタビューをしたくなるタイミングは必ずやってきます。その際に、もう一度インタビューをお願いできる関係性を構築しておくことは大事です。

またそうした関係性が構築できていれば、毎回大きな工数をかけてインタビュー相手を探さなくても良くなります。

自分たちのサービスを応援してくれる人たちのコミュニティを作っておくことは、中長期的にサービスへの改善に役立ちます。ぜひインタビューに乗ってくれた人たちを大切にしてください。

参考文献

FoundX Resources の顧客インタビューの項目も参考にしてください。