🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

Nice to Have な支援の功罪と『ナビゲーター』機能の重要性

少し前の話ですが、「正しいけれど、重要ではないアドバイス」や「正しいけれど、悪いアドバイス」というのがあるという話をしていました。

たとえば「ビジネスモデルキャンバスを描いたほうがよい」というアドバイスです。確かにやったほうがよいとは思うものの、多くの場合においては、さほど重要ではありません。あまり効果がないことが多いためです。でもやった方が良いかどうかで言えば、やったほうが良いことは確かです。なので「そのアドバイスは正しくない」と一概に否定はできません。

「人脈を増やした方が良い」などのアドバイスも同様に、正しいけれど、それが本当に今優先するべきことかと言うと、そうではないタイミングの起業家も多いでしょう。そうしたアドバイスは「正しいけれど、今は重要ではないアドバイス」です。

しかし、それでネットワーキングやビジネスモデルキャンバスを書くことに起業家が多くの時間を使ってしまうと、それは「正しいけれど、悪いアドバイス」になります。

そして、お金や時間などの資源が極端に限られているスタートアップへのアドバイス、特にNice to have なアドバイスは往々にして、それらの資源を浪費してしまうという点で、悪いアドバイスにもなりやすい傾向にあると言っても良いでしょう。

さらに言うなら、一般的なアドバイスは優先順位を加味しなければ正しいアドバイスであり、ただその時々において、「正しいけれど、悪いアドバイス」にもなりやすい、とも言えます。 

Nice to have な支援の功罪

これは支援側にとっても重要な観点であるように思います。

正しいけれど優先順位が低い支援や Nice to have な支援は、悪い方向に転ぶこともあるということです。

もちろん、的確なタイミングで最適な人を紹介できれば、それは優れた支援となります。しかし、イベントを開催してネットワーキングの機会を提供する、という支援は、確かにそのネットワークが功を奏するときには良いでしょうが、優先順位が高いかというとそんなことはないことも多いでしょう。であれば、そのネットワーキング支援は、そのときどきの起業家が置かれた状況次第で良し悪しがかなり分かれます。

そして支援側のエコシステムの拡大が、起業家の増加よりも早いように見える日本(特に東京)においては、支援側の選択肢が多すぎることで、起業家にとって悪い支援に当たる可能性も増えてきているのではと思います。

もちろん、起業家自身が自分の必要な支援を判断するべきだとは思います。ただ、起業家に限らず、人は大概にして「今の自分に必要な支援」というものが分かりませんし、分かっていると思ったとしても見当違いであることもあります。なぜなら、必要としている効果的な支援が、自分の知識の外にある場合も多いからです。

一方で、支援側も起業家側の状況を十分に知れているわけではないため、的確な支援をすることは難しいことが多いように思います。

スタートアップ支援のナビゲーション機能

そこで重要になってくるのが、支援そのものではなく、起業家に適切な支援を案内するナビゲーター的な機能ではないかと思います。

より具体的には、起業家の状況を見聞きして、その時々に必要な Just in Time な支援を「紹介」する人です。ブローカーや仲介者 (intermediary, mediator) とも呼ばれます。あるいは、そうした機能を持つ人、という形になるかもしれません。

前述したとおり、起業家本人も往々にして「今何が欲しいか」というのは分かっていませんし、どんな支援があるかも分かりません。そうしたときに、起業家の状況を理解した上で、その時々の課題を適切に把握して、次にどの支援の門を叩けば良いのかを示唆してくれるナビゲーター的な機能を持つ人が、支援側にもっといるべきなのだろうと思います。 

専任の人がいてもいいかもしれませんし(ただそれは支援の中間層を増やしてしまうだけなのであまり良いことではないかもしれませんが)、支援側が自らの得意とする支援を行いつつ、ナビゲーター的な役を兼任してもいいでしょう。自分たちの持っていないケイパビリティを起業家側が必要としたときに、適切な支援先を紹介できるようにしておく、などです。もちろん、そのためには他がどういった支援ができるのかを知っておく必要があります。

これはインフォーマル学習の中でも必要とされているという話を聞いたことがあります。ある地域に、複数の科学博物館やFabLabなどがある中で、学習者のレベルや興味関心に合わせて適切な学習場所を示唆できる人が重要ではないか、といった話です。

結論

支援側が増えてきたからこそ、支援側のエコシステムが次の支援レベルに行くために、質の高い支援が必要とされています。そのためには各支援者が「Nice to have」ではなく「Must have」な支援のケイパビリティを上げつつも、同時にナビゲーター的視点を持ち、起業家の自律性を尊重しながら、プログラムを提供していくことが望まれているように思います。

 

補足

なお、単に「正しくない」アドバイスや支援もあります。たとえばユニコーン等を目指そうとしているのに、戦略の無いまま受託開発を勧めるなどです。アドバイスの全てが正しいわけではないので、その点には注意が必要かなと思います。