🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

DX と EX

DX (デジタルトランスフォーメーション) という言葉を頻繁に聞くようになりました。「あらゆる企業がデジタル企業になる」と言われる中、デジタル技術をうまく会社に取り込んで、どの企業も取り組んでいるようです。

一方、100年前の人類も同様に新技術をうまく採用しなければならない状況でした。それが電気です。「あらゆる企業が電気企業になる」と言われると今ではとてもおかしく聞こえますが、100年前の人たちは蒸気機関から電力への移行に一所懸命に取り組んでいました。では先人たちはどのように EX ―― エレクトリック(電気)トランスフォーメーションを成し遂げたのでしょうか? それを少し振り返ってみることで、現在のDXへの示唆があるかもしれません。

それに対する興味深い解説として、Tim Harford の記事があります。この記事では、新しい技術に産業が最適化されなければその技術の性能は十分に発揮されないということを、第二次産業革命における電気の段階的な受容を描きながら解説しています。この記事は主に彼の論に寄りかかりながら、EXがどのように起こってきたかを振り返ります。

科学から産業になるまで

第一産業革命は蒸気機関の登場を受けて、1700年代後半から1800年代前半にかけて起こったと言われています。その約100年後、第二次産業革命は1800年代後半から1900年代前半にかけて、化学、石油、鉄鋼、電気の技術発展によって起こりました。その中で電気に焦点を当てて、どのように採用されていったかを見てみましょう。

電気に対する科学的な発展は、産業応用の前に起こっていました。たとえばオームの法則が発見されたのは1827年、ファラデーが電磁誘導現象を見つけたのは1831年、マクスウェルが「電気と磁気」を発表したのが1873年です。(Wikipedia より)

産業で電気が活用され始めるのはそのあとです。

1881年にエジソンが電気生成工場を作り、それから約一年で電気の供給を開始し、そして工場を稼働させるための電気モーターの販売が始まりました。

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https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Thomas_Edison,_1888.jpg

しかし1900年までに電気モーターで動くアメリカの工場は5%以下にとどまったとされています。

どうやら140年前の人々も、電気の登場からしばらくの間、電気をうまく産業で扱えていなかったようです。それはなぜなのでしょう?

電化前の工場

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United States public domain / https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bild_Maschinenhalle_Escher_Wyss_1875.jpg

電気が当たり前になるまで、工場は蒸気機関で動いていました。蒸気機関で動く工場は、単一の蒸気エンジンが動力源です。エンジンで生まれた動力はベルトとギアを伝わり、ハンマーやパンチ、プレスなどのすべての機械に伝えるようになっていました。ベルトとギアを使うと必然的に動力のロスが発生してしまいます。遠くまで力を伝えようとするとロスも大きくなり、その結果、工場を大きくすることもできません。

また工場は危険極まりないものでした。たとえばベルトには作業者が挟まってしまい、引き込まれてしまう危険性が常にありました。さらに火が隙間から広がるのを防ぐために、ベルトタワーがそれをすべて囲み、給油もしなくてはなりませんでした。

メンテナンスも大変です。蒸気エンジンは停止することはほとんどなく、常に石炭を供給する必要がありました。

場所の問題もあります。蒸気で動く工場は暗く、シャフトの周りにすべてが設置されていました。またエンジンはとても巨大なため、工場の外に出て、二番目の建物に蒸気機関を設置することもありました。

電気による工場の変化

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:LongBeachFord.jpg

では電気で稼働する工場はどうでしょうか。

動力と言う観点では電気モーターは蒸気機関の代替品と見ることができます。蒸気機関から電気モーターに単に置き換えるということも可能です。一方で、初期の電気モーターは安定しなかったようで、素材や技術の課題を解決する必要があり、動力と言う観点だけでは蒸気機関の下位互換程度のものだったのではないかと推測します。

しかし電気モーターはもっと様々なメリットを有していました。

たとえば、小型の蒸気エンジンはとても非効率的ですが、小型の電気モーターは何倍も効率的に動きます。そのため工場には小さな電気モーターを複数設置することが効果的になりました。たとえばすべての作業台に電気モーターを置くことで、蒸気エンジンのように中央からベルトで動力を伝える必要がなくなります。その結果、従来のドライブシャフトを中心に考える蒸気機関とは全く異なる配置の工場設計ができるようになりました。あのヘンリー・フォードは「これによって機械を作業順に置くことができるようになり、産業の効率が2倍になった」と述べてます。

さらに蒸気機関は常に動いていなければなりませんでしたが、電気は蒸気機関のように常時稼働する必要はありません。そして石炭などが不要になったため、そこで働く作業員はよりクリーンな環境で働くことができるようになりました。ベルトに巻き込まれることもなくなり、より安全になりました。電気が通じることで電灯を設置できるようになり、工場は明るくなって、様々な時間帯で工場を稼働することができました。

1920年代になり、ウェスティングハウスの中央発電所が登場し、安定的に電気を供給できるようになりました。こうした変化が積み重なった結果、電気はプラットフォームになり、そして工場がそのうえで動くアプリケーションとして稼働するようになって、1920年代に入って工場の生産性が劇的に向上した、と言われています。

つまり電気という新しい技術のポテンシャルを十分に活かすには、一部の蒸気機関が行っていた業務を電気に置き換えるだけでは不十分だったようです。電気の力を使うには、工場の設計そのものを変えていかなければなりませんでした。そして全く異なる設計で作った工場は、これまでと異なるビジネスモデル(大量生産)を可能にしていきました。

第二次産業革命の場合、そこに辿り着くまで約50年の年月を要しています。

社会

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https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Tokyo_Dento_Company_advertisement_in_1930s.jpg

これは単に技術の問題だけではありません。社会も同時に変わっていかなければ、その技術のポテンシャルを活かすことができません。

日本の場合を見てみましょう。東京電力の前身である、日本初の電力会社である株式会社東京電燈が生まれたのは1883年です。その後、1886年に活動開始、1887年に電力の送電が開始されたとされています。

1891年、漏電が原因と思われる国会仮議事堂の焼失によって、電気事業の保安管理の必要性が認識されるようになったことから、逓信省が監督責任を負うようになりました。そして1911年にいわゆる旧電気事業法が制定されました。そして1965年には新電気事業法が施行されています。つまり法律も徐々に制定されていきました。

教育も見てみましょう。電気工学が日本で学位として提供されるのは1886年です。それまで電気は物理学の一部として教えられていました。電気主任技術者という資格が生まれたのは1896年です。ただこのときは試験などはなく、学識経験者が選出されていたそうです。そして1911年の旧電気事業法と同時に、資格も試験制度が導入され、学歴がない人も電気種に技術者になることができました。

その後、1930年代に戦争の影響で、東京電燈は国策会社となっていきます。

電気という今ではありふれている技術ですら、このように数十年の時を経て、ようやくその真価を発揮できました。それには技術の進歩や最適化もそうですが、社会や教育も同時にその技術に合わせて変える時間が必要だったということです。

示唆

かつてあったEXで、個人的に面白いと思ったのは以下のようなものです。

  • 工場の全体設計を変えないと技術を活かせない
  • 電力のようなプラットフォームも、キラーアプリケーション(電燈)から始まっている
  • インフラになるにつれて国有化される(初期の蒸気鉄道も私有会社から始まりました)

そこから個人的にはDXについて、以下のようなことを考えます。

  • 単に一部の業務効率化を行うのではなく、情報技術を軸に産業構造や業務プロセス、ビジネスモデルを変えるのが DX
  • 情報技術がインフラ化してくれば国有化も選択肢(GAFAMの議論でもありますね)

たとえば製造業におけるサブスクリプションや従量課金というビジネスモデルが、ユーザーがどれだけ使ったかをリアルタイムで把握できる、という情報技術の発展により可能になったビジネスモデルであり、それがデジタル時代に最適なビジネスモデルだとすれば(これは仮定です)、そうしたビジネスモデルに合致する事業に変身するのがデジタルトランスフォーメーションなのかもしれません。

こうした産業の組み換えについては、少し前にPodcastで話したことでもあります。

review.foundx.jp

Carlota Perez の S カーブなどを参照しつつ考えてみると、第四次産業革命や Society 5.0 と呼ばれる現在の情報産業の隆盛は、まだ始まったばかりのように見えます。各国が新しい技術を導入したというニュースがたびたび巷を騒がせますが、単一の技術の導入が大きな差をつけるとは考えないほうが良いでしょう。むしろこれからの十数年で、情報技術を軸にした最も効率的な新しい産業や社会の形を見つけることが、おそらくDXというものが成功するかどうかの分かれ目なのではないでしょうか。

スタートアップはアドバイザーに株を簡単に渡さないほうが良い(渡すとしたら 0.1% ぐらいから)

最近スタートアップのアドバイザーになる人が増えてきているようで、それ自体は良いことだと思うのですが、アドバイザーに多くの株やストックオプションを渡してしまう起業家(特に初回の起業家)が中にはいるようです。

配分を考える前に:出資してもらえないかを考える

ただ個人的には、アドバイザーには基本的に株を渡さない、という姿勢を基本的にはお勧めしています。そもそも善意の人なら無償である程度は応援してくれるはずですし、本当に事業に可能性を見出してくれているならフルタイムで参加してくれるはずです。可能性を感じてくれているものの関わることが時間的に難しい人であれば、エンジェル投資をお願いをしてみてください(Venture Hacks でもまずはそうお勧めされています)。

またアドバイザーの評価は、相談時間を確保してくれるとか、インプットをしてくれるとか、あるいは箔がつくとか、そういう評価基準ではなく、結果や成果(採用や商談、紹介など)をきちんと持ってきてくれるか、という評価基準を持って、アドバイザーとして適切かどうかを判断することをお勧めします。おおよそ私の知る範囲では、箔をつける目的で株を偉い人に渡してもほとんど何の効果もありません(動いてくれません)。

配分の基準

そのうえでスタートアップに継続的に価値を提供してくれる人だと判断したなら、現在の会社のステージとアドバイザーのコミットメントレベルに応じて株の配分をすることをお勧めします。

たとえば Founders Institute では FAST (Founder / Advisor Standard Template) というアドバイザー契約のテンプレートを提供しています。FAST では以下のような配分が提案されています。

FAST v2 の表を翻訳

それぞれのステージについてはアイデアステージが「全員がパートタイム」、スタートアップステージが「最初の従業員を見つけるところ」、グロースステージが「ある程度トラクションが出てきたところ」と、契約書テンプレート中にガイドラインが書かれています。

また FAST では 3 か月のクリフと 2 年間の毎月のべスティングも設定されていて、アドバイザーの存在が有効でないと初期に分かった場合のダメージも少ないようになっており、個人的にもこれぐらいのクリフとべスティングの条件があってもよいと感じています。

別のソースですと、Venture Hacks の 2008 年の記事では、ポスト Series A で標準的なアドバイザーは普通株で 0.1–0.25%、会社の進捗をかなり手伝ってくれるスーパーアドバイザーなら 1 - 2% という基準が提案されており、また Series A 前ならそれらに対して 30–50% ぐらいアップさせる、という基準が提示されています。

また別の Silicon Hills Lawyer は、Pre-equity ラウンドで 0.25–0.50% が通常で、1% はとても戦略的に獲得するアドバイザーだとしています。

いずれにせよ、従業員がわずかしかストックオプションを持っていないのに、週に一度も顔を見せないアドバイザーなる人が多くの株を持っている状況では、日々価値を生み出している従業員のモチベーションが上がりづらくなってしまいます。そうしたことを考えながらアドバイザーへの株の配分を考えてみることをお勧めします。

(追記) あくまで US や英語圏で、 シリアルアントレプレナーや業界のレジェンドがアドバイザーとして入る際のガイドラインであり、日本だとここまで貢献できるレベルのアドバイザーを探すのが難しいため、日本でのガイドラインとしては正しくないのでは、という指摘を受けました。私も基本はアドバイザーに株を渡さないことをお勧めしています。上述の通り、あくまで渡すに値する人がいた場合の参考ケースだとご承知おきください。たとえば日本だと、関連する技術を長年かけて開発してきた教授レベルの人がアドバイザーに入るケースなどは一つの参考になると思います。また計算の時には、Paul Graham の Equity Equation の考え方を参考にしてください。

アドバイザーの効用

なお、アドバイザーやメンターが不要かというとそんなことはなく、Stanford 大学の Startup Genome Report によれば、良いメンターを持っているスタートアップは資金調達額が多いそうです。また Spotify の初期のグロースは Facebook の Open Graph をうまく使ったからであり、それはFacebook の Sean Parker が Spotify のアドバイザーに入っていたことが影響したのでは、という話もあります。このように成長に寄与してくれる人にはきちんと対価を支払うつもりでいたほうが良いかと思います。

技術顧問的なアドバイザーボードについては以下のポッドキャストなどがお勧めです。

https://a16z.com/2015/09/21/building-the-right-technical-advisory-board/

※この記事は2018 年に投稿した記事の改稿版です。日本でも相場観を醸成していくのが大事なのはないかなと思います。

Paul Graham からのスタートアップへのアドバイスまとめ

Paul Graham のエッセイを読んで、自分なりにまとめたものです。今でも見返すと示唆があるので、読みやすくなるようブログでも書いておくことにしました。Paul Graham のエッセイの翻訳はこちらでリストになっています。ぜひ原文も当たってください(文末に参照先を書いています)。

昔書いたスライドからの転載です。

www.slideshare.net

原則

Make something people want 「人々の欲しいと思うものを作ろう」

スタートアップにとって一番難しいのは、人々の欲しいと思うものを作れるかどうかである(二番目は資金調達)。人々の欲しいと思うものを作れるまで、粘り強くかつ素早くローンチを繰り返し、諦めないこと。

ユーザーを知ろう

ユーザーのことを知っていれば、状況が最悪になっても士気を保てるし、製品を愛してくれるユーザーが10人いるだけで仕事を続けることができる。

スケールしないことをしよう

ユーザーを知るためには Do things that don’t scale – スケールしないことをしよう。そうすれば顧客に対して驚くほど良いサービスを提供できるし、顧客のことをよりよく知ることができる。少数のユーザーに愛されるほうが、多くの人に好かれるよりもよっぽど良い。

スタートアップ=成長

スタートアップとは、新しく設立された企業ではなく、テクノロジー分野での起業でもない。上場や M&A がスタートアップではない。スタートアップに必要不可欠なことは「成長」だ。他のすべてのことは成長を達成するための要素にしか過ぎない。

進む方向を間違えたら、決して成功しない。だから成長を追求することを忘れないこと。成長を追いかければ、他のこともうまくいく。迷ったときは、成長するかどうかをコンパスにすればいい。すべての意思決定で成長するかどうかを判断基準にしよう。

ひどいことは起こる

酷いことは起こる。それはスタートアップの常だ。災難に見舞われないスタートアップはいない。だからといって、それでやる気をなくさないようにしよう。やる気を失えばスタートアップは死ぬ。死ななければいずれは成功する。


アイデア

新しいものを作る6つの原則

  1. 単純な解決策を探し、
  2. 見過ごされている問題で、
  3. かつ実際に解決すべき問題に
  4. できるだけくだけた形で解決策を示し、
  5. 大雑把なバージョン 1 から初めて、
  6. 迅速に繰り返すこと

新しいものを作る6つの原則より。

良いアイデアは最初バカげたものに見える(秘密を知る、ブラックスワン)

成功した創業者は「他の人が気づいていない問題」を知っている。そして「自分が欲しいと思っており」「自分が作り出すことができ」「ほとんどの人がそれに価値があると認識していない」アイデアが最善であると言える。

技術に強い人はそれだけでアイデアという点でリードしていると言ってよい。なぜなら技術の進歩は速く、過去には実現不可能なアイデアが誰にも気づかれないうちに解決可能になっていることがあるから。若者にも同じアドバンテージがある。

ただし誰かが望んでいるものを作ること。誰もほしがらないものを作ってはいけない。ただし製品をリリースする前に誰かに製品が欲しいかと聞いても意味がないので、早くローンチしよう。そのとき、製品を大好きになってくれる少数の人たちから始めること。粗末なバージョン 1.0 のものでも、どうしても使いたいと思ってもらえるものを作ろう。多数のまあまあ好きなユーザーよりも、よっぽど良いフィードバックをしてくれる。

柔軟でいよう

ユーザーと対話してフィードバックをもらおう。そしてユーザーとの対話から利益を得たいのなら、アイデアを変更しても良いと思う必要がある。素早く繰り返してアイデアを変えられる程度に柔軟であり続けよう。

大きな問題に取り組みたいなら、正面攻撃を避けよう

小さなマーケットから始めよう。数億人が使う Web サイトを作りたいのなら、Harvard の学生が使うストーキングサイトを作ればいい。コンピュータの OS を寡占したいのなら、数千人の使うマシンのための Basic インタプリタを作ることだ。

ただし競争を避けるあまり、小さなニッチマーケットを選ばないようにすること。いいものを作ろうとすれば、競合は出てくるだろうが、それを避けずに向き合うことが重要。競争を避けると、いいアイデアを避けることになってしまう。

優れたテクノロジーで勝負するなら、小さな顧客のほうが良い。営業力では大企業に勝てないし、テクノロジーの世界では、常にローエンドがハイエンドを食っている。安価な製品を強力にしていこう。たとえば中くらいのサイズの非テクノロジー企業で、彼らがコンピュータを使って何をやっているか2週間ほど観察してみるとよい。


課題

解決すべき最良の問題は、自分が個人的に抱えている問題

Google はオンラインで情報を欲しかったから生まれた。Apple はコンピュータが欲しかったから生まれた。模倣のアイデアを避けよう。それは誰かの問題だ。自分の直接的な体験から始めたほうがずっと良い。だから「アイデアが起業に足るか?」を考えるより、単に自分が問題だと思った点を修正しよう。そうすることで最終的に多くの人が欲しがるものが作れる。

未来に生き、未来に欠けているものを作る

未来を生き、欠けているものを作ればいい。

問題は考えるのではなく、気付くものだ

起業のアイデアは「考える」のではなく「気づく」ものなのだ。Y Combinator では創業者の経験から出てくるアイデアを重要視している。今ある非効率的なものに気づけば、それは問題となりうる。それに気づくには、未来を生き、未来に欠けているものを作ればいい。そうした中で、対応可能な未知のニーズに気づけたら、それは金鉱と同様だ。金を掘り出すために一所懸命に働く必要はあるが、どこを掘ればいいか分かっていることが金鉱では最も重要だと言える。

たとえば仮にいま大企業で働いていれば、仕事をしている中で「誰かが○を作ってくれればお金を払うのに」という問題を思いつけば、それが良いプロダクトのアイデアになる。

顧客を観察する

YC のパートナーの Blackwell の起業のレシピでは「お金を持っている人々の使い方を観察し、何に時間を使っているかを見て、解決策を見つけ出し、彼らに売りつけること。利益を生む解決策は驚くほど小さく、まだ手つかずだ」とまとめている。


成長

正しく成長しているのか

大きく成長するには、大勢の人々が欲しがり、かつ欲しい人全員に届ける必要がある。ソフトウェアは届ける能力に秀でているが、大勢の人々が欲しがるものを作れるかの制約は残る。ソフトウェア企業が成長するには、大勢の人々が欲しがるものを作ろう。

初期の段階は成長しないことがある。だが人が欲しがる製品を作って届ける方法を見つければ、急速な成長が始まる。このうち、スタートアップと呼ばれるフェーズは急成長のフェーズであり、それは獲得した顧客の絶対数ではなく、既存の顧客数に対する新規の顧客の割合で測られる。

スタートアップの立ち上げとは最適化の問題だ。焦点を絞ることで効率的になる。成長率に焦点を当てれば、スタートアップが取り組まないといけない様々な問題を考える必要がなくなる。だからスタートアップは成長率に最適化していこう。

正しく進んでいるかどうかを確認するには、「どのくらいの成長率があれば、スタートアップと言えるのか」ではなく「成功するスタートアップは、どのような成長率で伸びているのか」を問う。 Y Combinator では週次の成長率を計測しており、良い成長率は週 5 – 7%。10% を達成すれば非常に好調と言える。

成長率の測定は売り上げの成長率を見るのが良い。課金をしないのならアクティブなユーザー数で測る。ユーザー数がのちの売り上げの指標となるから。

成長を追い求めれば成功する

成長を目標にすれば、次第に最適化されてくるし、新しいアイデアを持つこともできる。成長だけを追い求めるのは問題が起きるかもしれないと思うかもしれない。けれど、毎週の成長率を達成することこそが、創業者を行動させる。そして行動を起こすことが成功につながる。だから迷ったときは成長を指標にすること。成長率をコンパスにしてあらゆる判断を行う。

CEO や CTO の役割は 6 – 12 か月ごとに完全に変わる。プログラムを書く時間が半分になり、社員のさまざまな動機に対応する必要が出てくるだろう。だから気構えを持とう。そしていったん成長の軌道に乗れば、ストレスははるかに減る可能性がある。


製品開発

素早くローンチし、ユーザーと話し、改良してローンチを繰り返す

リリースして、現実のユーザーとの対話が始まってから本当の学びが始まる。

最初のバージョンはシンプルかつ最小のものから始める。プライドのせいで改良の余地のあるものをリリースしたがらないが、最初のバージョンをリリースしてから本格的な学びが始まる。自分がリリースしたものが恥ずかしくないなら、リリースが遅すぎるということを肝に銘じよう。ただしローンチは早すぎてもいけない。それ自体有用であって、徐々にプロジェクト全体へと拡大していけるようなコアを見つけて、その部分だけをリリースすること。

ユーザーと関わろう

商品開発とは、リリースしてから本当に始まるユーザとの対話だ。そしてユーザーとの対話から利益を得たいなら、アイデアを変更する必要が出てくる。起業時のアイデアは青写真ではなく仮説だ。その時に最高だと思えることをなんでもしよう。

ユーザの獲得は大変だ。製品がユーザにリーチできていないだけなのか、単に製品が悪いせいなのか、どちらかわかりづらいからだ。よい製品でさえユーザ数が減る場合がある。ユーザが何を求めているかのデータを収集する方法や、ユーザーに近づくための情報が知りたいのなら、周りのアドバイザーに相談しよう。彼らは知恵を持っていることが多い。

絶えず出荷をすることがエンジニアをエンジニアであり続けさせる

「本物の芸術家は出荷する」という Steve Jobs の格言は、単に芸術家が出荷しているというだけではなく、芸術家は出荷をしたがっているということでもある。だから出荷をさせなければ、芸術家はいなくなる。エンジニアにはコードをすぐにリリースさせて、常にエンジニアであり続けさせることが重要だ。

既存の技術の周辺には拡張できる場所がたくさんある。何を最初に作るべきか、という問いが最も重要で、どの製品を作るかについては、「その製品を作るのにどれぐらいの時間がかかるか」「ユーザはその製品のレベルの高さにどれくらい興奮するか」で何かを選ぶ。一度リリースが終わったら、ユーザーの獲得や売り込みの基本路線について話そう。


共同創業者

共同創業者は必要だ、けれど選ぶのは慎重に

スタートアップにおける共同創業者は、不動産でいう立地条件に等しい。立地条件と同様に共同創業者を変えるのは難しい。そしてスタートアップの成功は、創業者たちの働きに依存する。そして、通常、一人での創業は厳しすぎてうまくいかない。特に最悪のときに元気づけてくれる同僚が必要だ。共同創業者は必要だが、変更はきかない。慎重に選ぼう。

共同創業者は、能力ではなく性格と熱心さで選ぶこと。特に失敗する理由は、性格と熱意の不足にある。できれば1年以上の人間関係ができている人と創業しよう。それでも創業後の関係維持には苦労する。共同創業は友情ではなく結婚に近い。スタートアップは共同創業者間の子供である。

技術的なスタートアップにビジネスの得意な共同創業者が必要かと言うと、場合による。ただチームに一人は、顧客を理解し、顧客が何を望んでいるかということに喜んでフォーカスできる人間が一人は必要だ。それはもちろんビジネス側の人間である必要はなく、プログラマであってもよい。

手伝わなくても大丈夫な創業者チーム

Y Combinator では、「見込みがあるチーム」と「見込みがないチーム」と「見込みのないアイデアにはまった、見込みのあるチーム」に分かれる。Y Combinator に採用するのは、1 番目と 3 番目のケースである。

成功するスタートアップは「彼らは手伝わなくても大丈夫だ」と思われる。「本当に賢い」とか「素晴らしいアイデアの持ち主だ」と評されるのではない。

つまり成功する根拠となる気質は、精神力、適応力、決断力などが挙げられる。チームとしてそのような気質を持つ共同創業者を選ぼう。

喧嘩は必ず起こる

最高のスタートアップチームですら喧嘩をする。みなが思うよりも喧嘩は多い。喧嘩が起きたときはアドバイザーに相談しよう。きっと同じような状況を何度も見ているので、うまく仲裁してくれるはずだ。


採用

採用は十分な検討の上で行うこと

採用を行うことで余計な業務が発生し、短期的に成長率を悪化させることがある。また人を増やさずに成長率を達成し続ける方法があるのであればそうしよう。

採用に関する一般的な提案は、避けられる限りは採用せず、サラリーよりも株式で払う(献身的なタイプの人が集まる)、そしてコードを書く人か外に出てユーザーを獲得する人だけを雇う、ということだ。最初必要となるのはその人たちだけだ。

誰を雇うかを決めるアニマルテスト:「その人を動物に例えられるか?」

スタートアップにとっての優れた人は、動物のように脅迫的に仕事をする。度が過ぎて真剣で、一度始めたら仕事を止めない。営業なら商談を成立させるまで帰ってこないし、ハッカーであればコードにバグが残った状態でベッドへ行くくらいなら、朝まで起きているような人が動物であると言える。デザイナーなら、2ミリずれていると肉体的苦痛を感じるような人が好ましい。

雇う人が動物的であるかどうか、を問おう。頭が良くても、動物的でなければスタートアップには向いていない。

出来の悪いプログラマを雇わない

プログラマはアニマルテストのほかに、「純粋に頭がいいか」そうであるなら「物事を成し遂げるか」、そして最後に「一緒にいて耐えられるか」をテストしよう。態度が大きな人間は、頭がいいわけではないケースが多いので、おおよそ最初のテストで落ちる(頭のいい人間は自分の頭が良いと見せかけようとしない)。

そして優れたプログラマは、ビジネス屋の言われたままのことを実装する仕事はやりたがらないと肝に銘じよう。


資金繰り

ラーメン代を稼げば資金調達のやり方が変わる

日々の生活費(最低食費のインスタントラーメンを毎日食べられる程度の収益)を稼ごう。そうすれば生き残るための資金調達が必要なくなり、創業者と投資家の関係性は一変する。投資家に強く出れるようになるし、もとより投資家も自分たちの投資が必要のないスタートアップが好きなのだ。ラーメン代を稼いでいれば、起業家たちにお金を払ってくれる顧客がいて、人々が望むものを作っており、コストを意識しているということが投資家たちにも伝わる。それはこのスタートアップがお金を儲けようとしている姿勢を投資家たちに示している。

またラーメン代を稼げるようになれば、士気が上がる。だんだん自分の生活費を稼いでいる気になり、企業になったと感じ始める。自分たちの生活費を稼げるようになるのが、その重要な分岐点で、その時点から倒産ではなく存続がデフォルトになる。

何より、資金を調達する必要がなければ、資金調達のために仕事を中断しなくて済む。資金調達中の仕事の中断はスタートアップにとっては致命的になりうるので、常に「この資金調達が最後の資金調達だ」と思うようにしよう。

支出を下げよう

資金難になった時には、たいてい人を削るしかない。人を首にするにはハードであるが、今がその時だと思うしかない。全員のサラリーを減らすことは得策ではない。

(もしそれが適切であれば)コンサルティングをできるようにしておく

コンサルティングをすれば、ラーメン代を稼ぐことはできる。けれどコンサルティングはスケールしない。月 3,000 ドルのコンサル会社になるのは簡単で、急場はしのげるだろうが、それは安売りする契約するプログラマとなることと同義だ。それに受託やコンサルティングは本来苦手な部分をやらされるケースもある。

ただしコンサルティングに良い面もある。ユーザーをより深く理解できる。またソフトウェア販売では捕まえられない顧客を、コンサルティングであれば捕まえることができるかもしれない。


資金調達

資金調達はスタートアップにとって妨害である:それでも資金調達は必要だが

資金調達が必要なのは、生き続けるためか、急成長をするためだ。スタートアップは十分な顧客や収益をすぐに生まず、時間がかかる。そしてどれぐらいの時間がかかるかは、やってみないと分からない。資金調達をしないとスタートアップは大成功はしないが、けれどスタートアップにとって資金調達は脇道である。

資金調達期間は驚くほどにそれ以外のことが進まなくなる。下手をすると数か月仕事が止まる。資金調達は誰か一人専任でアサインして、他の人はプロダクトに集中しておくべきだ。会社のリソースが減るが、それでもこれが最善の手と言える。

資金調達すべきタイミングは、急成長するために資金が必要で、かつ急成長のポテンシャルがあるときにのみすべきだ。

資金調達モードに入っていないのであれば、投資家とのミーティングは避けよう。依頼があっても丁重にお断りするべきだ。

資金調達モードに入るのなら、できるだけ短期間で終わらせるよう心掛けること。さっさと終わらせて仕事に戻ろう。長期間減速してしまうのはスタートアップにとって最悪の事態だし、スタートアップは資金不足なので、交渉が遅れればスタートアップが譲歩することが多くなる。投資家が興味を持っているなら、投資家を座らせず、熱意のある状態で小切手を書かせる。

投資を受けるかどうかの判断は、 1/(1 – n) の方程式で考えること。手放したもの (n) により企業価値が大きくなればいい。

調達したお金を使わないこと

大きな金額で急成長を目論み、多くの顧客を得ようとすると、多くの人を早く雇い入れることにつながる。一番のお金の使いどころは人を雇うところだが、ただしそれは一般的に良い手ではない。資金調達した資金のベストな使い方は、お金を使わないこと。バーンレートを下げよう。

それに大きな資金を使うのに忙しくなりすぎてはいけない。顧客が本当に欲しいものを作ることにフォーカスするべきだ。

資金調達にあまり期待しないこと

資金調達は期待するよりはるかに困難であり、スタートアップに失望を生む。失望はスタートアップを殺すだろう。


投資家

投資家の仕組みを知ろう:彼らがなぜ臆病で悪徳なのかが分かるから

投資家は無能なのが普通だ。投資家は自分たちの理解していないものに対して決定を迫られ、そしてしばしば間違う。理解していないことに対して決断をしなければならないので、投資家は臆病になり、起業家を振り回すことすらある。

VC が臆病なのは主に給与体系のせいだと言える。VC では通常、ファンドの 2% を年間の運営費(ベースの給与)として取り、利益の 20% をインセンティブとしてもらう。1人では多くの取引を管理できないから、それぞれの取引は大きくならざるを得ない(巨額の資金は時にはスタートアップにとって悪いことですらあるというのに)。そのため臆病にならざるをえないし、悪徳に行動せざるをえない。また投資家にとって、事実上すべてのリターンはわずかな企業から来ており、他のスタートアップはコストとなることを起業家側も知っておこう。

新米と二流の VC を避けよう。新米は怖く見えないが神経質で危険かもしれない。新米の投資家から資金を得たいなら、主導権をこちらで握るか、他の投資家が主導権を持っているラウンドの一部に使おう。二流の VC には通常一流の VC を断られた案件しか来ず、自分より優秀な創業者と働かなければいけないケースが多い。選べるなら、極力二流は避けるべきだろう。

投資家は「他の投資家が投資している」という事実に最も大きな影響を受ける。資金調達の交渉中、VC に他の交渉している VC のことを聞かれても答えないようにしよう。エンジェルは協調して、VC は徒党を組んで企業価値を低く見積もるときがある。それに「他の投資家が投資している」という性質がある以上、最初の投資家の説得はつらいが、二人目以降は簡単だ。

創業者は投資家を管理する必要がある

スタートアップが投資家を必要としているのと同様に、投資家もまたスタートアップを必要としている。ファンドのリターンを生むために、特に成功しそうなスタートアップに投資をする必要がある。

投資家は有用な洞察を持っているかもしれないので、無視すべきではない。ただし牛耳られないようにスタートアップ側が管理する必要がある。最近はシリーズ A 後もスタートアップの経営権をスタートアップ側が持つことが普通だ。


ピッチ

「自分たちが何をしているかを説明する」ことと「なぜユーザがそれを望むかを説明する」ことの 2 点を達成することに絞る

漠然とした説明より限定した説明のほうを選ぶ。何でもできる、という説明は内容がゼロに近づく。

上記 2 点以外の副次的な話には時間を割かないようにする。競合は3社ぐらいリストし、違いを一行で説明する程度でいい。

早くにデモを持っていき、ユーザーのことを話す

ビジネスモデルについてはくどくどと話す必要はない。短いピッチの時間で投資家はビジネスモデルを聞きたがらないし、初期の段階のビジネスモデルは間違っていることが多い。そしてデモはどんな言葉よりも雄弁に語る。早くデモをしよう。

ユーザーの話をしよう。投資家が恐れるのは、起業家が独りよがりの理論に基づいて、誰もほしがらないものを作ることだ。人がすでに大金を払っているなら、ユーザーのニーズが発見できているサインである。

投資家の記憶に残るキャッチフレーズを作ることを忘れないように。投資家はたくさんのピッチを聞いていて、時間が経つと忘れてしまう。忘れられないように、記憶によく残るフレーズを作り上げておこう。

まずは熱心な投資家に Yes を言わせる

投資家が一番「Yes」と言いそうなものに焦点を絞ること。投資家の価値は、金額×Yesの可能性であらわせる。後者に焦点を絞るべき。一人の投資家が「Yes」と言えば、他の投資家も急速にあなたに興味を持ち始める。なので熱心な投資家を説得することが、あまり乗り気ではない投資家を説得する最高の方法と言える。


意思決定

スタートアップに関する直観は信じないこと(ただし人材に関する直観は信じよう)

スタートアップは多くの間違いを犯して、Y Combinator のパートナーからのアドバイスを「ちゃんと聞いておけばよかった」と後で後悔する。これはスタートアップに関する決定が反直観的だからだ。だから自分の直観のみに従わず、メンターの言うことに耳を傾けてみよう。納得いかなければ、何故そうなのかと Sam Altman のように楯突いてみること。

ただし人に関する直観は信じていい。若い創業者の犯す間違いの多くは、人に関する直観を十分に信じきれないところから生まれる傾向にある。

成功できるかどうかは決断力で決まる。余計なことに気を取られるな

スタートアップが成功するかどうかは、創業者の知能や才能ではなく、決断力で決まる。技術的なスタートアップのほうが治世の重要性が増すように見えるだろうが、究極のハイテク産業でさえ、成功は知能よりも決断力にかかっている。

決断力は頑固さであり、頑固なだけでなく自分に厳しい必要がある。自分の頑固さを自制心でバランスし、そして野心がなければならない。大きな仕事をしようと決意したら、周りに誘惑が増えるので、それに応じて自制心を強くする必要がある。自制心がなければ、だんだん頑固さが優勢になり、達成できるものは平凡なものになるだろう。

何より気を散らすものほど、スタートアップを破滅させるものはない。

良い後回しをしよう

大きな仕事のために、小さな仕事を放っておこう。仕事ができる人はみんな後回しの達人だ。やることなんて無限にあるし、何かしていたら他のことは何にもできない。だから後回しを回避するのではなく、良い後回しをすること。

真の仕事にはまとまった時間と、良い雰囲気が必要だ。時には義務的な仕事を全部後回しにする。スタートアップは常に自分ができる最良の仕事は何か、なぜ自分がそれをしていないのかを問おう。それは楽しくないことかもしれないが、やろう。


仕事

面倒で退屈で嫌な仕事 (schlep) は定義上避けられない

凄い仕事をしたいなら、面倒で退屈な仕事は避けられない。プログラムさえ書いていればスタートアップが成功するわけではない。企業は企業が引き受ける面倒な仕事によって定義されると言っても良い。大きな仕事であればあるほど、面倒な仕事が伴い、それから逃げてはいけない。逃げなければ、それは大胆なアイデアとなり、価値は倍増する。Stripe は決済という大胆で面倒なアイデアに愚直に取り組むことで、アイデアの割安株を手に入れたも同様だった。

動きの遅い組織と接触する方法は、彼らとの付き合いを本業から分離することだ。そして取引先から拒絶されることを受け入れよう。投資家は持ち込まれるプランのうち 1% 程度しか投資しないし、顧客だってほとんどの人が断るだろう。

アドバイスを得よう

多くの Y Combinator で喋る人の多くのアドバイスは一貫している。アドバイスに耳を傾けよう。アドバイスを得るためには、起業家を助けてくれる人のいる環境に身を置こう。誰かが強い興味を持ってくれるだけでもスタートアップの助けになる。

コミュニティの価値も高い。スタートアップ同士の、ボランティア精神にあふれるやり取りがスタートアップに貢献する範囲は計り知れない。それにスタートアップにとって財を成すのはゼロサムゲームではない。助け合おう。

スタートアップは職務 (job) ではない

スタートアップは職務 (job) に似ている、とみんな予想する。だが、実際には違う。スタートアップは共同創業者を選ぶのに慎重になる必要があるし、人間関係の維持に気を遣う必要があるが、職務で同僚を選ぶ必要はない。職務 (job) のメンタルモデルを捨てよう。スタートアップで酷いことが起こることが信じられないなら、それは過去の job のイメージに引きずられているからだ。スタートアップは職務 (job) ではない。酷い思いをしたときは、そう考えよう。


失敗

スタートアップを殺す失敗は「ユーザが欲しがるものを何も作らない」という 1 個だけ

スタートアップは資金がなくなり死ぬが、資金難はスタートアップの死ぬ真の原因ではない。真の原因は「ユーザーが欲しがるものを何も作れなかった」というただ一つの原因である。試験勉強や大学受験のような、試験をパスするためのコツを探すのはやめよう。我々は学校教育に毒されすぎており、どこかにスタートアップが成功するコツがあると信じているが、実際にはほとんどない。市場は学校よりも厳しい。スタートアップはユーザーの欲しいものを作ればいいが、それが最も難しい。

多くの失敗の脅威に晒されるが、多くの失敗は脅威ではない

スタートアップにとって目立つ失敗は、見た目ほど脅威ではない。スタートアップにとって失敗はいつものことで、きちんと対処すれば致命傷にはならない。そして YC で喋るような有名なスタートアップですら失敗することを知ろう。対抗となる特許が見つかっても、サーバーがダウンしても、技術的な問題に出くわしても、きちんと対処しよう。

直観に反するが、スタートアップは競合の出現ではほとんど失敗しない。競合に過剰反応する理由の一つは、アイデアを過大評価しているからだ。重要なのは実行に移すことで、そして結局自社のプロダクトとユーザーの獲得が最も大変なのだから、プレスの発表に惑わされてはいけない。大企業の競合が出てきても気にするべきではない。Google が似た製品を作っても、彼らは倒産する危機感がないし、行動を遅くする官僚的な手続きがあるので出し抜ける。

ただしまだ存在知られていない競合には気を付ける。すでに存在する競合だけを見ていると安心してしまいがちだが、他の人が実現する可能性がある何かとは競争するべきだ。気を抜けば彼らは物凄いスピードで追いついてくる。

柔軟であり続け、目標を絞り切る

フォーカスを失うのに最悪なのはお金を得られるサイドビジネスやコンサルティングだ。現在の顧客の電話に対応して中断したり、資金調達のためのミーティングをしたりは、すべてスタートアップがフォーカスを失う原因となる。

失敗した起業家とは、会話が成り立たない場合が多かった。彼らは柔軟ではなかった。失敗した起業家は、言われたことをすべて実行する能力はあったが、言われた言葉の先にある嬉しくない結論に到達したときに、嫌でもやることをしなかった。つまり本気にはなれなかった。賢くてもやる気を失ってはいけない。それを知っているのはきっと助けになるだろう。


メンタル

スタートアップは生活を支配し、感情を激しく揺さぶる

どのスタートアップでも、想定していた以上にスタートアップは生活を支配する。そして感情を揺さぶられる経験を多数味わう。素晴らしいと思った瞬間を味わってから、数時間後に絶望へと変わることもある。それを想定しておこう。 そしてその最悪の想定をも上回る最悪なことが起こるのも想定しておこう。

立ち直る力が必要

取引の多くは失敗する。期待しないようにしよう。そしてたとえ落ち込んでも諦めてはいけない。諦めないようにするだけで、驚くほど遠くへ行ける。プロダクトを改善する手を止めず、改善を続けること。 落ち込まない。スタートアップが倒産する直接的な原因は、資金不足であることが多いが、真の原因は目標を絞り切れず、やる気を失ってしまったときだ。諦めるな。

粘り強く、したたかであり続ける (relentlessly resourceful)

素晴らしい起業家を2単語にまとめると relentlessly resourceful といえる。正反対の単語は hapless だ。人々が欲しいものを作る、はゴールだが、relentlessly resourceful であり続けることはゴールに到達する方法と言える。

運は重要

製品の販売の成功率は、技術×粘り強さ×運であらわせる。失敗した起業家は自分たちを責めがちだが、運がゼロならすべて失敗する。普通、成功した起業家は自分たちが幸運に恵まれていたことを知らない。運は普通の人たちにとってはとても重要だ。ハッカーは技術に最高の価値を置き、期待通りのものを得ているだろうが、ビジネスはそうではなく、運が重要だ。だから運が来るまで粘り強く、したたかであり続けよう。

目次

参考文献

原則

アイデア

課題

成長

製品開発

共同創業者

採用

資金繰り

資金調達

投資家

ピッチ

意思決定

仕事

失敗

メンタル

基本的にすべて Paul Graham 氏の洞察であり、本まとめ主のものではありませんが、誤解があればまとめ主の責任です。