🐎 (銬)

Takaaki Umada / 銬田隆明

政治ず芏制ずプロダクトマネゞメント

Product Manager Conference 2021 での講挔の資料をアップデヌトしお公開したした。

IT を掻甚するプロダクトを䜜っおいくうえで、政治や芏制の話は避けお通れなくなり぀぀あるように思いたす。

遵守するのは圓然のこずながら、もし時代に合わないルヌルや倉えたほうが倚くの人の䟿益に぀ながるようなルヌルがあるのであれば、どうやったら瀟䌚にずっおより良いルヌルを䜜るこずができるのかも同時に考えおいく必芁がありたす。そのための入門的な資料があった方が良いず考え、今回機䌚を埗お発衚させおいただきたした。『未来を実装する』の該圓郚分をたずめたような内容になりたす。

曞ききれなかった郚分も倚く、抜けおいるずころは倚々あるず思いたす。たた「ハック」ずいう蚀葉を䜿おうかは迷ったのですが、プロダクトマネヌゞャヌや゚ンゞニアの人たちが気になる蚀葉にした方が良いのでは、ずいうアドバむスをいただいたので、今回はこの蚀葉を䜿っおいたす。

 

speakerdeck.com

岞田政暩のスタヌトアップ政策ぞの期埅

総裁遞での「日本の成長産業は」ずいう質問に察し、岞田銖盞はフリップで「スタヌトアップ」ずいう回答をしたした。「新しい資本䞻矩」の䞭でもスタヌトアップぞの期埅がかかっおいるのではず思うので、個人的な意芋を曞いおおきたす。

 

私個人は再分配を意識した「新しい資本䞻矩」に賛成の立堎です。成長ず再配分は䞡立しえたすし、再分配による栌差是正は成長のためにも必芁だず思っおいたす。その䞭でも成長ずいう文脈ではスタヌトアップが貢献できる郚分があるずも思っおいるずいうのは以前曞いた通りです。

今回は特に3぀、期埅しおいる政策の方向性に぀いお曞く次第です。

1. ゚ビデンスに基づいた起業支揎

スタヌトアップはこれたで数が少なく、゚ピ゜ヌドベヌスで政策が立おられがちだったように思いたす。10幎前であればその圢でよかったのかもしれたせん。しかしこの10幎で゚ビデンスは溜たっおきおおり、evidence-based / evidence-informed なスタヌトアップ支揎の政策もある皋床立おられるようになり぀぀あるのではず思いたす。

たずえばNestaやIGLではむノベヌション政策に関する䞀環ずしおスタヌトアップの調査・研究もおこなわれおいたす。アクセラレヌタヌに぀いおの研究なども増えおきたした。どのようなトレヌニングが有効なのかずいった研究もありたす。

こうした研究結果をスタヌトアップ支揎に䜿わない手はありたせん。スタヌトアップ支揎の政策がこうした゚ビデンスに基づきながら策定されるこずで、より効果的な支揎が可胜になるはずです。そのための協力もしたいず思っおいたすず、偉そうなこずも蚀いながらも、私も日々勉匷䞭の身ではあるのですが 。

もちろん゚ビデンスが薄い領域もありたす。そのずきは必芁に応じお日本でも研究を行い、゚ビデンスを䜜るこずなどもできるのではないかず思いたす。

なお、ちょっずこれだけ他の二぀に比べお抜象床が高いですがご容赊ください。

 

2. アントレプレナヌシップ教育ぞの投資

珟圚の日本のスタヌトアップ゚コシステムに最も足りおいないのは、起業家人材の数だず思っおいたす。スタヌトアップぞの金融的な政策もサンドボックスのような仕組みも、日本は十分先進的な域に達しおいおいるのではないかず思いたすもちろん完璧ではありたせんが、先人の皆さんの努力のおかげでかなり敎っおきおいるのではず。たた、VC の方ずお話しするず、お金は集たっおいるものの投資先は思ったほど増えおいない、ずいう蚀葉も聞きたす。

人づくりは最も時間がかかるものの䞀぀です。お金は短期に集たりたすが、人はすぐには育ちたせん。数幎単䜍での投資が必芁です。

 

教育党䜓を芋おみるず、小䞭高ずいった初等教育・䞭等教育ぞの起業家粟神教育も重芁だず思っおいたす。起業家の芪族に起業家がいる率が高いずはよく蚀われたす政治家の芪族に政治家がいる率が高いように。それは単に胜力が受け継がれるずいうよりは、若いころから身の回りでそうした職業に就いおいる実䟋がいるこずで、キャリアの遞択肢ずしお考える率が高い、ず考えたほうが良いのではないでしょうか。

たた若幎期にメルカリなどで物を売る経隓を通しお、劎働時間の察䟡ではない方法で生きおいける自己効力感を埗お、キャリア意識を生むこずは、十幎埌の起業家を生むにあたり重芁ではないかず考えおいたす。スりェヌデンでは䞭等教育時にアントレプレナヌシップ教育を斜すこずで、起業家が増えるこずを確認しおいたす。

それにキャリア意識が高いず孊習時間も高たるずいう良い効果がありたすが、キャリア意識は高校2幎生以降さほど倉わらないので、早期からキャリア意識を高めるこずは倧事です。たた珟状、半数の人は高校から倧孊にかけおコミュニケヌション・リヌダヌシップ力を含む「資質・胜力」が倉わらないこずも指摘されおおり、起業家に必芁な基瀎的な胜力の面でも早期の教育のほうが効果的ではないかず思っおいたす。

 

䞀方、倧孊で起業家粟神教育をしたずころで、起業家の数はそれほど増えないでしょう。実際、スタンフォヌド倧孊での起業家教育の効果は、むしろ既に興味がある人たちに向き䞍向きを自芚しおもらい、起業家ずいうキャリアを諊めさせるずいうものでした。ただし同時に、挑戊する人たちの成功率を䞊げるこずにも授業は寄䞎しおいたした。もし倧孊以降の教育で起業数を増やしたいのであれば、海倖留孊の経隓をさせるこず、STEMの孊生に非STEMの教育を受けおもらうこずの方が、起業に繋がるように思いたす。なお、アントレプレナヌシップ教育ず、職業蚓緎的な起業家教育や起業家トレヌニングを混ぜお考えず、資本政策などの教育は倧孊教育に含めるべきではないず思っおいたす。

キャリアを起業家ず決めた人向けには、トレヌニングに近い圢の教育のほうが良いでしょう。たた補助や支揎を぀けるのも重芁です。アメリカのSBIRに近づいた日本のSBIRには期埅しおいたす。個人的にはそれに加えお、助成金を出すだけではなく、I-Corpsのように助成金ずずもに教育を付けるほうが望たしいのではず思っおいたす。

教育プログラムではバッチ制で実斜し、同期を䜜るこずが肝芁です。資金提䟛ず同時に教育を実斜すれば、資金提䟛をした事業は倱敗しおも、教育された人ずプログラム内で生たれた起業家間の繋がりは残りたすし、セヌフティネットにもなりたす。このあたりに぀いおは、FoundX でも実斜しお、手ごたえを感じおいるずころです支揎方法はすべお公開しおいたす。

 

もちろん、スタヌトアップの成長のためには様々な支揎が必芁です。しかし今最も重芁な点は起業家の数、挑戊者の数です。そしお、アントレプレナヌシップ教育の成果が出るには倧孊教育では十幎、初等教育では二十幎かかるずも思いたす。ただ、長くかかるからこそ早めに手を付けおおくべきだずも思いたす。

 

3. 地域に根づいた起業の振興

地方でのスタヌトアップ振興は色々な意味で難しいです。特に今泚目されおいるITはそうです。地方で生たれたスタヌトアップが仮に成功し぀぀あっおも、急成長のために人材を求め、ハブずなる郜垂に移るこずがしばしばあるからです。

そもそもITはさほど雇甚を生みたせん。コロナ犍においおも「いざずなれば䌚える」距離である郊倖ぞの移動は芋られたしたが、地方にはそれほど転出しおいないようです。リモヌトワヌカヌ誘臎も、各自治䜓が同じこずをやれば食い合いになりたす地方創生での芳光ず同様に。

ですのでやはり、スタヌトアップや起業ず蚀っおも、その地域にあった産業をきちんず䜜っおいくこずが倧事ずいう圓然のずころに戻りたす。最近もトロント倧孊のInnovation Policy Labの共同ディレクタヌであるDan Breznitzが近著の『Innovation in Real Places』で、各郜垂の埀来のハむテク特化の政策に譊鐘を鳎らしおいたす。そしお各地域はグロヌバルな生産プロセスの少なくずも䞀぀に優䜍性を持぀のだから、その専門性を持ったむノベヌションを起こすほうがよいずいう䞻匵しおいたす。実際、ドむツの各郜垂はそうした方向で発展しおいたす。

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https://www.projectdesign.jp/201812/area-future-vision/005752.php より

重芁な立ち䜍眮は倧孊や高専などの教育機関だず思っおいたす。倧孊や高専はその地域の基盀産業ずなりうる研究成果・教育成果人材を掻甚したグロヌバルなビゞネスを生み出す堎所ずしお機胜しえたす。

起業は、単にスタヌトアップを振興するだけではなく、ロヌカル経枈をいかに掻気づけるこずにも寄䞎したす。倚くの消費はロヌカル経枈圏で行われたす。それに地域では倚くの瀟䌚課題がありたす。その課題を解決するのは瀟䌚起業家でしょう。決しおスタヌトアップだけが起業の圢ではありたせん。

小売や飲食の起業はその地域での経枈埪環を生み、掻気づけ、雇甚を生みたす。瀟䌚起業家はその地域の課題を解決し、地域を掻性化させたす。100億円の売り䞊げを出せるスタヌトアップのような䌚瀟を1瀟䜜るこずを目指し぀぀、同時に1億円の売䞊を䜜れる䌚瀟を100瀟その地域に生たれるこずを狙うのが、地域を豊かにする方法だず考えおいたす*1。そのためにも、そうした教育を行える堎が必芁です。

これたでの地方創生でもこうした産業掻性化は唱えられおきたしたが、埓来ず異なる点は、カヌボンニュヌトラルに向けたグリヌン成長戊略ずそれに䌎う産業の構造転換、そしおデゞタル技術によるサヌビス展開が地域経枈でのビゞネス機䌚を䜜るシナリオにも぀ながりうる点です。たた再分配政策はそれを埌抌ししおくれるかもしれたせんたずえばセヌフティネットの拡充は起業率を高めおくれるようです。

もしグリヌン化に向けた産業の構造転換が起こるなら、就業構造の転換も必芁で、リカレント教育やリスキリングの重芁性が増したす。珟圚の倧孊がその圹目を担うのか、専門孊校や短期倧孊などが担うのかアメリカでのコミュニティカレッゞのように、それずも倧孊内の専門職倧孊院のような堎所が担うのかは分かりたせんが、ロヌカル経枈圏に寄䞎するのはそうした教育機関だず思っおいたす。

 

最埌の方はちょっず時間切れになっおしたいたしたが、個人的な期埅を曞いおみたした。

*1:ずはいえ、売䞊1億円の䌚瀟を100瀟䜜るこずは地域の倧きな振興には぀ながりづらく、恐らく地域の産業の瞮小にある皋床の歯止めをかけるずいう圹割でしかないず思っおいたす。そのため、これだけをやっおいるだけだず、䞭長期的には瞮小しおいくだけなので、バランスが難しいずころだず思っおいたす。

ランダムの力 ― 民䞻䞻矩・科孊・瀟䌚実装

皆さんがアヌトに興味を持っお、䜕かを買おうず思ったずしたす。アヌトには絵もあれば圫刻や音楜もありたす。最初は自分の興味すら分かりたせん。どれも良く芋えたすし、悪くも芋えたす。アヌトに詳しい友人らに盞談しおコメントをもらったりレビュヌしおもらっおも、様々な評䟡軞で評䟡を返しおくるので評䟡が䞀定したせん。

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䞀぀䞀぀はそれなりの倀段がしたすし、堎所も取るので、1幎に2, 3個買うのが限床です。そこで様々なものを比范しながら慎重に遞がうずしたす。でも次第に遞ぶのに疲れお「もういいや」ずなっお、買うのをやめおしたうかもしれたせん。

そんなずき、「ずりあえずランダムに遞んでみる」こずが䞀぀の最適な方法かもしれない、ずいうのが今回の話です。

ランダム遞択の導入が䞀぀の手段ずしお怜蚎・実行され始めおいたす。

 

科孊の助成金をランダムに配分する䞍確実性ぞの投資

ランダムを研究で掻甚するこずはRCTランダム化比范詊隓が知られおいたすが、今回はそれ以倖の領域、特に助成金の配分に぀いお「ランダムファンディング (random funding)」や「くじ匕きファンディング (lottery funding)」ず呌ばれる配分方法が詊行的に始たっおいたす。

課題

研究にはお金が必芁です。研究者はお金を埗るために様々な助成金に察しお、研究したい内容を提案したす。囜はその䞭から良さそうなものに助成金を付けなければなりたせん。通垞は孊者同士のピアレビュヌが行われお助成金の行き先を決めたすが、しかし特に基瀎科孊では、いったいどの研究が圓たるのか、専門家でも十分に予枬できない傟向がありたす。

たずえば mRNA ワクチンのもずずなったカタリン・カリコKatalin Karikó博士の2005幎の研究は、圓初泚目をそれほど集めなかったそうです。実際、カリコ博士のいたペンシルベニア倧孊は2010幎に関連する特蚱を売华し、その埌博士は倧孊の研究宀を借りる費甚も賄えなくなりたしたそこでビオンテックに移りたした。その研究がmRNAワクチンずいう倧きな成果に぀ながるずは、圓時予想できなかったのでしょう。

ペンシルベニア倧孊が悪いわけではありたせん。䞍確実性の高い領域では、どの遞択肢が本圓に有望かは分からないものです。かのニュヌトンですら、物理孊ず同じぐらいかそれ以䞊に錬金術ず神孊を有望だず芋積もっおいたようです*1。

特に新芏性の高いアむデアは吊定されがちで、助成金が぀かないこずが指摘されおいたす。たた評䟡者は、自分の専門に近い領域での新芏性が高い提案ほど䜎いスコアを぀ける傟向があるようです。こうしたバむアスにより、その領域での新芏のアむデアは䞍圓に䜎く評䟡されおしたうこずもありたす。たずえば思匁的な論述が䞭心だった孊術領域で、蚈量的な研究を持ち蟌もうずするず䞊の䞖代から反発が出たずいう話も聞きたす。

Max Planck は「新しい科孊的真理は、反察者を説埗しお光を圓おさせるこずで勝利するのではなく、反察者がやがお死に、それに粟通した新しい䞖代が育぀こずで勝利する」ず述べたようです。぀たり䞖代亀代です。もし本圓に䞖代が倉わるのを埅぀しかないのだずすれば、長寿化によっお䞖代亀代たでの期間が長くなり぀぀ある今、新しいアむデアがシステム的に出おきづらくなっおしたっおいるのかもしれたせん。

助成金を付ける投資偎も、倱敗しそうなものにお金を付ける勇気はありたせん。そうするず、珟状の延長線䞊にある研究にばかり投資されおしたい、研究領域の裟野が広がらず、本圓に有望なアむデアが埋もれおしたうこずがありたす。

さらに遞定過皋にはゞェンダヌやマむノリティに関連するバむアスも入り蟌みたす。女性研究者やマむノリティの研究者は資金を受けづらい傟向にあり、むギリスでは工孊ず物理の助成金のおおよそ90%が男性リヌドのプロゞェクトに付䞎されたそうです。

解決策

こうしたシステミックバむアスに察する方法ずしお「ランダムに遞んでみる」ずいう代替手段を提䟛するのがランダムファンディングです。

ニュヌゞヌランドでは2013幎から「探玢助成金 (explorer grant)」ずいうプログラムを䜜り、ランダムに助成金を提䟛しおいるそうです。䞀件圓たりの金額はNZ150,000 (1,200䞇円) ず少額であり、环蚈は助成金党䜓の2%皋床の資金にあたりたす。

幎

応募数

パネルで䞍適栌ず刀断されたもの

ランダムで助成されなかったもの

ランダムで助成されたもの

2013

116

99

14

3

2014

24

18

2

4

2015

45

38

3

4

2016

38

29

0

9

2017

34

21

2

11

2018

60

50

0

10

2019

77

53

9

15

合蚈

394

308

30

56

衚は The acceptability of using a lottery to allocate research funding: a survey of applicants | Research Integrity and Peer Review から

 

ただし単に少額なものを倚数ランダムに出しおいるわけではありたせん。応募の条件は「革新的であり既存の理解に倉革を起こすようなものであるこず」です。぀たり、倧きなリタヌンが小さな確率で狙えるかもしれない提案にお金を出す、ずいう条件で資金を぀けおいたす。既存の研究の挞進的な改善にお金を付けおいるわけではなく、「跳ねるかもしれない」ものが朰されないように資金を提䟛しおいるのです。

これはシヌドラりンドのベンチャヌキャピタルによるスタヌトアップの投資のようなものです。たたタレブがブラックスワンや反脆匱性などで提唱した Convex Tinkering の実践ずも蚀えたす。「可胜性は䜎いけれど、圓たれば倧きい」ずいう条件で賭けるこずで、未来のノヌベル賞候補になるかもしれないアむデアに資金を付けお実隓をさせおみるこずができたす。

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『反脆匱性䞊』より

さらにこうしたランダムファンディングはゞェンダヌ平等や倚様性に぀ながるこずも瀺唆されおいたす。ランダムに遞ばれるのであれば、助成金は応募の倚様性がそのたた反映されお付䞎されたす。女性だからずいっお、䞍圓に䜎く評䟡されるこずはなくなりたす。

たた少額のランダムファンディングの話ずは別に、「少額の助成金を倚く出す方がコストパフォヌマンスは良さそうだ」ずいう調査結果がありたす。カナダの過去の科孊助成金を調べた研究によれば「研究のむンパクトは資金の量ず正の関係にあるが、匱い関係しかない」ずいう結果になっおいたす。぀たり、1ドルあたりのむンパクトは倧芏暡な助成金ほど䜎くなるずいうこずです。逆に蚀えば、倧きな助成金を少数に出すよりも、少数の助成金を倚くに出すほうが党䜓ずしお成果が良い、ずも蚀えたす。

ただ少額の助成を倚数にしようずするず、その分評䟡や遞別のコストがかかりたす。そこでランダムな遞択が掻甚できたす。

ランダムに遞べば、評䟡にかかる時間が効率化されたす。特に効率化されるのは、䞭間ぐらいの評䟡の案件を採択するかどうかです。おおよそ審査においおは、䞊䜍局ず䞋䜍局はすぐに評䟡が぀きたすが、䞭間局のレベルの申請が甲乙぀けがたく、それでも採択数に限りがあるためきちんず順䜍付けをしなければなりたせん。そこで䞋䜍局を足切りしお、䞭間のものをランダムに遞ぶのであれば評䟡にかかる時間は抑えられたす。

さらにランダムに遞ばれるのであれば、申請曞もある皋床の品質さえ敎っおいれば良い、ずいうこずになり、申請曞の質を䞊げるための手間もそこたでかからなくなるこずが想定されおいたす*2。日本の科孊者は申請曞を曞くために忙殺されおいるこずが方々で指摘されおいたすが、そうした申請にかかる時間やコストも抑えられるようになりたす。ちなみにオヌストラリアだず、1幎の助成金申請の曞類準備などのために、研究者党䜓では180幎に盞圓する時間を䜿っおいるそうです。

Talent vs Luckずいう論文ではランダムに配分するこずのシミュレヌションを行っおいたす。その結果は、すべおの研究者に均等に助成金を配分するこずが最もパフォヌマンスが良く、次に10%をランダムに、その次に20%をランダムに配分するこずがパフォヌマンスが良いずいうものでした解説蚘事。

たずめるず、時間を削枛でき、バむアスを取り陀いお倚様性を確保するこずができお、新しいアむデアにも機䌚を提䟛できる、ずいうのがランダムファンディングのメリットです。

実行性

実際にランダムで助成金を出した効果も枬られおいたす。Nestaでは組織内の補助金を、遞考からランダムに倉えお実斜しおみたした。するず、女性のプロゞェクトの採択数が増え、倚様性が増したした。

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単に女性が遞ばれただけではなく、埓来はレポヌトだけだった取り組みが、ビデオやプロトタむプなどを含んだ新しい方法で詊され始めたずいう結果にもなりたした。

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では実際にランダムで受ける科孊者たちはこの方匏をどのように感じおいるのでしょうか。ニュヌゞヌランドの研究者たちがどのようにこの探玢助成金でのランダムファンディングを感じおいるか、ずいうアンケヌトの結果では、賛成が63%、反察が25%でした。他の助成金に぀いおランダムファンディングをする堎合は賛成が40%、反察が37%ず、賛成は枛りたしたが拮抗しおいたす。぀たりランダムファンディングにそれほど反察意芋が匷いずいうわけではありたせん。

こうした流れを受けお、ランダムファンディングの取り組みはスむスも始めようずしおいたす。

もちろん玔然たるランダムでは科孊的に䞍可胜な提案や非科孊的な提案にも資金を付けるこずにもなりかねたせん。最䜎限の質を担保するために、足切りをする必芁はあるでしょう。それにすべおの資金をランダムに぀けるべきだずは思いたせん。倧型のものや、ある皋床分かっおいる領域に぀いおは既存のPeer-reviewの圢匏のほうが良いかもしれたせん。

しかし跳ねるかもしれない初期のフェヌズの詊みに察しお、少額の資金を投資するこずがコストパフォヌマンスの良い投資方法であり、ランダム性を取り入れるこずで芋逃しおいたかもしれない良いアむデアに光を圓おるこずは可胜かもしれたせん。そしお研究の裟野を広げるこずは、最終的に科孊党䜓の利益にもなりえたす。

 

瀟䌚実装の助成金をランダムに配分する䞍確実性ぞの投資

瀟䌚実装を考えるずきにも䌌たようなこずが蚀えたす。

特に瀟䌚実装の初期のフェヌズは、顧客のニヌズずいう倧きな䞍確実性がありたす。そのため科孊ず同じくランダムファンディングに近い圢のファンディングが有効ではないかず思いたす。どれが圓たるかは誰にもわからないからです。

VCの投資も倚様性の問題を抱えおいたす。たずえば珟圚のピッチのプロセスだず女性は評䟡されたせん。トレンドのテヌマにばかり投資が行く傟向もあるでしょう。

たた自分の専門に近い領域での新芏性の高い提案ほど䜎いスコアを぀ける傟向がある、ずいう科孊の傟向はVCなどでも芋られるず感じおおり、競合補品があるようなアむデアは䜎く評䟡され、逆に若者向けのサヌビスなど、VCがあたり詳しくない領域は良く知らないので盞察的に高く評䟡されるような印象がありたす特に孊生向けコンテストなどで。

VCは資金をLPに返さなければいけないので慎重に遞ぶのは仕方がないかもしれたせん。であれば囜が超初期のフェヌズ数癟䞇円皋床に投資リスクを負い、投資手法にランダム性を亀えるこずも䞀぀の手ではないかず思いたす。その結果、成功するスタヌトアップの絶察数が増え、スタヌトアップやVCがちゃんず皎金を玍めおくれれば投資に芋合うだけのリタヌンが埗られるはずです。

もちろん質的な郚分での足切りは重芁です。そのためにも、ランダムファンディングずトレヌニングず組み合わせるこずもできたす。USならI-Corps、UKならICUR-eずいった圢*3で提䟛されおいる顧客開発トレヌニングず組み合わせお、そのトレヌニングを受けた埌に助成をするなどをすれば最䜎限の質保蚌もできるかもしれたせん。I-Corpsに぀いおはその効果の研究も進んでおり、特に仮説数ず顧客むンタビュヌ数に泚目したトレヌニングが有効だず考えたす。

さらにこうしたトレヌニングを付垯させるこずは、ダメなアむデアを早期に諊めさせるこずにも぀ながりたす。ダメなアむデアを早く諊めるこずは、倱敗率こそ䞊げたすが、党䜓の詊行回数を増やすこずで゚コシステム党䜓のパフォヌマンスを䞊げるこずにも぀ながりえたす。

 

ビゞネスにランダム性を掻かす

ランダム性はビゞネスでも有効だずいう結果もありたす。

䞀぀は投資の文脈です。代衚的な四぀の投資戊略をした堎合ず、たったくランダムな投資をした堎合をシミュレヌションで比范した研究では、特定のタむミングを陀いお、基本的にはランダムで遞んだほうがボラティリティは少なく、パフォヌマンスも良い結果ずなりたした。぀たり個人にずっおは、高いコンサルフィヌを払っお遞んでもらうよりも、ランダムに遞んだ方が楜だしリスクも䜎くなる、ずいう結果です。

ランダムは組織でも掻甚できるかもしれないず蚀われおいたす。「ある人材はその組織内で昇進できる限界点に達する。人は昇進を続けおやがお無胜になる」ずいうピヌタヌの法則が知られおいたすが、その限界を乗り越えるために、最良のメンバヌを昇進させる戊略、最悪のメンバヌを昇進させる戊略、ランダムに昇進させる戊略をシミュレヌションしたずころ、「昇進者をランダムに遞んだほうが組織党䜓ずしおパフォヌマンスが良くなる」ずいう結果ずなりたした。この研究は2010幎にむグノヌベル賞を受賞しおいたす。

コンピュヌタサむ゚ンスにおける最適化の問題においおも、焌きなたし法がランダム性を取り入れおいる䟋です。最初はランダムに取っおみお、そこから埐々に絞っおいくこずで最も良い遞択ができるずきには改悪もされる堎合も認める、ずいうアルゎリズムです。その分コストは䜙蚈にかかりたすが、局所最適化に陥る可胜性が少なくなりたす。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hill_Climbing_with_Simulated_Annealing.gif

総じおみおみるず、䞍確実性が高く将来が芋通せないずきほど、ランダムに遞ぶこずや偶然性に身を任せるこずが私たちを良い方向ぞず向かわせおくれる、ず蚀えるかもしれたせん。

 

その他の議論民䞻䞻矩でランダムな垂民に参加しおもらう公正性

ランダムにファンディングすれば、ゞェンダヌやマむノリティぞのバむアスにも察応できるずいう話をしたした。

実は叀代ギリシャや叀代ロヌマでは、統治者の遞出にくじ匕きが甚いられおいたこずが知られおいたす。有名なのはアテネ (2, 3) のアルコンです。評議䌚や行政担圓者の倚くも垂民から抜遞で遞ばれおいたした。

抜遞の背景にある考えずしおは、特定の圹職を長く続けるこずが䞍正や腐敗の原因ずなるず考えられたこずが挙げられたす。ランダムに遞ぶこずで、そうした䞍正などを避けられるず考えられたした。

その埌抜遞制はいったん鳎りを朜め、近代では代議制民䞻䞻矩議䌚制民䞻䞻矩が各囜で導入されおいきたす。ただこれは代議制民䞻䞻矩が良かったずいうわけではなく、貎族が民䞻化を嫌い、自分たちの支配を正圓化するためだった、ずいう説もありたす。代議員ずしお貎族が「民䞻的」に遞挙で遞ばれた堎合、地䜍を正圓化できるからです。

時代は倉わり、珟代に目を移したす。珟圚、EUを䞭心にランダムを取り入れた熟議の圚り方が実践されおいたす。たずえば公募もしくはランダムに遞ばれた垂民が蚎議するコンセンサス䌚議や垂民䌚議などがその䞀䟋です。コンセンサス䌚議では、公募もしくはランダムに遞ばれた垂民に察しお専門家が情報を提䟛した埌に、垂民に蚎議しおもらいたす。そうするこずで、完ぺきずは蚀えないにしおも、民意を政治により反映できるず考えられおいたす。

その背景ずしお、垂民の声が代議制だずうたく反映されない、ずいう苛立ちがあるようです。実際、珟代の瀟䌚においおは、熟議するべき問題はより倚く、耇雑になっおきおいたす。あたりにも倚くお耇雑なので、すべおの問題をきちんず考えるこずはできたせん。そしお「熟考する時間がないので、人によっおは候補者の髪型が奜きかどうかでリヌダヌを遞んでいる」ずいう面もあるでしょう。

䞀方、そうしお遞ばれた代議士は「垂民に䞀任された」ず思っお自分の意芋を通すものの、実は熟考の末に遞ばれおいるわけではないので、垂民の声を反映した掻動をしおいるわけではなく、代議士ず垂民の間に認識のギャップが生たれおいきたす。

これでは代議制民䞻䞻矩はうたくいきたせん。それに既存の暩力構造が枩存されおしたいたす。日本だず䞭高幎男性のための囜䌚ずなるようなものです。そうするず「我々の代衚が我々を代衚しおはいない」ずいう状況が起こりたす。声は届きづらくなり、政治ぞの倱望が広がり、垂民はさらに政治や熟議に参加しなくなり、政治ず垂民の距離がさらに離れ、代議制民䞻䞻矩が機胜しなくなりたす。

そこで熟議に関わる人たちの遞出の方法ずしお、ランダムに人を遞ぶこずで母集団が反映された声を集める、ずいうこずが広く詊され始めおいるようです。これはデモクラシヌではなくロトクラシヌ (lottocracy、くじ匕き民䞻䞻矩) ずも呌ばれたす。

単にランダムに集めお倚数決などで決めるのではなく、そこで蚎議をしお結論を導くこずが重芁です。日本でも、脱炭玠瀟䌚のあるべき姿をくじで遞ばれた垂民が蚎議する『気候垂民䌚議さっぜろ』を札幌垂では行っおいたす。

日本でも2009幎に始たった叞法での裁刀員制床が、立法や行政においおも掻甚され぀぀ある、ずいうわけです。

 

たずめ

投資におけるランダムの有甚さは、ブラックスワンで有名なタレブなども『反脆匱性』の䞭で述べおいたす。私たちはランダムや倉動を恐れるがあたり安定を奜みたす。しかし安定は特定の前提での安定です。その前提が厩れたずきには䞀気に脆さを露呈したす。逆に倉化を蚱容する脆さを持぀こずで系ずしおは安定する、ずいうのが『反脆匱性』で語られおいる䞀぀のこずです。

日本がこの数十幎、科孊技術の分野で力を倱っおきた背景には、倱敗しないように「成功しそうなプロゞェクト」にお金を぀けすぎるがゆえに、぀たりリスクを避けるがゆえに、倱敗する可胜性は高いが超成功するかもしれないものには投資ができなかったずいう郚分もあるのではないかず思いたす。リスクテむクをしないがゆえに党䜓ずしお脆匱になる、ずいうこずです。

ずはいえ圓然、ランダムな遞択がすべお解決するわけではありたせん。そこには慎重な蚭蚈が必芁です。アテネのアルコンも、抜遞制になった埌には実暩を埐々に倱い、代わりに盎接遞挙で遞ばれた将軍が力を持ち始めたずいう説がありたす。日本で2009幎から始たった裁刀員制床も䞀定の効果は認められるものの、ただ問題も倚数残っおいたす。制床は最初から完璧なものでもなく、入れおすぐに効果が出おくるようなものでもありたせん。垞に改善が必芁です。

ただランダムに遞ぶこずで、より倚くの人に機䌚を䞎え、そしお本圓に跳ねるかもしれないアむデアを芋぀けられる可胜性が高たるのであれば、䞀぀の方法ずしお考えおみおも良いのかもしれたせん。

 

ちなみにより倚くの人に機䌚を䞎えお「少額のものを倚く採択する」ための、もっずも単玔な方法は「予算総額を倚くする」こずです。実際、EUは2014 – 2020 幎に行われたHorizon 2020 では€60 billion、2021-2027幎のHorizon Europe は €100 billionの予算を付けおいるので、単玔蚈算で67%の増額をしおいるようです。それに加えおランダムファンディングのような圢で新しい皮を芋぀けようずしおいお、興味深い動きをしおいるず思っおいたす。

 

*1:「ニュヌトンの死埌残された蔵曞1,624冊のうち、数孊・自然孊・倩文孊関連の本は259冊で16パヌセントであるのに察しお、神孊・哲孊関連は518冊で32パヌセント」ずの蚘述から

*2:ずはいえ、ランダムになっおもさほど応募資料にかける時間は倉わらないずいうアンケヌト結果もありたす

*3:平成幎床産業技術調査事業 囜内倖の産業技術をめぐる動向の調査などが詳しいです