🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

どの摩擦をなめらかにするか

課題解決をしようとしたとき、私たちは根本的な原因ではなく、つい見えやすい課題に目を向けてしまします。その中でも目を向けてしまいがちなのが摩擦です。

 

その摩擦は優先度の高い摩擦か

たとえば、「コンテストへの応募のプロセスがスムーズではない」といった『摩擦』は確かに課題です。ただ、多くの場合、「その摩擦を減らすこと」が優先度の高い課題であることは少ないよう思います。コンテストであれば、応募が少ないのはそもそもの賞金や対象などが悪いことのほうが多いでしょう。

しかし摩擦はザラザラして気持ち悪く、課題としても分かりやすくて目につきやすいので、私たちはついそれを解決しようとしてしまいます。コンテストであれば、コンテストの設計そのものに手をつけるのではなく、Webサイトの改善や文言の調整などに取り込むなどです。

もちろん、全体の流れの中で最も摩擦が生まれている部分であれば、その摩擦を減らすことは大きな課題解決につながります。ボトルネックの部分をなめらかにして、全体のスループットを上げることになるからです。

しかし、すべての摩擦がボトルネックなわけではありません。

だから、私たちが摩擦を感じたときは、「その摩擦は全体の中で優先度の高い摩擦(課題)なのか」を考える必要があるように思います。

 

(1) 全体

「その摩擦は全体の中で優先度の高い摩擦(課題)なのか」と書きましたが、また、気にするべきことは「全体」です。どこからどこまでを全体として捉えるか、いわばスコープをどこからどこまでにするかによって、どこが一番ボトルネックになっているかは変わるからです。

そしてスコープをどう捉えるかは、目的によって異なります。

スタートアップの政策であれば、『投資家の利益を最大化する』ということを目的にすればスコープは投資家の利潤の最大化になり、その中で最も摩擦がある部分を解消すれば良いでしょう。

しかし『スタートアップの数を最大化する』ということを目的にする場合は、スタートアップが生まれるサイクル全体をスコープとして見てみる必要があります。その場合、投資家の感じている摩擦は、最も重要な摩擦というわけではないかもしれません(その可能性もあるかもしれませんが)。

ただ、そうした全体の中の一つの摩擦も課題であることに変わりはなく、また投資家の声は大きい傾向にあるため、投資家の摩擦が本来よりも大きく聞こえてしまい、その課題を解こうとしてしまうこともあると思います。政治資源が豊富である場合は、そうした課題を解いても良いと思いますが、政治資源に限りがある場合は、やはり本当に重要な摩擦の部分を解消するために資源(時間や人力)を使うべきでしょう。

 

(2) 順序

とはいえ、最初から最もボトルネックとなっている部分にアプローチできないこともあります。そのときは、できるだけ最短の順序で、ボトルネックに対してアプローチをすることを心がける必要があります。

一個目の摩擦を解決すれば、次の摩擦を解決でき、そのあとにボトルネックとなっている摩擦が解決できるのであれば、最初の摩擦は小さなものでも良いかもしれません。

また多くの場合は、たった一つの原因があるわけではなく、複数の問題を同時に解く必要があることもあるでしょう。しかし、それでもやはり順序は意識する必要があります。

もし順序を考えられなければ、全体を把握できていないということです。そのときは、その全体を把握するように努めることが、最初にやるべきことかもしれません。それがなければ、手当たり次第の摩擦を解いていくことになります。

 

(3) 種類

もう一つ気をつけたいのは、「その摩擦は本当に解決するべき摩擦か」ということです。特にこれまでとは異なる種類の課題に取り組むときや、一桁大きな課題に取り組むときは、単に摩擦を解消し続けるだけでは解決に辿り着けず、構造自体を大きく変えるような取り組みが必要とされるのだろうとも思います。

工場の生産ラインの摩擦を解消すれば確かに商品の生産量は増えます。しかし、もしこれまでと異なる商品が市場から必要とされていたら、その摩擦の解消によって得られるのは大量の売れない商品、大量の在庫です。本来やるべきなのは、摩擦の解消ではなく、違う種類の製品を作ることです。

摩擦は目につきやすいものの、本当に解決するべき摩擦かどうかは、立ち止まって考えた方が良いでしょう。

 

まとめ

摩擦の一つ一つが課題であることに疑いはありません。しかし、限られた資源の中では、すべての摩擦を解消することもできません。だからこそ、摩擦は摩擦として把握しつつも、優先順位をつけて取り組む必要がありますし、摩擦を解消するべきかどうか(=生産するものそのものを変える必要があるかどうか)も考える必要があります。

もし摩擦を解消したほうがよい、というときにも、どのようなスコープで全体を把握して、どのような順序で取り組むべきか、を考える必要があるように思います。

 

課題解決の基本とは言え、私も時折忘れてしまいがちです。ただ、少し政策関係のことを見ていて少し思ったところがあったので、メモがてら書いてみました。