スタートアップが注目を浴び、日本全国でオープンイノベーションの取り組みが広まるにつれて、スタートアップが他企業と共同で何かを行うことが増えました。また各産業の深い課題に取り組むスタートアップも増え、初期の段階から顧客企業との間でNDAなどの契約を交わすことが増えているように思います。
そんなとき、スタートアップはどうしても不利な立場に置かれがちです。そのため国として是正の動き(下記に紹介します)が出てきているのですが、そうであるにも関わらず、オープンイノベーションをビジネスとする一部の企業などが、スタートアップ側に不利な契約を持ち掛けるケースを聞きました。そこで注意喚起も含めてブログにしておきます。
契約の隠れた注意点
PoCやライセンス契約での不当な契約や、共同研究における知的財産権の帰属、成果物の利用の制限などは、不利なところが分かりやすいので、契約書のやり取りの中で問題に気付けるスタートアップも多いのではないかと思います。
ただし、それ以外にもいくつか気を付けるべき点があります。例えば以下のようなものです。
- 損害賠償責任の一方的負担 (何かしらの損害が起こった際はスタートアップが一方的に負担するとの文)
- 取引先の制限
- 最恵待遇条件
これらの一部はNDAなどの時点で入っているケースもあります。たとえば損害賠償責任については、何かしらの不慮の事故により損害賠償が発生したら、スタートアップはすぐに倒産の憂き目にあうかもしれません。
契約に不慣れなスタートアップや立場が弱いスタートアップは、名の知れた企業や実績のありそうなオープンイノベーション仲介企業から「これが雛形です」と言われると「そういうものか」と思って、飲んでしまうように思います。しかしこれらにはそれぞれリスクがあるため、契約書はきちんと読むことをお勧めします。
対処するには…
不利な契約に気付いたときに役立つのが経済産業省・特許庁・公正取引委員会と委員によって作られた「モデル契約書(新素材・AI)」と「スタートアップとの事業連携に関する指針」です。
これらのモデル契約書や『スタートアップとの事業連携に関する指針』は単に知識として活用できるだけではなく、これらを基に「国のモデル契約書や指針に反するのでは?」「公正取引委員会の見解として、優越的地位の乱用と見做されるかもしれません」と伝えたうえで「これはお互いにとってリスクです。良い落としどころを見つけませんか?」と先方に言うと、国の御旗の元で交渉が可能になります。
実際、これらを参照しながら「これが一般的な契約ですよ」と見せて契約を進めている支援先のスタートアップもあり、大変役に立っています。
業界としてより良くしていくために
大手企業側から料金を取り、スタートアップとのマッチングなどを行うオープンイノベーション企業にとっての、顧客はスタートアップではなく大手企業であり、大手企業側に有利な契約書を使おうとするインセンティブがあるのは分かりますし、大手企業側の法務が自社防衛的な措置を含みたがるのも分かります。
ただ、こうした動きがあるとお互いの信頼を損なってしまい、オープンイノベーションを本当に進めたいと思っている人達にも悪影響が出てきます。そこで今一度、スタートアップを斡旋するような企業やスタートアップとの協業を考える企業の皆様におかれましては、「モデル契約書(新素材・AI)」と「スタートアップとの事業連携に関する指針」、それらに加えて「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告):公正取引委員会」を参照いただき、自社の契約書の状況をチェックされると良いのではないかと思います。また自社内の法務にも、こうしたモデルのひな型をうまく使うことで、適正な内容に変更できないかという相談もできるのではないでしょうか。
スタートアップもこうしたガイドをうまく使って、契約において交渉をすると良いのではないかと思います。