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Takaaki Umada / 馬田隆明

企業文化のバリューは信条から行動へ

Ben Horowitz の「Who You Are - 君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる」が発売されました。原題は「What you do is who you are」であり、「あなたの行動があなたを表す」と訳するべきでしょうか。

本書で Ben Horowitz は企業文化を「従業員の判断基準」だと言い、「行動」を中心にした企業文化の捉え方を提示しています。そして企業理念ではなく、行動規範を作ることを重視しています。

トップがいないところで人々がどんな判断をするかこそが、企業文化というものだ。社員が日々の問題解決に使う一連の前提が、企業文化だ。誰も見ていないときにどう行動するかが、企業文化なのだ。

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侍は武士の原則を「価値観(バリュー)ではなく、「徳(バーチュー)」と呼んでいた。徳とは行いであり、価値観とは単なる信条だ。この本でも書いているように、行いこそ影響力がある(ここからは、理想形を「行動規範」と呼び、ほとんどの企業が掲げている信条を「企業理念」と呼ぶことにする)。

こうした行動の重視は近年の日本のスタートアップにおけるバリューの質の変化をうまく表しているように思います。

日本でも近年、スタートアップが自社のカルチャーやバリューを公表して、採用を促すことが増えてきました。従来の大手企業では「Trust」や「Integrity」、「Transparency」や「Honesty」など、単語で重要視する信念を表すことが多かったように思いますが、最近のスタートアップのバリューはもう少し文字数が増えている傾向にあります。

そうした文字数の増加という量的な変化の裏には、バリューの内容に関する質的な変化もあると考えます。それは「行動を促すバリュー」になってきている、という点です。つまり、本書と同じく、バリューに対する信条から行動への変化がその裏にあるのではないでしょうか。

もちろん、従来もバリューの中に行動規範が含まれるケースも多かったと思います。ただ最近ではそれぞれのバリューに「具体的な行動の例」が付記されることも多くなってきているように思いますし、またそうした行動を誘引するような「ルール、プロセス、制度」(評価制度含む)を各社が用意しているようです。

事例を見ながら少し振り返ってみます。

事例

海外の各社の事例はたとえばこのページに、日本の各社の事例はweareでまとまっているようです。その中からいくつか取り上げてみたいと思います。

Salesforce

比較的古い企業に属するSalesforceはTrust、Customer Success、Growth、Innovation、Giving Back、Equality for All、Wellbeing、Transparency、Funと単語が並んだ形のバリューとなっています。

Adobe

Adobe も比較的古い企業ですが、Genuine、Exceptional、Innovative、Involvedと単語です。

Airbnb

比較的新しい企業と言えるAirbnbはBe a host、Champion the mission、Be a cereal entrepreneur、Embrace the adventureと少し文のようになっていて、「Be a cereal entrepreneur」のようなちょっと引っ掛かりのある(説明が必要な)バリューが含まれているのが特徴的です。

Twilio

Twilio もまだ比較的新しい企業です。特徴的なのは10つのバリューを「行動」「意思決定」「どうやって勝つか」の3つのカテゴリに分けている点でしょう。「行動」の部分ではBe an owner、Empower others、No shenanigans、「意思決定」の部分ではWear the customer’s shoes、Write it down、Ruthlessly prioritize、「どうやって勝つか」の部分ではBe bold、Be inclusive、Draw the owl、Don’t settleとなっています。

マネーフォワード

本書の推薦文を寄稿されている辻さんが創業されたマネーフォワード社は、バリューを「行動指針」と訳し、「User Focus」「Technology driven」「Fairness」とされています(代表メッセージのページ)。ここではバリューを価値観や信念ではなく、行動だとされています。

メルカリ

メルカリ、メルペイはしばしばその企業文化やバリューが記事にもなります。3つのバリュー、「Go Bold」「All for One」「Be Professional」は信念に近いものの、Go Bold は迷ったときの行動の判断軸になるものでしょう。

余談ですが、「Go Bold」のような行動指針、「Be 〇〇」で理想状態を示すこと、そしてチームに関するバリュー(All for One)、という3つの構成は分かりやすくて真似しやすいなと思います。

atama+

カルチャーに投資しているという記事が上がるatama+社ですが、最初にバリューを「Wow students」と置き、そのうえで大切な行動として「Think beyond」「Speak up」「Love fun.」を設定されています。行動、という明示をされている点がここでもマネーフォワード社と似ています。

SmartHR

採用スライドの先駆けともなったSmartHRでは、「自律駆動」「早いほうがカッコイイ」「最善のプラン C を見つける」「一語一句に手間ひまかける 」「ワイルドサイドを歩こう」「人が欲しいと思うものをつくろう」という風に、どのような行動をとるべきか分かりやすいバリューが設定されているように思います。

ミラティブ

同じく採用スライドが多く取り上げられたミラティブ社では、ミラティブのカンパニーページで、「期待を超え続ける」「スキルを磨き続ける」「深い愛を抱き続ける」「常識を超え続ける」「そして楽しみ続ける」という5つのバリューを掲げています。これらも特定の行動を促すバリューに近いでしょう。

10X

タベリーを運営する 10X 社は、「10x から逆算する」「自律する」「背中を合わせる」という3つのバリューが、具体例 (Do's) とともに紹介されています。24ページ目から、バリューが策定された背景も含めて解説されている珍しいドキュメントです。

speakerdeck.com

CADDi

バリュー自体は「大胆」「卓越」「一丸」「至誠」と単語をベースとしたものですが、すでにカルチャーブックを作り、そちらで行動指針をまとめているところが特徴的なように思います。

speakerdeck.com

FoundX

FoundX での私たちのバリューは以下の 3 つにしています。

  • ⭐ 良い模範であろう
  • 🪑 HRT💕とともにテーブルの同じ側に座ろう
  • 🧪 エビデンスとともに実験をしよう

(絵文字もつけてます)

こうしたバリューは実行に密接に結びつくと感じている次第です。たとえば以下はまだ書きかけですが、私たちの活動システムマップ(解説)であり、こうしたバリュー一つ一つが付加価値を加える活動を強化するように動くのだなと感じています(もちろん、逆に弱めるところもありますがそれはトレードオフだと思っています)。

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ルール、プロセス、制度

行動を縛るという点ではルールやプロセス、制度も一つのやり方です。

そのための本書からの有効なアドバイスの一つは、「ショッキングなルールをつくる」というものでしょう。

たとえば起業家とのミーティングに1分遅れたら10ドル支払う、というようなa16zのルールは、「起業家への尊敬を持つ」というバリューを書くよりも、よっぽど分かりやすくその行動を促してくれます。Amazonの「パワーポイントの禁止」も、Amazonでのドキュメントを重視する文化に寄与しています。それと同様に、印象に残るバリューやルールを各社が考えるようになってきているように思います。

先日の Coral Capital の西村さんが書かれた『「フクロウを描け」と会社のバリューに書く理由』という良い記事がありましたが、おそらく少し解説が必要なルールやバリューを入れておくと良いのでしょう。そして毎日使うようなバリューが良いことが本書では指摘されており、確かに…と思った次第です。

まとめ

ちょうど文化について考えていたところだったので、献本でいただいた本を読んだ後、Kindle でも買って読みました。

リーダーは、価値観の背後にある「なぜ?」をことあるごとに訴えることが大切だ。「なぜ?」がなにより記憶に刻まれる点だからだ。

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文化をデザインするにあたって、これを誰を雇いたいかを決めるためのプロセスだと考えることもできる。

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実際、最初の20人の人選で、この会社のその先の姿がほぼ決まったと言っていい。どんな文化にしたいかと、誰を雇いたいかは、ある意味で同じ質問なんだ。

のあたりなどは振り返りを促してくれました。

昔、以下のようなスライドを書いたことがありますが、さらにそこから一歩進んで、様々な考えをめぐらすことに良い書籍でした。特に境界例をどすうるか、解雇をどうするかなど、微妙な話のときには改めてこうした本を読んだほうがよさそうです。

www.slideshare.net

本書については関連記事を以下で翻訳しています。

review.foundx.jp

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ということで、Ben Horowitz の「Who You Are - 君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる」、お勧めです。

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