🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

機会からはじめよ

ハイグロース・スタートアップを目指す起業家や、大企業の新規事業の人たちの多くに共通する、新事業の立ち上げがうまくいかない原因の一つは、「自分のやりたいこと」を重視しすぎてしまうことだと感じています。特に大企業のボトムアップ型の新規事業において、これは顕著な傾向として見られるように思います。

 

もちろん、自分のやりたいことを貫いて、誇りある小さな事業を営み、そこそこの利益を出すのは素晴らしいことだと思います。一方で、ハイグロース・スタートアップや大企業における新規事業の場合は、「将来的には数百億円の売上に到達する」という周りからの期待と前提があります。そうした中で、「自分のやりたいこと」を貫き通してしまうと、周りからの期待や前提との整合性が取れず、当人も周りも疲弊する、というパターンをしばしば見てきましたし、大企業の新規事業の取り組みが「不満のガス抜き」だと言われていることも何度も聞きました。

この十数年、時代の流れとして、起業や新規事業においても「やりたいこと」や「好きなこと」が重視されていたように感じています。一時のIT領域ではそれが有効だった時期もあったとは思うものの、それは一時的なものだったように思います。事業をするのであれば、やはり事業機会を見定めることが大切です。

そしてもし辿り着きたいゴールがあるのであれば、あるべき思考のプロセスは、基本的にはゴールから逆算することではないかと思います。事業で言えば、良い事業機会を考えるところから始めて、その中で自分のやりたいことややれることを探索する、という順序です。

もし自分がやりたいことを優先したいのであれば、それを優先できる手段を考えればよく、もし新しい事業を作りたいのであれば、事業機会、ひいては市場の機会を見定めるのが大事だ、ということです。

自分にできること以外も探索する

また、「やりたいこと (will)」を重視しすぎる以外のもう一つよくある失敗のパターンとして、「自分のできること (can)」だけから始めてしまうことがあります。

「自分にできること」を中心に物事を考えてしまうと、探索の範囲が自然と狭まってしまいます。たとえて言うなら、「街灯の下で鍵を探す」ようなものです。しかし、どんなに暗くて見えづらい領域でも、大きな機会が見つかりそうなところで探し物をしないと、大きな機会にはたどり着けません。

ここでもやはり、いかに機会から始めるか、という視点が必要ではないかと思っています。

大きな機会を見つけるために、何度もピボットをしている起業家もいます。それ自体は自分自身の「やりたいこと」に拘泥せず、積極的に機会を見つけようとする柔軟な態度だと思いますが、自分にできることや見えていることの範囲内で探し続けている人は、なかなか良い機会を見つけられていないという印象があります。

一方で、自分がそこまで知らなくても、大きな機会がありそうなところで探してみる人たちがいます。自分だけでは掴めそうではない機会がある場所だったとしても、やり方を工夫して近づいてみたり、誰かの力を借りてその機会をものにする。そんな探索方法を採用している人のほうが、大きな機会を早く探り当てています。

 

キャリアも機会から始める

ここまでは事業の話でした。同様に、キャリアなどの場合も、機会から考えたほうが良いのではないかと思うときがあります。

ビジネスパーソンの場合、ある程度ビジネスができる人(ビジネスとの相性の良い能力を持つ人)であれば、元来の資質や能力の差でキャリアや能力の差がつくというよりは、機会に恵まれたかどうかでキャリアや能力の差がつくように感じています。

いわば、機会が私たちを育ててくれるということです。

そんな中で「やりたいこと」を重視すると、どうしても過去の経験や自分の想像の中で、取りうる機会の選択肢が留まってしまいます。しかしより外の機会に目を向ければ、自分では想像していなかった機会に出会えます。そうした機会にオープンであるかどうか、そしてそうした機会に巡り合える場にいたかどうかが、その後の成長を大きく左右するということです。

だから、もし成長したいのであれば、機会が得られる場に身を置けるかどうかが大事であるように思います*1。

 

しばしば言われることとしては、ビジネスパーソンの場合、成長する市場や会社に身を置くことの重要さが説かれます。機会はどうしても目立つ人や上の人に回ってきますが、市場や会社が成長していると、上の人たちが機会の全てを受け止めきることができません。そうすると、溢れた機会が下に回ってきます。成長している市場では、自分の身の丈以上の機会が振ってきやすくなるということです。

もう一つは、比較的混んでいないところや、今はまだ人気のないところを狙うことです。どんなに市場や会社全体が成長していても、優秀な人がたくさんいるところで勝つのは大変です。優秀であることを証明しなければなりませんし、一度証明した後も走り続けなければなりません。そうした戦いに勝ち続けるのも一つの方法でしょうが、なかなか大変なことでもあると思います。

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」とはよく言いますが、自分で機会を作り出すのは難しいことです。特にキャリアの最初はそうでしょう。であれば、機会が溢れてきそうなところに身を置く、という意識が必要なのかなと思います。

大きな機会があるところにいる

機会にも様々な種類と、様々なサイズがあります。

機会は金銭だけで測られるものでもありませんし、社会的インパクトなどで測ることもあるでしょう。それぞれ重要です。ただ、もし成長したいのであれば、種類だけではなく、「大きな機会かどうか」をきちんと考えるべきでしょう。

生きていると、突発的な機会が現れることがあります。それに機敏に対応するのも一つの方法ですが、多くの突発的な機会はバブルのように消えてしまうことがほとんどです。機会が出てきたときには「その機会は大きいか、長続きするか」をきちんと考える必要があります。

えてして「大きな機会」というのは人類規模や国家規模の課題の周りにあり、「人類としてやるべきこと」「国としてやるべきこと」として現れてきます。そうした課題は大きすぎるように感じてしまうでしょう。しかし周りの人も同じです。多くの人が怖気づいてしまいます。だから競争相手もさほどいません。そして機会自体も大きいので、少数の人に多くの機会が回ってきます。

実際、Climate Tech 等のスタートアップのイベントなどの登壇者が「いつものメンバー」になってしまいがちなのは、そうした大きな機会に取り組む人が少ないからだろうと思います。

起業をして社長になることも、優秀な学生の間では今やキャリア上でも機会を掴む一つの方法と認知されてきているように思いますが、「学生でできる範囲の起業」になりがちでその結果混雑してしまいがちです。そして「短い期間で儲けたい」と考える人も大勢いてさらに混雑します。その結果、優秀な若手社長同士がしのぎを削って戦いを勝ち抜く、という混戦状態になっているように見えます。

一方で、大きな課題に挑む人はいまだ少なく、また自分の能力を超えて挑戦する人も少ない状況です。そうした機会の大きさや混雑具合を考慮に入れると、やはり大きな課題に挑戦することが、自分自身が得られる機会の最大化にもつながるのではないでしょうか。

 

まとめ

環境が人を作ると言いますが、人の成長という観点では、自分が身を置いた環境によってもたらされる機会によって人が作られる、という面が大きいように思います。

もちろん、あまりにも軸がなく、機会を見つけては飛び移っているようだと日和見主義的であるとか機会主義的であるとも言われます。 2, 3 年ごとに違う流行りものに飛び移っている人も、良い機会を見つけることは難しいでしょう。とはいえ機会を軽視するのも違うとも思います。

だから、まずは「大きな機会」や「長く付き合える機会」を考えるところから始めてみて、そのうえで「できること」と「やりたいこと」を探すという順序で考えてみることを、成長欲の高い優秀な人にはお勧めしたいと思っています。

実際、そうした挑戦をする優秀な人が増えれば、社会の様々な課題も解決されやすくなるのではないかと期待しています。

 

※ 画像は『イシューからはじめよ』の表紙を意識しました。

*1:だからこそ、ジェンダーなどで機会に差がある状況は解決したほうが良い、ということでもあります。