🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

「パズルの枠を描く側になる」—— スタートアップが共創で成長する方法

「自社を越えた大きな構想を描けるかどうか」が、今一層大事になってきているように思います。

特に、

  • 複数の企業が協力し、共創やオープンイノベーションを企図するとき
  • 顧客の大きな課題解決を行おうとするとき

といったときに、大きな構想を描けるかどうかが問われていると感じています。

そこでこの記事では、共創や課題解決における構想の重要性を、ジグソーパズルの比喩を用いながら、特にスタートアップ向けに解説します。

構想のためのピースを埋める共創

ジグソーパズルを思い浮かべてください。このパズルの全体像や枠が「構想」です。

その構想を実現するために、各社がピースとなるリソースを拠出する――これが共創だと言えます。

ただ、現状のリソースだけではピースが埋まりきらないときもあります。構想が大きければ大きいほど、今はまだない技術や、今はまだない事業が必要だったりするので、空白の部分は大きくなるでしょう。

そのときには、足りないピースを他から持ってくるか、もしくは自社が成長してその空白地帯を埋めます。

つまり、共創とは、自分たちの身の丈を越える構想を実現しようとすることであり、その過程でお互いが成長するという取り組みでもあるとも言えます。

こうした観点から言えば、スタートアップが自社の成長のためにやるべきことは、

  • 自社や他社の現在の能力を超えるような構想を描き、
  • その実現の中で自社が大きくなるような道筋を描くこと

と言えます。

 

特に最近のスタートアップで起きつつある2つのシフトが、こうした構想と共創の重要性を増しているのではと思っています。

シフト 1:「現場の課題」ではなく「会社の課題」へのシフト

従来のスタートアップは、顧客の目の前の課題やバーニングニーズを発見し、解決することが鍵でした。デジタル技術の成熟と普及によって、これまで解かれていなかった現場の課題が解決しうる状況になっていて、それを解決すればスタートアップは大きな企業になりえたからです。

しかし、現在のデジタル技術で解きやすい課題や、現場で既に顕在化している課題の多くが先人たちの挑戦によって解かれた今、残されていて解決できる課題は比較的小さな課題が多くなってしまいました。その結果、現場の課題にフォーカスしすぎると、小さなスタートアップにしかならない可能性が高まっています。(生成AIが根本的に従来のソフトウェアを変えるのであれば別ですが。)

そうなると、顧客側で顕在化していない課題を提案側が先んじて提案していく、といったような、問題発見型から問題提起型へのシフトが起こります。

ただ、そのときに設定する問題や課題が小さいと、解決時に生まれる進歩の差分も小さくなります。

そのため、現場の人たちの課題を解くというよりは、会社全体にかかわるような課題や、より遠く大きな戦略的な課題を解いていく、という提案を行っていくことになります。

実際、私の周りにいる、成長しているSaaS系のスタートアップは、エンタープライズという大きな顧客に向かうか、顧客企業の戦略的な課題を解こうとしている、あるいはその両方を行っており、その際に自社の事業を超えて、その産業のあるべき姿などの大きな構想を語り、顧客を説得している傾向にあるように見えます。

以前書いた課題解決パラダイムからの脱却も同様の文脈です。

シフト2: ソフトウェアからディープテックへの領域のシフト

昨今、日本のスタートアップエコシステムで期待されているのはディープテックと呼ばれる領域です。先端的な技術を用いることが多いディープテックでも、こうした構想が求められているように思います。(創薬などは別だと思いますが)

まずディープテックスタートアップが取り組む技術は技術成熟度が低いことが多く、「今すぐ」の課題解決には不向きであり、仮に成熟度の低い技術を事業の現場に持って行っても、「使えない」と言われてしまいます。なぜなら現場が求めているのは、目の前の課題を解決できる、今すぐデリバリー可能な技術(TRLで言うと 8 - 9)だからです。

そうなると、

  • 短期で技術を磨きに磨いてそのレベルに引き上げて解決する
  • 顧客の中長期的な課題を解決しに行く

といった対応が必要とされます。しかし前者が実現可能なのは稀で、多くは後者のアプローチになるでしょう。

そうすると、顧客の戦略的な課題の解決や、顧客の会社の新規事業を一緒に作っていく、といったような中長期の提案が必要になってきます。そしてスタートアップ自身が成長するためには、提案する構想は十分大きな構想である必要があるでしょう。

つまり、まだ技術的に成熟しきっていないディープテック技術であればあるほど、顧客にとっての中長期の課題や会社全体の課題を解きに行く、ということをしなければ話が噛み合いづらい、ということです。

ソフトウェア製品は基本的にTRLが8-9であり、課題が分かれば解決策をおおよそ作れる、という傾向にあるため、ソフトウェアのスタートアップアプローチとは大きく異なることになります。

事業を構想する

私たちは普段、自社の事業成長のために事業計画等の構想を考えます。そのときに考えるのは、通常、社会の中のピースの1つである自社をいかに大きくするか、といった構想や、顧客企業に合うように自社のピースのでこぼこを変化させるような構想です。

しかしここまで説明してきたとおり、共創や中長期の課題解決をしていくための大きな「大きな構想」はそうではなく、自社を超えて、より大きな枠を描くことではないかと考えています。

そのうえで、自分たちがその構想の中でどのような意味を持つのかや、どれぐらい重要なのかを語ること、つまり自社が高く評価される文脈と構想を設定することが、自分たちの事業の価値や成長余地を決める、ということです。

たとえば同じピースであっても、構想や文脈が異なれば価値は異なります。かといって自社だけが得をするような構想だとしたら誰も付いてきません。その構想が社会的に大きく求められるものであれば、協力してくれる人は増えやすいでしょう。

そうした自社にも他社にも社会にも良い構想を描けるか、というのが、共創をしながら顧客の「会社の課題」を解決し、そしてより大きな産業を作っていくうえでは大事なスキルなのだろうと思います。

 

話す相手も変わる

こうした構想を中心に事業を考えると、「スタートアップが話すべき人」も変わってきます。

これまでスタートアップが話すのは主に顧客企業の中の、特に現場を担当する人が中心でした。しかし、多くの事業部や現場の担当者は、今の事業の最適化による利益の向上、かつ短期での課題解決を狙うよう設計されているため、こうした構想にはピンとこないことが多いはずです。仮に中長期の戦略的な課題があったとしても、現場の事業部レベルでは考えている人は少なく、それを解くインセンティブ設計もないことがほとんどです。

戦略や中長期の課題を考えているのは通常、次世代の事業成長を考えている事業部長やその上にいる幹部クラスであり、そうした人たちに提案しなければこうした中長期の話は刺さりません。そうした人たちにいかに大きく説得力のある構想を打ち込めるか、それが中長期にかかるビジネスをしていくうえではとても重要なのではないか、と思いますし、そこに提案できるだけのネットワークをどう持つのか、というのがより重要になってくるのでしょう。(あるいはスタートアップ同士で採用し合うか、です。)

実際、ディープテックスタートアップの起業家から聞く話として、「同じ会社に提案しても、現場には刺さらなかったけれど、幹部クラスには刺さった」という話はしばしば聞きます。むしろ現場に持って行ってしまうと、ポテンシャルのある技術が小さい解決策へと丸められてしまうことすらあります。

最終的に何かを進めるのは現場なので、顧客の現場の声を聞くことももちろん大事ではあるのですが、と同時に、大きな構想をどう描いて、顧客の大きな課題を解決したり、顧客の事業戦略の中に自社を組み込めるかどうかが、今後スタートアップが急成長していくためには重要なのだろうと思います。

スタートアップが構想を描く

この構想を描く役目は、大企業でもスタートアップでもどちらでも構いません。しかし、もしスタートアップが急成長したいのであれば、自分たちが急成長できるような構想を描かなければなりません。それができなければ、他企業の描いた構想の中でうまく使われる、一部のパーツの提供に終わってしまう可能性が高くなります。特に交渉力の弱いスタートアップであればあるほどそうなってしまうでしょう。

また、大きな構想であればあるほど、実現可能性矢リスクは高まります。ただそうしたリスクを取れるのがスタートアップの社会的な期待でもあるはずです。

よって、スタートアップが自社の事業を越え、そしてパートナーとなる他社の事業をも越えて、より大きな構想を描き、「この構想が実現できれば御社にも大きなメリットがあります。この共創を通して一緒に成長し、この構想を実現しましょう」といった説得力のある提案することではじめて、自社の事業がやりたかったことが進む――という形になるのではないか、と思います。

もちろん、何もピースを持たない状態で構想だけ話しても乗ってくる人はいないでしょう。最初は小さな実績となるピースが必要になります。それでも最初は小さな共創から始まるのかもしれません。しかしその先にある心踊るような、自社の事業のためではないより広く大きく魅力的な構想と、そして足場となる実績があることで、共創や顧客獲得につながっていくのでは、と思います。

日本の既存企業側もこうした大きな構想を描ける人はまだまだ少ないと聞いています。であれば、それはスタートアップが大きな構想を提案していける良い機会だとも言えます。

カンパニークリエーションも構想ありき

カンパニークリエーションも、こうした構想という大きな枠を作り、その中のピースとしての事業が足りないから、その会社を作りに行く――という動きをしているように思います。

たとえば、VargasのNorthvoltは「EUの電化➡バッテリーが不足」でしょうし、同様にStegra (H2 Green Steel)も脱炭素の構想の中で足りないピースとしてのグリーン鉄鋼を作りに行こうという取り組みだったように見えます。

産業家として未来の産業の構想を描く

以前、「起業家から産業家へ」という記事を書きました。

ある意味で、各国政府や大企業すらピースとして見立てて、構想の枠となるパズルの全体像を描き、その中で大きなピース(事業)になり得る大きな空白地帯を見つけ、その領域でどういった事業をスタートアップとして作っていけるのか――そうした発想ができる人が産業家だと言えるのだろうと思います。

そうした大きな構想を描くと、ほぼ間違いなく自社だけではできなくなり、自然と他社との共創もせざるをえなくなりますし、オープンイノベーションにもつながっていくのだろうと思います。

まとめ

解くべき顧客の課題が、顧客の「現場の課題」から、 顧客の「会社や戦略上の課題」になりつつある今(あるいはそうしなければスタートアップも大きくなれない今)、こうした「自社の事業を越えて大きな構想を描いて提案し、顧客と共創する」ということがより重要になってきているのでは、と思っています。

特にこれからハイグロース・スタートアップを始めたいという起業志望者の方々は、こうした観点でもアイデアを考えてみても良いかもしれません。

 

その方法論の一部は過去の記事でいくつか触れています。たとえば『未来を構想する』や『デザイン思考🎨🧠を超えて、グランドデザイン🗺️を』などです。

また『リソースフルネス(仮)』という本ではそのピースを集める方法を書こうとしています。もしご興味があれば、そうした記事や本も参照してみてください。

生成 AI 時代のアイデア探索方法 (2026 年版)

生成 AI の登場でプログラミングをはじめとした知的作業の方法が大きく変わってきています。

特に2025年は、調査やアイデア生成のタスクにおいて、生成AIの実用度が増したように思います。ChatGPT Pro 5.2 の登場と、着実な NotebookLM の進歩+Gemini 3とNano Bananaは、調査や情報の構造化という観点でとても大きな進展でした。

アイデアの作り方については、過去、2023年に「Climate Tech スタートアップの始め方」という記事でまとめたことがあります。今回は、生成AI以後の、2026年2月時点でのお勧めの「アイデアの探索方法」をまとめてみたいと思います。

🎯 この記事のゴール

この記事では、アイデア(仮説)を作るステップを細かく分けながら、その途中で生成AIをどう使うかについてお話しします。

アウトプット目標は「この仮説を元に人に会いに行けば、良いフィードバックが返ってくるレベルの仮説を作る」ことです。生成AIとのやりとりだけで、完璧な仮説を作る、というものではありません(本当に良い仮説を作るためには、生成AIが持っていないような情報が必要なので、行動を伴う実験や仮説検証を繰り返す必要があると思います)。

なお、本稿では「スタートアップのアイデア」を主に扱いますが、他の領域(たとえば研究など)でも一部は使えるのではないかと思います。適宜読み替えてみてください。

💡 前提:生成AIをアイデアの探索で使うには「ステップ」が大事

生成AIが進歩したとはいえ、生成AIに対して「○○の領域で新しいアイデアを作ってください」というプロンプトを投げても、すぐに筋の良い仮説が返ってくるわけではありません。

そこで良いアイデアや仮説を作るためには、

  1. アイデア/仮説を形作っていくプロセスを段階に分ける
  2. それぞれの段階で生成AIを使い、アウトプットを人間がレビューする
  3. そのうえで追加の指示を与えてアイデアを洗練させる

というプロセスを経ることになります。

そこで重要になるのが「どういうステップで進めば、アイデアの探索と形成がうまく進むか」です。

このあたりのステップについては『仮説行動』という本で細かく整理しているので興味があればご覧いただければと思うのですが、簡単にまとめると、初期のアイデアの探索と形成で有効な活動は、以下のステップを適切に繰り返す(ループする)ことだと考えています。

  1. 関連情報の大量摂取
  2. 関連情報の構造化と、それによる「分からないこと」のあぶり出し
  3. 「分からないこと」に対する仮説の生成(発散)
  4. 生成した仮説の検証(収束)
  5. 検証結果や新情報による仮説の修正・再生成

そして現在、生成AIのサービスはこれらのステップの作業の一部をかなり効率化してくれます。

そこでこの記事では、仮説行動で解説しているステップに沿って、その途中で生成AIをどう使っていくのかについて簡単に解説します。

🚨 使うツールと制約

調査に使うお勧めの生成AIは ChatGPT Pro の最新版です(月3万円のプランが必要です)。

無料で使えるものの中では、この原稿を書いている 2026/2/1 時点では Kimi K2.5 Thinking などがお勧めですが、たぶん今後も変わっていくので、適切なものを選んでください。なお、無料版は機微な情報を入れないように気をつけてください。

またGoogleのNotebookLMやGoogle SheetのAI関数も適宜併用することをお勧めしています。

こうした生成AIでプロンプトを打つときは、なるべく音声入力を用いて、複数のウィンドウを開いて2-3個並行して調査を回すと時間が節約できるのでお勧めです。ChatGPT Pro は遅いのでタイピングでも良いですが、Kimi やGeminiは早いので、2-3個並行して回せます。音声入力は現時点ではAqua Voice  や Typless などが精度が高い印象があります。

なお生成AIサービスであっても、仮説の検証はまだ苦手としているため、検証は人間がある程度する前提で読んでください。

🐾 アイデアを形作るステップ

この記事は以下のようなステップで進んできます。

  1. 領域の仮決め
  2. 領域の全体像と具体例を掴む
  3. 特定の具体例を深く調べる
  4. 作業仮説を生成する
  5. 作業仮説を検証する
  6. いったんアイデアを決める

ここからはそれぞれのステップについてお話ししていきます。

(1) 候補となる領域を広く探索して仮決めする

まずアイデアを考える前に、アイデアを考える領域の枠をある程度決める必要があります。枠のない探索はあまりに非効率だからです。

こうした領域の選定では本来であれば、生成AIを使うよりも、アイデアの筋の良い人に「今注目の領域は?」と聞いてみた方が良い回答を得られる傾向にあります。ただ、そういう人が全ての人の周りにいるわけではありませんし、常に聞けるわけではありません。それに筋の悪い人から領域をお勧めされるとかなりの遠回りになってしまうので、とりあえず生成AIで聞く、というのは悪くない落とし所ではないかと思います。

たとえばざっくりとで構わないので、以下のようなプロンプトを ChatGPT や Kimi などに聞いてみて下さい。

これから起業をして、急成長するスタートアップを作りたいと思っています。

以下の私の興味関心と条件に当てはまる領域を、第一原理思考的を用いながら深く思考した上で、提案してください。そのうえで参考となるスタートアップを具体名で挙げてください。追加の質問があれば調査の前に質問してください。

 

## 自分の興味関心領域

<<ここにあなたの興味関心を入力してください>>

 

## 条件

  • 興味関心にあう領域が望ましい(ただし優先度は低い)
  • 今はまだ相対的に市場が小さいけれど、15年後には現状の50倍以上になっている領域
  • 今、ゼロから始めて、15年後には時価総額1兆円を超える事業を作れる領域(時価総額計算に必要なPER等は当該の業界を参考にする)
  • 他人から見ると狂っていると思われているが、原理的には可能な領域(多くの人は否定するような領域)
  • 大企業では手が出せず、スタートアップだからこそ挑戦できるハイリスク・ハイリターンの領域
  • 技術的な進歩がここ数年で加速度的に進んでいる領域
  • 国内外の一般的な新聞やニュースサイトではあまり言及されていない領域(専門誌で少しだけ触れられているような領域)
  • 国内外でかなり少数のマニアックな人や専門家が熱狂的に訴えている領域
  • 私自身の専門性に関わらず、大きな事業を作れることを優先してください(専門性は後から学んで追いつきます)

 

## 注意

  • 実現すればかなり大きいが、現時点ではかなり異端的に見られている事業領域を提案するようにしてください

上記はあくまで例です。皆さんごとの工夫を凝らしてプロンプトは改善してください。改善の際のお勧めは以下です。

  • 上記のようにざっくりと作ったプロンプトは、生成AIに改善してもらうことをお勧めします。たとえば、「以下のプロンプトを、現在のプロンプト改善のベストプラクティスを用いて改善してください。その際、どういった点で改善したかを最後に述べてください。(以下、上記のプロンプトを挿入)」といったようにです。上記のプロンプトは可読性を高めるため、かなりざっくりと書いています。
  • こういった探索的なものは、何度か同じプロンプトを入力してみることもお勧めです。確率的に回答が変わるので、ガチャだと思って2,3度やると良いと思います。(temperature 指定ができるものは大きめにしておくなど工夫してください)
  • 探索の時には、逆に条件や制約を貸すことがとても重要です。制約がないと茫漠とした平均的な回答しか帰ってきません。探索する範囲を制限することで、生成 AI はその制約の中でなんとか解を見つけようとして、これまでになかった回答が返ってくることが多いです。上記プロンプトに条件が多いのはそのためです。

 

気になるキーワードを深掘りする

こうした調査の中で「気になるキーワード」を見つけられれば、そのキーワードを中心に色々調べてください。キーワードが手に入れば、それを手がかりにかなり先に進める傾向にあります。

キーワードは具体的なスタートアップ名かもしれませんし、技術の話かもしれません。そうしたキーワードを楔にして、その周辺を掘り下げていくと良いでしょう。

 

疑問を投げて掘り下げる

出てきた回答に対して分からないところがあれば、生成AIに疑問をぶつけましょう。

ただ、初見の領域だと、疑問を持つのは難しいので、そこも含めてLLMなどで

これらの領域をより深く探索していくための質問やプロンプトの例をいくつか出してください

といった風に疑問やプロンプトを自動生成させてみると、次に入力するべき疑問の参考になると思います。

 

複数の疑問を生成 AI で一気に回答させる

自分の疑問や、生成AIに作ってもらった疑問の中で良いと思った疑問を、Google Sheetにリスト化し、Google Sheet の AI関数で一気に答えさせるのも便利です(チャットインターフェイスだと回答待ちの時間がかかる & 一気に1度のプロンプトで回答させると精度が落ちるので)。

たとえば、セルに以下のような関数を入力して、下のセルにも適用します。

=AI("以下の疑問に回答してください: "&A2)

AI関数で使われるGeminiの性能はまだイマイチですが、ざっくりとした理解であれば多少性能が落ちても良いでしょうし、参考にはなります。また疑問と回答を記録しておくのは、あとにも役立つことがあります。

(※ただしAI関数を使うには、Google AIかWorkspaceの契約が必要ですのでご注意ください。)

 

領域を緩く決める

ざっくりと領域をいくつか調べていった後に、あとで変更するかもしれない前提で、領域を仮決めします。とりあえず探索する領域の枠を緩く決める、というイメージです。

30分や1時間といった制約をつけて複数個調べたうえで、領域を決定するのも良いでしょう。いずれまた領域選定に戻ってくるのでさっと決めても良いと思います。

(2) その領域の全体像と複数個の事例を広く調べる

1つの領域が決まったら、その領域の全体像と事例を調べます。これは並行して進めていくことをお勧めします。

全体像というのは抽象度の高い枠組みを提供してくれ、事例は具体性が高く手触り感のある情報を提供してくれます。基本的にはこの両方を高速に反復横跳びしながらフォーカスを定めていくことになります。

 

全体像を理解する

テーマを理解します。ただし、「全体像を完璧に知る」というのはいくら時間が合ってもたりないので、そこを目指さないようにしてください。

たとえば宇宙太陽光発電としたときには、

宇宙太陽光の事業・技術・スタートアップの最新状況を、複数の専門家の視点を用いて、大学1年生にも分かるように整理してください

とプロンプトに入れて調べてもらってください。(これもできれば事前にプロンプトを生成AIに改善してもらってから実行した方が良いと思います)

分からないところがあれば、それを深掘りしてみましょう。

ただ初見の領域では疑問も持ちづらいと思うので、

これらの領域の全体像をより深く広く理解したいと思います。そのための追加の質問やプロンプトの例をいくつか出してください

というふうに疑問を出してもらい、上述したようにGoogle Sheetなどで一気に回答してもらうなどもありだと思います。

ここでは NotebookLM を使うこともお勧めです。一旦その領域をDeep Researchしたうえで、スライドを生成したり、Podcastや動画で出力することで、文字を読むのとは違う形で理解を進めることができます。

 

最先端の具体例を調べる

例えば以下のような形で、具体的なアイデアを調べていきましょう。できるだけ最先端の例を調べることをお勧めします。基本的にはそれに近いアイデアを作っていくことになるからです。

スタートアップの場合は、たとえば以下のようなプロンプトで生成AIに問い合わせてみてください。

宇宙太陽光のスタートアップの具体例を調べ、それらの特徴と進捗を複数の専門家の視点から整理してください。最新の情報を調べるため、必ず検索を行ってから整理してください。

スタートアップから調べることで、最先端の挑戦を知ることができます。研究であればarxivなど、査読前の論文を中心に調べるなどをするのも良いかもしれません。

 

違うと思ったら領域を変える

色々調べていく中で興味関心を惹かれる最先端のアイデアがなければ領域選定に再び戻って、違う領域を調べてみましょう。

(3) 特定の具体例を深く調べる

ある程度、領域の全体像や、それぞれのプレイヤーなどの地図ができてきたら、個別のアイデア(ここではスタートアップ企業)を深掘りして、自分ならではのアイデア(仮説)を作る準備を行います。

詳細な情報は通常の生成AIサービスでは、ハルシネーションが起こりやすいため、生成AIサービスでプロンプトを投げるよりも、正確な情報源をNotebookLMにまとめることをお勧めします。

その際のコツは以下の通りです。

  • NotebookLM ぎ Deep Research を使うと変な情報が混ざることがあるのでお勧めしません。一手間かかりますが、Fast Search をしたうえで、手動で適切なソースのみを選ぶことをお勧めします。
  • 特に起業初期の情報を調べるなら、YouTube や Podcast などを積極的に入れることをお勧めします。音声情報のほうが機微な情報が含まれる傾向にあります。
  • 技術の詳細が表に出ていないことがあるので、その会社のGoogle Patentやキーパーソンの論文なども入れましょう。

ここでも、NotebookLMに集めた情報をスライドにしたり、Podcastにしたりすることで、理解を素早く行っていくことができるでしょう。

たとえば、こうした調査手法を使って調べた最新のスタートアップの情報を紹介する Podcast を YouTube や Spotify で行っています。もし興味があれば購読して、具体例を広く知るきっかけとしていただけると嬉しいです。

open.spotify.com

また。1つのアイデア(会社)だけでこれを行うのではなく、複数のアイデア(会社)に対して行いながら、それぞれのアイデアの特徴を詳細に知っていきましょう。

なお、ビジネスのアイデアの場合、上場企業なども調べることをお勧めします。最終的な上場時の株価の参考になるはずです。その際は、「会社名 S-1」「会社名 investor presentation」などで調べてNotebookLMのソースとして登録しましょう。できれば画像付きのPDFなどは自分でも見た方が良いと思います(参考になるので)。

その企業の当該事業の問題点などをNotebookLMで聞くか、あるいはChatGPT Proなどを使って聞くと良いでしょう。

 

疑問を尋ねる

調べていく中で沢山の疑問が出てくるはずです。特に専門が異なると用語自体が分からない、ということもあるでしょう。疑問が出てくるというのは良いことなので、それをどんどんと生成AIに聞いていくと良いと思います。

これも一気に答えさせるならGoogle Sheet、深く掘り下げたいならチャットでやっていくと良いのではと思います。

 

全体像の中の空白を見つける

複数の具体的な取り組みをより深く知っていくと、業界や領域の解像度が上がっていき、何が今できていて、何ができていないのか、それがなぜなのか、というのが徐々に見えてきます。

新しく見えるアイデアというものは、往々にして

  • これまでに何かしらの理由があって実現できていなかった
  • 過去に試されて失敗した

といった過去がある傾向にありますが、このあたりも把握することで、「原理的にできないのか」「なぜ今ならできるのか」といった整理がつくようになってきます。

このように「既に実は分かっているが、自分は分かっていないこと」を塗りつぶしながら、「誰も分かっていないし、自分も分からないこと」を見つけていく作業をしていく中で、本当に良い新しいアイデアが見えてくるものです。

もし原理的には可能だが、実現されていない理由や課題が分かれば、それを解決するための方法を探す、という形でスコープが狭まってきます。

(4) 作業仮説を作る

これまで調べてきた中でアイデア(仮説)が生まれたとしたら、それをそのまま使っても良いでしょう。参考になる(ベースになる)アイデアがあるのであれば、それを少し変えていくような形でアイデアを作っても良いと思います。

もし、まだアイデアらしいアイデアが作れていないのであれば、この作業仮説も生成AIにベースを作ってもらうこともありだと思います。たとえば以下のような形です。

これから起業をして、急成長するスタートアップを作りたいと思っています。

以下の領域・条件に当てはまるようなアイデア(作業仮説)を、第一原理思考的を用いながら深く思考した上で、複数個提案してください。それぞれの提案の特徴も比較しながら説明してください。
追加の質問があれば調査の前に質問してください。

 

## 領域

<<調べてきた内容や領域などを色々と入力する>>

 

## 条件

  • 今、ゼロから始めて、15年後には時価総額1兆円を超える事業を作れる(時価総額計算に必要なPER等は当該の業界を参考にする)
  • 他人から見ると狂っていると思われているが、原理的には可能
  • 大企業では手が出せず、スタートアップだからこそ挑戦できるハイリスク・ハイリターン
  • 「なぜ今か」を説明できる(規制の変化、技術的な進歩がここ数年で加速度的に進んでいる、など)
  • 勝ち筋(wedge, moat, 差別化要素)が見いだせる
  • 既存のアイデアとは少し異なる特徴を持つ
  • 必要な資金は集める前提ですが、初回に集められる金額は10億円を最大値としてください

 

## 注意

  • 実現すればかなり大きいが、現時点ではかなり可能性が低いと見られている事業領域を提案するようにしてください
  • 反証可能な命題(仮説)にしてください
  • 該当するアイデアが生成できなければ、該当するアイデアがなかった旨を報告してください

できれば生成AIに入力する「アイデアの領域」は詳細に書いた方が望ましいです。その情報は、生成AIにとって探索の中心地を示す『ピン📌』となり、その周辺を生成AIが探索することになります。どこにピン📌を置くかで生成AIの返答はかなり変わります。

生成AIへのプロンプトは、一般的な質問であればあるほど、一般的な答えになりますが、特殊な指定をすればするほど、より適切な提案をしてくれる傾向にあります。

 

アイデアの全体像を描く

このアイデアをさらに精緻化するために、まず仮説の全体像(マップ)を描くことをお勧めします。この仮説が成立するためには、何が成立すればよいのか、というのを整理することです。

生成AIと壁打ちを繰り返しながら徐々にブラッシュアップします。

最終的に

FoundX のピッチテンプレート (https://review.foundx.jp/entry/2025-slide-template) に合わせて事業計画を立ててみてください

などとお願いして一通り作ってもらうのも良いと思います。

 

一部の仮説を精緻化する

このアイデアをさらに精緻化するために、生成AIと壁打ちを繰り返しながら、仮説の中で特に重要な仮説を徐々にブラッシュアップします。

「他の領域の技術進歩をこの領域に使えないか?」「全く試みられていないけれど原理的には可能なアプローチは?」「この領域でブレイクスルーを起こしうる、まだ問われていない問いは?」といったような質問をいくつかしていくと良いでしょう。

 

肉付けしてスライド化する

生成AIが作った作業仮説を理解するのには一手間かかります。

そこでNotebookLMに対して、このアイデアに関連する情報を集めて、このアイデアを中心にスライド化やレポートで出力すると、理解が深まりますし、スライドであれば他人にも説明しやすくなります。

NotebookLMのスライド出力の際には、YAMLでページ構成を指定することをお勧めします。現状の最大ページ数は15ページなので、15ページに収めるようにしましょう。

(5) 作業仮説を検証する

良い仮説が生まれてきたら、その仮説を生成AIを使って検証するフェーズに入ります。ただし、現時点での生成AIは、仮説検証があまり得意ではない、という点には注意してください。あくまで参考程度にしておいた方が無難ですが、とはいえ役立つところは多いです。

たとえば以下のようなプロンプトでアイデアを検証します。

これから起業をして、急成長するスタートアップを作りたいと思っています。

以下のアイデア(作業仮説)を検証してください。その際、多くの関連情報を集めながら、第一原理思考的を用いながら深く思考した上で、複数の専門家の観点で批判・検証し、改善点を述べてください。追加の質問があれば調査の前に質問してください。

 

## アイデア

<<あなたのアイデアを入力>>

 

## 出力

  • 検証結果
  • アイデアの改善案
  • 前提・未知の部分
  • 検証できなかったこと
  • 追加の検証のためにお勧めの行動

 

## 検証するべき点

  • 今、ゼロから始めて、15年後には時価総額1兆円を超える事業を作れる(時価総額計算に必要なPER等は当該の業界を参考にする)
  • 原理的には供給は実現可能(技術・ビジネスモデル)
  • 需要は十分に大きくなる可能性がわずかでもある

 

## 検証方法

  • 強いエビデンスを活用して検証する
  • 検証に利用した事実を一覧化する
  • 事実と推測は分けて記載する

 

## 注意

  • 実現すればかなり大きいが、現時点ではかなり異端的に見られている事業領域を提案するようにしてください
  • 該当するアイデアが生成できなければ、該当するアイデアがなかった旨を報告してください

 

厳しく検証するよう促す

生成AIはユーザーに寄り添う(嫌なことを言わない)傾向にあるので、厳しく批判するように促すことをお勧めします。レッドチームや批判的な専門家など、生成AIに対して明確な役割を与えて批判させるようにしてください。

特にアイデア全体のときは、検証するべき条件をきちんと与えておくと良いと思います。たとえば仮説の条件適用に関する足切り(ビジネスだと時価総額)などです。

 

自分で説明してみる

生成された仮説を自分である程度話せるかどうかは、自分の理解度を測る上でも、また検証をする上でも便利な方法です。説明できるかのテストや、凡例を言えるかどうか、また一部の仮説を変えたらどうなるかなど、多角的に仮説を自分で検証してみるのも大切です。

 

検証のために行動する

上記の検証は主に情報収集だけでできる範囲で行うことになりますが、検証は生成AIで完結するわけではありません。海外だとうまくいっているようなやり方(仮説)でも、日本ではうまくいかないことなどは日常茶飯事にあるので、きちんと現場の意見を聞きに行く必要があります。

ある意味で、人に残された仕事は、Webに掲載されていない情報を撮りに行って仮説を検証することや、新しいデータを生み出してそれを生成AIに与えてさらに良い仮説を作ってもらうことです。

特にネットやデータになっていない情報は生成AIは間違いますし、どれだけ突飛なアイデアを出すように言っても一般的なアイデアに寄ってしまいがちです。自分ならではの情報を掴むためにも、行動をして検証しながら、新しい情報を得て、新しい仮説を作ってください。

 

検証のなかで「目の前の課題」に行かない

人と話していると、目の前で困っている課題に目が行きがちです。しかしスタートアップを目指すのであれば、その課題が十分大きいかどうか、もしくはその課題が大きな課題に至るための一歩目になるかどうかがとても重要になります。

検証を繰り返す中で人はつい小さな仮説に局所最適化してしまいがちなので、検証の条件は常に持った上で進めていくことをお勧めします。

(6) アイデアを仮決めする

このあたりでおおまかなアイデアを仮決めして、詳細な事業計画を作り始めます。事業計画を作る中で、自分の分からないところがまた出てきて、それをより深く検証したりすることも出てきますが、いったんはこの方向で進める、というのを決めないと動き始められないので決めましょう。

 

人と話しながら決める

アイデアを評価できる人(投資家や教授など)と話す機会を設けて、今最も筋が良いと思っている仮説を何個か当ててみるのも、決める前の活動としてお勧めです。どうしても生成AIだけでは判断しきれないところもあります。それに場合によっては、検証のための顧客候補などを紹介してもらえるかもしれません。

なお、こうした場で他人から良いフィードバックをもらうには、ある程度筋の良い仮説を持って行く必要があります。そうした仮説を作ることができてフィードバックがもらえるようになればフィードバックループが回り始めてどんどんと仮説は良くなっていくので、そのレベルの作業仮説を作れるまで頑張りましょう。

Tips: より効率的に行うために

最初からワークフローを整える必要はないと思いますが、なれてきたら基本的に仮説を作っていくという形でMyGPT や Skills を作って管理すると良いと思います。たとえば私はMyGPTをいくつか作ってフローにしています。

今のところ ChatGPT Pro のほうが性能が良いのでMyGPTを使っていますが、いずれChatGPTにもSkillsが来れば、そちらにまとめるのが良いのかなと思っています。

また領域設定という観点では、海外のシンクタンクなどが広めのアジェンダを調べてまとめていることが多いです(やや近視眼的なところもありますが)。そうした情報をまとめた Podcast/YouTube なども配信しているので、そのあたりも参考まで共有します。

open.spotify.com

📝まとめ

領域をざっくりと決めてから、アイデアを検証するまでの一連の流れを整理し、その中でどうやって生成AIサービスを活用するかをまとめました。

だいたい1日100回ぐらいプロンプトでやりとりを繰り返し、行動を伴う検証をしながら、ときには他人と相談することを1ヶ月ぐらい繰り返して頑張れば、ある程度は筋の良い仮説に当たれるはずです。

ポイントは、ちゃんと時間を使うことと、駄目そうなアイデアにはさっさと見切りをつけて、次に進むことです。

ハルシネーションには気をつけながら、おおよそ筋の良い仮説を作るところまで至れば、あとは行動をしていくと、より詳細な情報を得られる好循環に入ります。その結果、筋が良さそうに見えるアイデアでも8割ぐらい間違っていることが徐々に分かってくるのですが、とはいえそのレベルになると、Web では手に貼らない情報が手に入り始めて、よりアイデアの洗練が進みやすくなるので、まずはそこを目指して頑張ってみてください。

 

いずれはこうした作業もAIが自律的に実施してくれるようになるのかもしれませんが、一旦現時点の技術を用いた方法論としてまとめておきます。

参考記事

より詳細には以下のスライドなどもご覧下さい。

speakerdeck.com

speakerdeck.com

日本のスタートアップ・エコシステムのモメンタムを上げる:思想やテーマを語ることについて

「日本のスタートアップエコシステムのモメンタムが下がっているのでは」という話を最近立て続けに聞きました。

私自身もそう感じているところはあります。たとえば Initial のレポートを見ていても、資金調達額は横ばいになり、悪いニュースはないにしても、全体として成長しているとは中々言いづらい状況です。調達社数も徐々に下がりつつあります。

Google Trends を見てみても、「スタートアップ」は横ばい、「起業」については2023年以降に徐々に下落傾向があるようです。

Google Trends (https://trends.google.co.jp/trends?geo=JP&hl=ja)

こうした雰囲気や感覚が一部で共有されていて、SNS 等でもややネガティブな発言等が見られるのではと思います。

 

とはいえ悲観的・冷笑的なことを言っても状況は変わりません。考えるべきなのは、現状を見据えた上でどのように手を打つかです。

いわば、会社のモメンタムが落ちてきたときにやるべきことを、エコシステム全体で行わなければならない時期でもあるのだろうと思います。

思想やテーマを語る

モメンタムを上げるためには、短期的には今挑戦しているスタートアップに成功してもらい勝利を作っていくこと、そして中長期には大きな成功を作っていくことが最も効くと思います。そのためにはスタートアップエコシステムの効率化をしていく必要があるのでしょう。

しかし短期でもう一つできることがあるように思います。

その1つは、エコシステムに関わる人たちが、

  • これからのテーマや勝ち筋を具体的に伝えていくこと
  • 思想や未来を語っていくこと

をもっとしていくことなどです。

実際、海外を見ていても、a16z や Lux Capital などは(その賛否はあれど)、自らの投資仮説を示すことのみならず、自分達の世界観やテーマを押し出して、次のテーマがどこにあるかを指し示しています。

こうした世界観を語ることは、空気を変えるだけに止まらず、起業家や人材の流入にも影響しますし、顧客や政策も変える力を持ちます。さらに、そうした共通認識を作ることができれば、自分たちの資本以外の資本を呼び込むこともでき、ある意味での「市場の形成」をしていると言っても良いでしょう。

投資仮説を持つだけではなく、その投資仮説を正解にしようとしている様子は日本のエコシステムにとても参考になるのではないかと思います。

目指す規模ごとにテーマを作る

特に昨今、「アメリカのタイムマシン経営をしているだけでは一定以上の規模にはならない」ということも徐々に共有されつつあるように思います。

ということは、一定以上の規模を目指すのであれば、

  • 最初からアメリカで始めて、アメリカのスタートアップとして挑戦する
  • 日本で始めるが、アメリカのスタートアップの潮流を見るだけではなく、グローバルの動き全体を見た上で、日本独自のスタートアップ全体の戦略を考えていく

といったような、従来よりも一段難しい思考をしていかなければならない、ということでもあるのでしょう。

 

ただし単に「勝つ」ことや「日本ならでは」といった独自性を追いかけると、市場規模の小さなニッチに辿り着きやすいことには注意が必要です。ハイグロース・スタートアップであれば、ある程度の規模を目指していかなければならず、そのための戦略やテーマの選定はかなり難しい道だとも思います。

先日、100兆円スタートアップの記事を書きました。

決してそれが唯一のゴールではないと思っており、ある意味で時価総額のいくつかの桁ごとに、ポートフォリオとしてテーマがいくつかある――そうした状況が健全ではないかと思っています。たとえば以下の表のようにです(あくまで例です)。

時価総額の桁

テーマ

100兆円

次の基盤

10兆円

次の国際秩序、次の日本産業

1兆円

グローバル、○○安全保障など

1000億円

国内の各領域

こうした思想やテーマを打ち出していく、あるいは既にあるスタートアップの先端的な動きをリフレーミングして伝えていくといった取り組みをするのは、おそらく投資家が中心となっていくのではないか、と思います。

最前線にいる起業家の皆さんはそうした時間はないでしょうし、広く見ている投資家のほうが相性は良いのではないかと思います。また投資家としての資本供給だけではなく、考え方の枠組みを供給していき、自分たち以外の資金を増やしていくといったレバレッジがより必要になってくるのでしょう。

外の理解を得る

またそうしたテーマや思想を語ることは、同時にエコシステム外へのコミュニケーションにもなります。

特に昨今の様子を見るに、日本社会の中でスタートアップの位置づけや役目を改めて訴えていく必要もあるのではないかと思っています。

 

ここ数年、スタートアップは日本政府や自治体の成長戦略の中心に据えられました。またそれより前からオープンイノベーション等による大企業の注目もありました。

こうした雰囲気の中で、エコシステム全体としては非常に大きなモメンタムがあったため、なぜスタートアップが大事なのか、という説明をする必要はそこまでない状況が続いていました。

しかし、政府や企業が「事業成長」「経済成長」よりも「経済安全保障」などが優先的な課題になりつつある今においては、スタートアップやそのエコシステムが日本経済におけるどういった価値を持つのかを明確に説明していく、あるいは現在の社会的アジェンダに明示的にアラインしていく必要が改めて出てきているのではないかと感じています。

また企業で働く人たち、特に学生の就職意識の状況を見ていても、マイナビの就職の意識調査では、この10年で「安定している会社」が好まれるようになっており、この5年でもさらに上がっています。

https://www.mynavi.jp/news/2025/04/post_48659.html

リクルートや電通の調査では安定さを重視されていつつも、「やりたい仕事」はまだ上位にランクインしているため、おそらくは、

  • 「やりたい仕事」は最終決定の局面において重視される
  • しかし複数条件の比較したときには後退している

といった状況なのではないかと思います。

今後、物価上昇と実質購買力の不安定さが、最低限の衛生要因の重要性を高め、満足度よりも給与を重視する傾向が強まることも十分に考えられます。スタートアップも給与水準は高まっていますが、一方で中長期で安定しているかといえばそういうわけではないため、こうした従業員の方々向けへのメッセージもより必要になってくるでしょう。

 

そうした意味でも、

  • 大企業から見たスタートアップの価値
  • 従業員・転職者から見たスタートアップの価値
  • さらには海外の諸外国から見たときの日本のスタートアップの価値

など、外から見たときの日本のスタートアップの価値や社会的役割を再定義して、伝えていくことが求められているのではないか、と思います。

まとめ

何事もモメンタムが下がることはあります。何かを進める中で、問題が出てくることは仕方がありません。とはいえ問題があれば解決すればいいだけで、その問題をきちんと把握して手を打っていく、ということができればと思っています。

その一環として、たくさんのスタートアップのテーマやアイデア、勝ち筋がどんどんと出てくること、それを外に伝えること、未来を伝えていくことなど、やれることはたくさんあると思います。それはある意味での思想を作っていくことでもあるでしょう。

 

もちろん、語ることですべてが解決できるわけではありませんし、それをやる人は一部で良いでしょう。それでももう少し、そうしたコミュニケーションが出てきても良いのでは、と思います。

それに、そうした未来のことを考えられる職種は限られています。スタートアップに関わっているということは、そうした未来や理想を語れる、という良いポジションにあるのではとも思います。

もちろん投資家や支援側にとってみれば金融的なリターンを出すことが仕事です。とはいえ、単なる金銭的リターンだけを求めているならおそらく別の金融の職を取るほうが合理的であり、そうした道ではないと思ったからこそスタートアップの業界に身を置いた人も多いはずです。

その意味がもし未来や理想にあるのであれば、まさに今、そうした発信の機会でもあるのではないかと個人的には思っています。

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