🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

AI の二次影響・三次影響を考える

大きな変化があると、そこには二次影響、三次影響が生まれます

かつて自動車は大きな変化でした。いまから振り返れば普及は自明に見えますが、20世紀初頭の時点では、自動車は一部の富裕層の道楽と見なす向きも多く、大衆化を確信できた人は多くはなかったそうです。

その周縁の自動車整備や保険のようなビジネス機会に賭けられた人となると、さらに少なかったでしょう。

 

しかし、本当に予想が難しかったのは、もう一段先の影響です。

一家に一台の車が当たり前になることで、人々の居住地は郊外へと広がり、土地の価値を変えました。

さらに移動時間と生活動線を変えたことから、

  • ウォルマートのような地方・郊外商圏を前提とした低価格小売
  • 車での来店を前提としたファストフードやドライブスルー
  • 長距離移動を支えるモーテル
  • ショッピングモール
  • ガソリンスタンド網

などに機会は広がっていきました。

1つの変化は、ドミノ倒しのように次の変化を引き起こします。

そして、2つめ、3つめの変化が、実は1つめの変化よりも大きいということもある、ということです。

自動車の場合は、自動車会社自身が成功するだけではなく、その周辺に富や機会を生みました。

そして、移動コストが下がったことで ➡ 土地・道路・駐車場・燃料・郊外の商業立地などが相対的に重要になりました。

その中で最も大きな富を得た業種の多くは、自動車整備業のような直接的な周縁ではなく、「自動車 → 郊外化 → 新しい生活様式」という一段階を挟んだ先にある、一見遠い産業群だった、と言えるかもしれません。

 

レイ・ダリオは『Principles (原則集)』のなかで、一次的な結果だけを見ることの危うさを指摘しています。これは投資や人生だけでなく、技術変化を見るときにも当てはまるように思います。

AIによってボトルネックが移動する

こうした二次影響、三次影響が出てくるのは、ボトルネックが移動するからです。

まさにAIは、このボトルネックの場所を移動させうるような技術のように思います。

 

現在のAIの議論でも、AIそのものの普及を予想する人は多くいます。

直接関係する、AIの導入、保守、運用、コンサルティングのニーズを予想する人もいるでしょう。AIによって組織のあり方が変わることも盛んに議論されています。

しかし自動車の歴史が示唆するのは、本当に大きな機会は、AIの直接的な周縁ではなく、AIが人々の生活動線や意思決定、価値の生まれるところを書き換えた先に立ち上がるところにあるかもしれない、ということです。

自動車は移動を安くし、土地と道路と郊外商業を重要にしました。

AIは専門知へのアクセス、生成、試行錯誤を安くし、物理実装・信頼・計算資源・規制対応などを新しいボトルネックにしていく可能性があります。

 

この発想を使えば、これ以外にも様々な影響が予想できるのではないかと思います。

以前の記事では、足下で起こりつつある、「専門家の技能が安くなると、専門性によるボトルネックが解けて、詰まっていた物理サイドのイノベーションが起こり始める」という変化を捉え、以下のように整理しました。

観点

自動車

AI

低下したコスト

移動コスト

専門知・判断・生成・調整のコスト

一次影響

自動車メーカー、整備、燃料、道路、オートローン、自動車保険

AIモデル、AI導入支援、AI運用、AIコンサル

二次影響

郊外化、ロードサイド商業、長距離移動の一般化

非専門家の専門領域参入、小規模組織化、AI前提の業務設計

新しいボトルネック

土地、道路、駐車場、燃料、物流

計算資源、物理実装、規制、信頼

三次影響

郊外型小売、ドライブスルー、モーテル

物理や信頼のボトルネックを解く産業(ディープテック、エネルギー、素材、製造、検証、責任)

 

それにとどまらず、たとえば、以下のような発想も可能でしょう。

  • 一次影響
    AIが人間の知的作業の一部を代替し、企業のコスト構造において「人件費」だけでなく「推論費」が大きな項目になる。
  • 二次影響
    すべての仕事に最高性能モデルを使うのは高すぎるため、タスクごとに小型モデル、大型モデル、専門モデル、人間レビューを振り分ける「AIルーティング」「AI FinOps」「推論コスト最適化」が重要になる。
  • 三次影響
    三次影響:推論容量、GPU利用権、優先実行権、低遅延アクセスが、クラウドのリザーブドインスタンスや電力契約のように、予約・売買・ヘッジされる対象になる。やがてそれらは、単なるITコストではなく、在庫や電力、金融商品に近い管理対象として扱われるようになるかもしれない。

教育についても、以下のようなことが起こりえます。

  • 一次影響
    AIチューターによって、学習者一人ひとりに合わせた教育が安く提供される。
  • 二次影響
    教育の価値は「授業コンテンツ」から、「学習者ごとに最適化された伴走AI」「学習履歴」「到達度保証」へ移る。教育は数年間の買い切り商品ではなく、継続的に更新されるサブスクリプションになる。
  • 三次影響
    人が学ぶだけでなく、「その人の代わりに働くAI」も教育されるようになる。大学や資格の価値は、個人に紐づいた“スキルAI”や、その能力を証明する評価・認証・保険へと広がっていく。

三次影響まで考える :何が安くなり、何が希少になるのか

今回のAIは、幅広い専門領域に影響するため、多くの業界でボトルネックが移動し始める可能性があるのでは、と思います。 

皆さんが考える、AIの二次影響、三次影響は何でしょうか。

それは「AIで何ができるようになるか」だけではなく、「AIで何が安くなるか」を考え、逆に何が希少になるのかを考える、ということです。

さらにいえば、その希少になるもののなかで、アップサイドが大きく、かつ競争の少ない(あまり人が取り組まない)見過ごされているところはどこか。そしてそのボトルネックの変化が「いつ」くるのか。

そうした予想をすることで、今からでも大きな機会を見つけられるかもしれません。

 

変化の二次影響、三次影響を考えて、ボトルネックがどこに移るかを考える

それが、AIによる大きな変化の先にある、さらに大きな事業機会を見つけるためのヒントになるのではないかと思います。