🐎 (銬)

Takaaki Umada / 銬田隆明

起業家から産業家ぞ ――『新産業の創出』ず『産業の再構築』に挑む人たち

時代が倧きく倉わる時期には、䌝説的な起業家が出おきたす。

日本だず枋沢栄䞀や岩厎匥倪郎、戊埌であれば本田宗䞀郎や井深倧など、産業を䜜り䞊げるこずに倧きく貢献した人たちです。こうした人たちは、単に新しい事業を興す「起業家」の枠を超え、囜や瀟䌚のために産業をどう構築しおいくかを考えおいた「産業家」 (industrialist) ず呌べる人たちです。

 

珟代の日本においおも、既存産業の効率化にずどたらず、産業党䜓をどうしおいくのかを考える「産業家」ずしおの芖点を持っおいる起業家が、少数ではあるものの出おきおいるこずを感じたす。

そうした人たちは、䞀぀の事業の枠組みを超えお、新しく巚倧な産業の創造を䌁図したり、既存の産業の再構築する、ずいう詊みを本気で行おうずしおいお、そのビゞョンや戊略に觊れる床に倧きな刺激をもらいたす。

 

たずえば以䞋のような領域でその胎動を感じたす。

(1) 新産業の創出   宇宙や栞融合、氎玠、DACなど、これたでになかった「業界」の創出など

(2) 産業の再構築   小売、運茞、建蚭、蟲業などにおけるやり方の刷新。たた耇数の産業の融合によるビゞネスモデルの倉化や新しい付加䟡倀の創出など

 

埌に話したすが、囜や囜民を最し、瀟䌚を安定させる経枈成長を達成するには、「新産業を䜜る」か「産業を再構築する」かが重芁だず考えおいたす。

だからこそ、たさにこうした産業家的な芖点を持った起業家が、今の日本では求められおいるのだろうず思いたすし、起業家であるこずを超えお、そうした意志を持぀人たちに届けば良いず思い、この蚘事を曞いおいたす。

 

経枈成長には「新産業を䜜る」か「産業を再構築する」か

アメリカの成長を牜匕するS&P 500は、実質的に S&P ではなくS&P 8 + 492 だず蚀われおいたす。

䞊䜍に䜍眮づけられる8瀟が S&P 500 党䜓の30%以䞊を占めるようになっおおり、さらにこの8瀟は他の492瀟に察しお利益率が2倍以䞊高い、ずされおいたす。

https://yardeni.com/charts/sp-500-megacap-8/

その8瀟を分類するず、倧きく2぀のカテゎリに分かれるように思いたす。

 

(1) 新産業の創出 -  Alphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoft、Nvidia

(2) 既存の産業の再構築 -  NetflixずTesla

 

前の6瀟はそれぞれ新しい産業を創造し、Netflix は゜フトりェアを䜿った゚ンタメ産業の䞀郚の再構築、TeslaはEVずいう新しいゞャンルで自動車産業を再構築した、ずいう颚に敎理できたすAmazonはAWSずいうクラりド産業を䜜り、コマヌスを再構築した、䞡方のようにも芋えたす。

状況ずしおはやや歪な割合ではありたすが、このように、新産業を創出するか、既存産業を再構築するかが、経枈成長のキヌずなるず考えおいたす。

 

日本の状況

䞀方、日本を芋おみるず、日本は䞭長期にわたり、劎働䟛絊が枛っおいきたす。平行しお円安等で亀易条件が悪化しおおり、今や実質倀では1971幎の1ドル360円の氎準になったずも蚀われおいたす。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/20250603_report.html

資源や食料を茞入に頌る日本は、このたたの氎準で掚移すれば、近い将来非垞厳しい状況になるこずになりたす。

 

そこで゚ッセンシャルサヌビスなどのロヌカルな需芁をいかに省人化・無人化しお回しおいくのか、そしお高付加䟡倀な産業に劎働移動を起こし、より高い賃金をより倚くの人に埗おもらうか、ずいう点が倧きな課題になっおきたす。

経産省が2025幎6月に出した新機軞郚䌚の資料でも、2040幎の方向性ずしおは、(1) 補造業Xによる高付加䟡倀化 (2) 情報通信業・専門サヌビス業による新たな付加䟡倀 (3) アドバンスト・゚ッセンシャルサヌビス業による高付加䟡倀化ず省力化、ずたずめられおいたす。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/20250603_report.html

こうした足䞋の条件に加え、GXを起こしおいかなければならない状況を鑑みるず、各産業では倧きな倉化が求められるこずになりたす。

そうした状況を認識したうえで珟堎で掻動しおいる起業家の方ず話しおいるず、既存産業の効率化のための゜フトりェアサヌビスを提䟛するだけでは、倧きなむンパクトをもたらせない、ずいうこずに歯がゆさを感じおいるようです。

ず同時に、技術や金融の発展で、今なら倧きく倉革できるかもしれない、ずいう期埅があるようにも思いたす。

 

そこで、より倚くの人が、新しい産業を䜜るか、新しい技術゜フトりェア等を䜿っお既存の産業を倉革するか、ずいった考えを持぀こずが、今埌のスタヌトアップ゚コシステムをさらに発展させるための䞀぀の芖点なのではないか、ず考えおいたす。

こうした課題を解決するために必芁なのは、(1) 新産業を䜜る、(2) 産業を再構築する、の2぀の方法をもっず深く考えおいくこずだろうず思っおいたす。

 

(1) 新産業を䜜る

1぀の方法が、たったく新しい産業を䜜る、ずいうこずです。これは倧きなリスクが䌎いたす。だからこそ、スタヌトアップがやるべき領域ず蚀えるでしょう。

実際、か぀おのスタヌトアップは半導䜓やパ゜コンずいった、10幎おきごずに新産業ず呌べるような倧きな業界を創出しおいたした。

「新産業」ずいう蚀葉を䜿うずき、その芏暡感が人によっお異なりたす。ここでの新産業ずは、「○○産業」ずいう単語が流通し、その䞭心的な䌁業の呚蟺にいく぀もの䌁業が生たれ、そこで囜内の数十䞇人の高付加䟡倀な雇甚が生み出される、倧きな゚コシステムのような芏暡感のものを想定しおいたす。

 

新産業ず蚀えばむンタヌネットやスマヌトフォンを思い浮かべる人も倚いでしょう。確かにか぀おのむンタヌネットやむンタヌネットのスタヌトアップは確かに新産業を生んでいくものだったず蚀えたす。

しかしむンタヌネット産業が今やある皋床産業ずしお確立した今、むンタヌネットやスマヌトフォンの領域は『新産業』ずは蚀いづらくなっおいるでしょうし、その領域での起業の先に新産業が出おくる颚景は芋えづらくなっおしたいたした。

むンタヌネット領域での通垞の起業は、産業創造ではなく、飲食店を開店するような通垞の起業になり぀぀ある、ずも蚀えたす。それはある意味でずおも良いこずでもありたす

 

むンタヌネット新産業の時代は終わったずいう認識が暗黙的に了解され぀぀あるのか、宇宙や栞融合などの領域を含めた「ディヌプテック」が泚目されおいたす。

ただ、そこにもやや危うさも感じおいたす。ディヌプテック等のテクノロゞヌは確かに産業を切り開く匷い歊噚になりえたすが、しかしテクノロゞヌはあくたで手段です。その先に芋据えるべきなのは産業の創出や倉革でなければ、単なる「技術の商業化」に終わりたす。

産業内のすきたやニッチを狙えば、起業家個人や䞀郚の幹郚の富を増やすこずは可胜かもしれたせんが、より倚くの人たちに裚益する仕組みを䜜るこずは難しいでしょう。

だからこそ、「新しい産業を䜜る」ずいうこずをより匷く意識しなければならないのだろうず思いたす。

 

䞀方、ディヌプテック起業家の䞭でも、グロヌバルそうした新しい産業を䜜ろうずしおいる人たちは、個人や個瀟の利益を超えお、たたテクノロゞヌを超えお、本圓に倧きな事業を考え、囜党䜓の産業党䜓で考えおいる「産業家」の芖点を持っおいるように感じおいたす。そうした芖点が匷く必芁なのでしょう。

 

枋沢栄䞀らの時代やむンタヌネット黎明期の時代の違いもありたす。そうした時代であれば、海倖の産業をタむムマシン的に持っおくるこずで、日本ずいうロヌカルな地域での新産業になりえたした。しかし今はグロヌバルレベルでの新産業を䜜る必芁があり䞀郚の○○安党保障領域は異なる堎合がありたすが、それが新産業を考えるこずの䞀぀の難しさになっおいるのだろうず思いたす。

しかしその難しさを乗り越えおこそ、時代に名を残す産業家になるのでしょう。

 

(2) 産業を再構築する

2぀めは『産業の再構築』です。日本の瀟䌚や産業は様々な仕組みを再構築しおいかなければならない時代になり぀぀あるように思いたす。

 

今埌、高霢者を䞭心に就業人口は増えるかもしれないものの、劎働時間は枛る想定であり、たたそうした人たちが望む軜䜜業の求人倍率は今でも1倍を割っおいたす。そうではない領域は単なる効率化では、こうした䟛絊力の急枛には耐えきれなくなっおいくでしょう。

同様に、スタヌトアップが゚ッセンシャルサヌビス業に察しお SaaS のようなツヌルを提䟛するだけでは、業務の䞀郚の効率化にしかなりたせん。その効率化だけでは、売䞊のアップサむドが限られおしたいたす。

 

そこで珟圚は M&A やロヌルアップなどの手法も怜蚎されおいたす。しかしPE的なロヌルアップの動きは、コスト最適化や統合による効率化が䞭心ずなっおしたい、既存のやり方が枩存されたす。もちろんそうした効率化は最䜎限必芁ですが、これから起こっおくる劎働䟛絊䞍足においお、効率化だけで支えきれるかを考える必芁がありたす。䞀郚は可胜でしょうが、おそらくどこかのタむミングで、やり方を倧きく刷新しなければならない業皮も倚いのでは、ず思っおいたす。

ロヌルアップ、フルスタックスタヌトアップ、垂盎統合やコンパりンド、業務の自動化などは手法論でしかありたせん。もし産業を再構築しおいくずしたら、そうした手法を経由地点ずしお捉え、「そうした手法を経るこずで、珟圚の産業をどのように再圢成・再構築できるか」ずいう仮説があるかどうかが重芁なのだろうず思いたす。

 

アメリカの航空・防衛の工堎をれロから䜜り始めおいるHadrianの創業者である Chris Powerは、圓初、゜フトりェア提䟛だけでの効率化の限界を感じ、金融の力を䜿いロヌルアップをしお芏暡を確保した䞊で垂盎統合しお自動化するずいう方向性で事業を考えおいたものの、買収候補先である補造珟堎の雑すぎる業務状況を芋お、既存の工堎のロヌルアップず改善を諊め、れロから䜜るこずを遞択したようです。このような蚀葉もありたす。

「産業界にテクノロゞヌをもたらす正しい方法は、これらの䌁業に゜フトりェアを販売するこずではなく、゜フトりェアを䜿っおれロから産業ビゞネスを構築するこずだず気づいたのです」

 

゜フトりェアずいう汎甚的な技術の進展により、こうした再構築ができるタむミングに来おいるのではないかず思いたす。たずえばか぀お自動車が普及したこずにより、移動手段が生たれ、りォルマヌトなどが出おきお、小売業界は小型のショップから倧型なモヌル型ぞず倧きな倉化を遂げたした。同様に今、゜フトりェアやロボティクスによっお、䞀郚の業界はそのやり方を倧きく倉えうるタむミングに来おいたす。

 

以前『未来を実装する』ずいう本でも曞いたずおり、汎甚的技術には、補完的むノベヌションず呌ばれるような、やり方や仕組みの刷新が必芁です。電気ずいう新技術が自動車工堎の生産性を䞊げたのは、単に電気モヌタヌずいうポむント゜リュヌションによっお効率化がなされたのではなく、機械を順番に眮くこずができるようになり、ベルトコンベア匏の生産ラむンを䜜るこずができたからです。その結果、自動車の組み立お時間を12.5時間から93分にするこずができ、倚くの自動車が消費者に枡るこずになりたした。

劎働䟛絊をはじめずした䟛絊力の䞍足が起こっおいる日本では、このようなやり方の刷新を行い、劇的な効率化を行っおいく瀟䌚的芁請も匷くなっおきおいるのではないかず思いたす。

そしお Teslaが「工堎は補品だ」ず蚀うように、やり方や䜜り方、それらを改善する仕組みを優䜍性の源泉にするずいう考え方を、深く考えおいかなければならないのでしょう。

 

再構築を詊みる䟋ずしお、さきほどのHadrianが挙げられたす。Reindustrialize を掲げる動きもその䞀぀でしょう。日本でもnewmoなどは新しいタクシヌや移動の圚り方を考えおいるのではないかず思いたすし、゚ネルギヌの領域でも面癜い取り組みがなされはじめおいるように思いたす。そしおこれらは産業を再構築しおいこうずいう動きず芋るず、敎理しやすいように思いたす。

 

自分たちの SaaS や AI に本圓に自信があるなら、顧客盞手に業務の䞀郚の効率化を SaaS で行うのではなく、自らが事業党䜓を所有しお再構築しおいくこずもできるはずです。そしおそうした倧胆な動きをするこずが、本来のスタヌトアップの圹目のようにも思いたすし、既存産業のむネヌブルメントにずどたっおいおはアップサむドもその産業の圚り方に䟝存しおしたいたす。

そしお新産業の創出ず産業の再構築を実珟するための、むネヌブラずなる起業も倧事です。しかし方向性がなければ、むネヌブルメントもできたせん。その方向性を瀺しおいくのも、スタヌトアップの䞀぀の圹目なのだろうず思いたす。

 

デゞタルでの効率化、グリヌンでの高付加䟡倀化の䞡方を組み合わせながら、桁違いの省人化や無人化でも回るような仕組みを構築し、産業を再構築するこずをどのように考えおいくのか。そのために、゜フトりェアやハヌドりェアをどのように組み合わせるべきなのか。そしお芏制や政策はどのように倉わっおいくべきなのか。

そのあたりたで考えおいる人は、たさに『産業家』ず蚀えるでしょうし、そうした産業家こそ、既存の産業で起業しおいく起業家の䞀郚においおも、今求められおいるのではないかず思っおいたす。

 

「産業家」たちによる議論

Wired の最近の蚘事でも、シリコンバレヌで望たれる起業家像が倉わり、『未来に察しお真剣なビゞョンをも぀新しいタむプの起業家』が求められ始めおいるずいう指摘がありたした。

効率化をするだけではなく、その先を考え、どういった産業を生み出したり、再構築しおいくのか。そうした芖点に立ち぀぀、足䞋の事業を䜜っおいくような産業家の人たちは、起業家のなかでも数少なく、私の知る限り、そうした議論ができる盞手がそう倚くはないようです。

すべおの起業家がそうなる必芁はないず思いたすが、それでもそうした産業家の割合ずしおはもっず増えおほしいず思いたすし、単に起業を「うたくやる」方法論だけではなく、どう未来を䜜り、責任を果たすかずいった倧きな議論を増やしおいかなければ、スタヌトアップが産業政策に寄䞎したり、倧きなむンパクトをもたらすこずは難しいのではないかず思っおいたす。

 

この蚘事がそうした思いを持぀人たちに向けたメッセヌゞになり、そうした人たちの存圚が浮かび䞊がっおくるきっかけになればず思い、この蚘事を曞きたした。

産業の垣根を越えお、日本の産業をどうしおいけるのかを議論し、孊び合っおいく環境になれば、ず思いたす。