
6月29日(月)にDefense Techに関するイベントに登壇することになったので、事前に自分の考えを書いてまとめておきます。記事が長くなったので複数に分けています。
1つめの記事で書いた前提をふまえたうえで、日本のDefense Techを考える上では、大きく議論するべき点として3つあると考えています。
2つめの記事で考えた実効的な防衛力を踏まえたうえで、ハイグロース・スタートアップとして考えるべきなのは、やはり事業性です。

防衛上重要な事業であっても、スタートアップとして魅力的な事業として成立するかどうかは別問題だからです。
VC-backedなハイグロース・スタートアップの事業性を考えるときに、考慮が必要な項目を単純化して考えると、
- 急成長して一定の時価総額を超えることができるのか
- イグジットができるのか
の2つの条件が、ファンドの期間である約 10 年という程度の短い期間内に満たせるかどうか、になります。
これも日米で大きく状況が異なるため、いくつか数字を見ていきたいと思います。
(1) 一定の時価総額を超えることができるか
まずSIPRIによる、企業の全売上中の軍事関係売上をベースに見てみます。
米国
米国では防衛専業に近い企業が高い時価総額をつけています。
|
企業名 |
時価総額10億ドル |
時価総額兆円 |
実績PER |
防衛・軍事売上比率 / 補足 |
|
Lockheed Martin |
117.0 |
18.92 |
24.6 |
SIPRI: 91%、軍事売上 $64.65B |
|
General Dynamics |
93.8 |
15.17 |
21.8 |
SIPRI: 70%、軍事売上 $33.63B |
|
Northrop Grumman |
71.3 |
11.53 |
15.7 |
SIPRI: 92%、軍事売上 $37.85B |
|
L3Harris Technologies |
54.3 |
8.78 |
31.6 |
SIPRI: 76%、軍事売上 $16.21B |
日本
日本で同様の企業群を見ると以下のようになります。
|
企業名 |
時価総額10億ドル |
時価総額兆円 |
実績PER |
防衛・軍事売上比率 / 補足 |
|
三菱重工業 |
74.4 |
12.03 |
34.8 |
SIPRI: 15%、軍事売上 $5.03B。 防衛省中央調達: 1位・1兆4,567億円 |
|
川崎重工業 |
14.7 |
2.38 |
21.9 |
SIPRI: 19%、軍事売上 $2.65B。 防衛省中央調達: 2位・6,383億円 |
|
三菱電機 |
76.5 |
12.38 |
29.5 |
SIPRI: 5.1%、軍事売上 $1.85B。 防衛省中央調達: 3位・4,956億円 |
|
NEC |
32.0 |
5.18 |
18.7 |
SIPRI: 6.8%、軍事売上 $1.54B。 防衛省中央調達: 4位・3,117億円 |
|
富士通 |
34.4 |
5.57 |
18.7 |
SIPRI: 9.3%、軍事売上 $2.19B。 防衛省中央調達: 5位・1,736億円 |
米日比較と時価総額

米国は防衛専業に近い企業が比較的多い一方で、日本は防衛の割合が20%以下のところが多く防衛案件を受注している、という状況となっています。
また売上と時価総額が比例するという単純な前提を置いたとき、
- 米国:ロッキードマーティンの売上の91%が軍事系で19兆円の時価総額であれば、軍事単体だと19兆円×0.91 = 17兆円
- 日本:三菱重工の12兆円× 0.15 をかけると1.8兆円
となります。
(※防衛事業はコストプラス方式で利益率が悪めなので、もう少し下がるように思いますが、プレミアムも逆に乗る可能性もあると考え、ざっくりと計算しています。)
こうしてみると、アメリカのDefense Techスタートアップは防衛専業で時価総額1兆円を超えるビジネスを狙えるかもしれませんが、日本のDefense Techスタートアップで1兆円を超えようとすると、(他国の市場に入り込めない限り)、かなり難しそうに見えます。
(2) イグジットができるか
続いて投資家のイグジットという観点で見てみます。
M&Aの場合
防衛テックスタートアップのM&Aが起こる場合、海外の企業から買収を受けるのはおそらくかなり難しいため、上記の日本国内の企業群のいずれかになる可能性が高いように思います。そのとき上記の企業による買収金額はそこまで大きくはならないように見えます。

上場の場合
東証で最も防衛系売上が高い事業は宇宙系です。現時点で2000~3000億円ぐらいの時価総額がついています。しかし宇宙用と防衛専業のバリュエーションはさすがに少し異なるように思います。
より防衛系を見てみると、売上の約50%が防衛を占める豊和工業は時価総額200億円ぐらい、細谷火工は40億円とやや小さめの時価総額となっており、VCが期待する大型Exitの参照事例としてはやや小さいように見えます。
最近の Anduril などの動きを見ていても、かつては監視用ドローンなどの守りの方の製品中心だったのが、昨今の製品ラインアップを見ると、安価に大量生産できる攻撃・打撃システムなどの「攻め」に比重を移すようになってきています。それはロッキードマーティンの事業を崩しにかかっているようにも見えますが、もしそうした「攻め」の事業への展開がバリュエーション増加の理由なのであれば、同様のバリュエーションの上げ方を日本のスタートアップが取るのは、市場構造的にも社会的受容性の観点からも結構難しいのでは、と思います。
イグジットまでの資金調達
イグジットにたどり着くまでに、何度か資金調達を挟むことを考えたとき、国内の主なVC/CVCがどこまで出していけるのか、というのも、まだ準備が整っていないように見えます。
その際、海外のVCが投資することもあると思いますが、他の事業領域と比べて「それは本当に良いのか」という議論も起こりやすい領域のように思います。海外VCがマジョリティを持たなければ良い、という考え方もあるとは思いますが、特にミドル・レイターステージにおいては、資金規模的には海外VCのほうがマジョリティを持つ可能性も高そうです。
他国への販売の可能性
日本のスタートアップの製品を諸外国に売ることを通して、リーチできる市場規模を大きくすることも可能です。
その際、マザーマーケットである日本で磨いた製品を他国に売る、ということになるでしょう。そうすると、自衛隊からの学びが鍵となります。日本が最先端で面している課題領域(警戒など)であれば可能性はあると思いますが、そうでないのであれば、日本の製品を他国よりも優れたものにしていくことは難しく、何を売るのか、というのが課題となりそうです。

そうした強みがなければ、資本の引力で、「アメリカで事業をした方が良い」ということになりかねません。実際、EUのユニコーンスタートアップの約27%がEUからUSに拠点を移すことも起こっており、これは防衛領域でも「なぜアメリカではなく、日本でやるのか?」という問いは重くのしかかるはずです。
日本の Defense Tech の事業領域
そうして考えていくと、日本における多くの防衛専門のビジネスの中で、VC-backedなスタートアップとして相性の良い事業領域は、アメリカに比べてかなり少ないのではないか、というのが現時点での個人的な考えです。
(※あくまでVC-backedなスタートアップの話であり、VCマネーを使わない事業は別の議論ですし、一部の監視などは日本でもあり得るようには思います。)
となると、多くの事業者は、武器というよりは修理や復旧などの防衛用途に行くか、もしくは民生品を基本で考えつつ、防衛で使える部分は使ってもらう、という距離感に落ち着くところが多いのではないか……と思います。それはそれで、継戦能力を高めて防衛力に資することにつながる可能性はあります。
とはいえ中途半端に関わるのも難しい
ただ一方で、防衛関係の事業を持つ上場企業は投資家対応が大変そうだったり(防衛関係の事業を投資家向けコミュニケーションから抜いていたり)、国防に関わることによる組織の複雑度の上昇などを見ると、中途半端に手を出してもあまり得をしない領域のようにも見えています。
それに防衛領域に入ろうとすると、要求仕様や試験、認証、秘密保全、教育訓練、補給、整備、サイバーセキュリティ、ライフサイクルコストなどなどを含めて、装備体系の中に入る必要があります。単に売って終わりだけではなく、「自社の製品が防衛力体系のどこに組み込まれるのか」を考えることになり、相応の負荷になるため、どこまで防衛関連業務を行うのかは大きな選択になるのだろうと思います。
現在と将来は別
冒頭の問いに戻ると、防衛テックがハイグロース・スタートアップになれるかという問いに対する答えは、領域が限定されそう&結構難しそう、ということになります。
ただ、こうした不確実性の高い領域に挑むのがスタートアップの1つの役目だろうとも思いますし、現時点の市場がそうであっても、将来もそうかと言えば違います。
政府は市場を魅力的にしてインセンティブをつけていこうとするでしょうし、防衛の調達改革などもしていくかもしれません。防衛装備移転三原則や運用指針の見直し、国際共同開発・共同生産の拡大、同盟国・同志国への装備移転の増加などによって、市場規模やExitの見通しが変わる可能性はあります。
スタートアップ側も自社の事業性を高めていくためには、政府側にロビイングなどをしていくことになるでしょう。資金提供者 (VC やその裏にいる LP など) に対して議論を行っていく必要性も出てきます。
ただ、そうして防衛領域の市場性を高めていくには、相応の公的な責任が発生するものだと思いますし、覚悟が必要です。それに倫理観やそれを支える仕組みがより強く求められるようになるはずだと考えています。
ということで次は倫理の話です。
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前提の整理:Defense Tech、デュアルユース、日米の違い