2025年の参議院選挙が終わり、日本の政治が大きく変わろうとしていることを感じています。
一方、アメリカでも政治体制が大きく変わりつつあります。特に、左派に位置づけられる民主党は、2024年の大統領選の敗北を受けて、次のアジェンダや政治思想を積極的に模索・変化しようとしています。
こうしたアメリカの動きは、今後の日本の政治にも参考になるのではと思い、紹介しておきます。なお、最新情報は New York Times の The Democratic Party’s Troubles が詳しいので、そのあたりを読んでください。
3つの派閥
現在、民主党内では主に3つの派閥ができて、2026 年の中間選挙に向けて議論を交わしています。
その3つの派閥は以下です。
- アバンダンス派(豊穣派)
- プログレッシブ派(進歩派)
- エスタブリッシュメント派(既成勢力派)
それぞれを簡単に紹介します。
(1) アバンダンス派
新興勢力となっている派閥です。エズラ・クラインとデレク・トンプソンが書いた『Abundance』という本が思想的な基盤となっています(Abudance はこのブログでも何度か紹介しています。おそらく翻訳もされるのではと思いますが、日本語で読めるレビューとしては Wired が詳しいです)。

この派閥の立場としては、進歩派が求めるような規制や政府の力の制限を進めていくのではなく、政府により多くの物事を成し遂げていく能力を与え、豊かな国を作るべき、というスタンスを取っています。
より具体的には、住宅やエネルギーをはじめとして、より多くの供給を行うことに焦点を置いており、そのためにイノベーションを推進し、規制緩和を行っていくことを推奨します。「作る左派」「サプライサイドのプログレッシブ」と呼ばれたり、かけ声としての「Build, baby, build」という言葉を見ることもあります。
一方、より供給力を増やしていくために規制緩和等を訴えるため、既存のリベラル派からは反発を受ける傾向にあります。また全体として再分配政策や詳細な実効性に不安が残る点は弱点として挙げられます。
しかし直近の動きとしては、超党派のアバンダンス・コーカスが作られたほか、次期大統領選に向けて動いているとされるカリフォルニア州の Newsome 知事も、このアバンダンスのアジェンダにならうように、今年の6月末に住宅・インフラ促進法に署名しました。オバマ元大統領なども賛成の立場のようで、勢いを増している一つの派閥です。
(2) プログレッシブ派
この派閥はサンダースやAOCなどが有名で、いわゆる極左に近いグループです。イスラエルへの非難なども積極的に行っています。
今回、ニューヨーク市長選に向けた民主党予備選でマムダニが勝ち、前市長クオモを打ち負かしたことで勢いを取り戻しつつあります。マムダニは33歳と若いほか、家賃の固定や無料バス、市営食品店など、急進的・社会主義的ともいえる公約で、若年層と労働者の支持を獲得しました。(ただ対抗馬であるクオモがセクハラで辞任したので再選阻止をしたかった、という民意も大きそうですが)
そうした再分配政策や、草の根での政治参加が強い派閥ですが、こちらも実務能力にはやや不安が残るグループと言われています。また政策としては、アバンダンス派とは対立しがちな立場と言えます。
(3) エスタブリッシュメント派
いわゆる民主党の既存体制派です。
現在の動きとしては、ホワイトハウスの元高官やシンクタンク等が中心となり、政策パッケージとしての「Project 2029」を始めようとしています。
またシンクタンクの Thirdway などは、中道左派向けのファンドも用意し、エコシステムを再構築しようとしています。
実務能力は高い一方で、このグループには民主党内の若手からの非難という弱点があります。世代交代が進んでいない、というのは有権者から見放される要因でもあります。
3つの派閥のまとめ
これらの3つのすべての派閥で共通しているのは、今の民主党には肯定的なビジョンの不在であるという認識と、新しい伝え方・巻き込み方の模索が必要であるという点でしょう。
このビジョンをどう描き、伝えていくのかが、2026年の中間選挙に向けての大きな課題と言えそうです。
(なお、本記事は Vox のまとめをかなり参考にしました。)
日本への示唆
ここまでアメリカの状況を見てきましたが、翻って日本を見てみれば、2025年の参院選は、右か左か、保守か革新か、というよりは、「既存政党が負けた選挙」となったように思います。
それを受けて、既存政党もアメリカの民主党のように、これから自分たちの立ち位置を探っていくことになるのでしょうが、「もっと右に寄る」「もっと左に寄る」という議論だけではなく、アバンダンスのような新機軸を打ち出していくことも有権者が望む1つの方向性ではないかと思い、記事として紹介しました。
(ただしアバンダンスで訴えている一部政策は日本に当てはまらないところも多いので、そのまま持ってくれば良いというわけではありません。)
一方で、多党化していく中で、野党側の責任は今後増えてきます。その中で、各党がそもそもの国としてのビジョンやグランドデザインをどう考えているのかどうかが問われるのではないか、と思っています。
ここ数ヶ月の間、It's time to Rebuild や世界の変化についての記事を以前書きました。日本の政治もまた再構築のタイミングを迎えているように思います。
不確実性の増加と捉えることもできますが、一方で、スタートアップが不確実性を機会として捉えるように、この政治的不確実性は日本の社会の機会としても捉えることもできます。
だからこそ、私たちがどのような社会を作りたいのかを改めて議論し、それを実現していくための努力が必要だろうと思っています。逆に言えば、その努力を怠れば、特定の方向に変えたいと思っている人たちの意思が社会に伝わり、その方向に社会が変わっていくという恐ろしい時期でもあります。
より良いビジョンや新しい巻き込み方といったアメリカの議論を少し後追いしながら、日本での議論が進めば良いなと思っていますし、そこに少しでも貢献できればと思っています。