🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

起業支援活動のマッピング

異なる大学間でアントレプレナーシップ教育や起業家向け教育(研修)、起業支援について語るとき、それぞれの大学での支援対象や目的が異なっているため、互いの活動を整理してから議論した方が良さそうだなと感じています。

そのときに、以下のような二つのマップを用意して、自分たちが何をやっているのかを位置付けてから会話するのはどうかと考えています。

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① 起業の分類

支援機関が起業の支援をしたときに、成果としてどういった起業の種類を目指しているのかについて分類しています。以下の二つの軸で考えています。

  1. 「社会 ⇔ 経済」軸
  2. 「小規模 ⇔ 大規模」軸

まず「社会 ⇔ 経済」軸についてです。もちろん、社会と経済は相反するものではありません。ただ、Alterによる社会的企業の非営利と営利のスペクトラムのように、そこにはグラデーションがあり、どちらに重点を置くかという点では分類しやすいのかと思います。

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また「小規模 ⇔ 大規模」軸については、企業として「目指す」規模の軸です。

現状のステータスではなく、そもそもどこを目指しているのか、という観点で整理した方が良いのかなと思います。たとえば地域で小さく始めて、需要があったから小規模から徐々に大規模に拡大していく、ということもありますが、そのように意図して作ったのか、たまたまそうなったのかによって、この軸でどこに位置するかは変わります。

なお、大規模といったときには、影響する人の数は億単位、売上でいっても数千億円、という規模を想定しています。

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この企業の分類をしたときに、起業の種類をざっくりと以下のようにマッピングできるのではないかと思っています。

たとえばグローバルスタートアップは右上に位置し、村おこしなどの取り組みは、小規模かつ社会貢献に近い部分があるので左下に位置する、という風にしています。なお、FoundX が支援しているのは、右上に近いところです(なんでも儲かれば良いとは思っていないので、社会的なところも意識しつつですが)。

② 支援活動の目的

大学は研究開発された技術を持っており、さらに経済成長にも寄与するよう求められています。それでいてまた教育機関であり、教育をしつつ、教育を受けた人材もいます。そうした色んな側面を持っているので、支援活動も対象や目的が広くなりがちです。

用意したのは以下の二つの軸です。

  1. 「成果 ⇔ 教育」軸
  2. 「技術活用 ⇔ 経済成長」軸

まず、「成果 ⇔ 教育」軸ですが、その支援活動が、先ほど分類した成果(スタートアップ)としてのいずれかの起業を求めているのか、それとも大学に関わる人の教育を目的にしているのかで軸を分けています。一つの支援や授業で両方できるかもしれませんが、私にはやり方は分かりません(谷に突き落として這い上がってこい、という方法が許されるのであれば、両方できるかもしれませんが…)。

「技術活用 ⇔ 経済成長」軸は馴染みがないかもしれません。なぜ技術活用という極を用意したかというと、大学は技術シーズを持っているため、そちらに寄せて考えてしまうところがあります。その結果、「技術シーズが社会に還元できれば、経済的なインパクトはそこまで問わない(大きくなればより良いけれど)」という支援もあるように思うからです。

一方で、大学からは経済成長を牽引するようなスタートアップを、研究者や卒業生が生み出していくことも求められているため、そちらが主眼になる場合もあります。

私が関わる支援活動の中だとこのような分類になるのかなと思っています。灰色のところは以前やっていて、今はやめたものです。

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私は基本的に、経済成長を牽引するような、急激に成長するように設計されたスタートアップを生み出すための、成果に近い部分と教育に近い部分をやっている、という認識です。

なお、FoundX では技術系のスタートアップを多く採択していますが、それは成長をするために多くのビジネスで必須と考えているからですが、必ずしもテックトランスファー的な技術ではありません。

(※左上の方が抜けているように見えますが、東京大学産学協創推進本部としてはそのあたりも多数やっているという認識です。)

具体例を言う

マッピングだけではなく、これまでの支援した中で最も支援活動が効果的だったチームや、思ったようにうまくいかなかった支援談など、具体的な話を交えると、より詳しく分かるようになります。

具体段を聞くとマップ上のどこのことをやろうとしているのかも分かりますし、それぞれの支援活動のメインターゲットも分かるのではないかと思います。

まとめ

全てを包括とした一つの支援などもありうるのかもしれませんが、そうした幅広いものよりももう少し的を絞って、「どういった成果を生み出すために」「どういった目的の支援活動をしているのか」をはっきりさせたうえで、支援活動をしていくほうが良いのかなと思っていますし、支援者同士がお互いに情報交換をするときも「マップのどこを中心的に話しているのか」を明確にしたうえで、議論をすることで、実りある情報交換ができればいいなと思います。

 

[1] http://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/662-05.pdf から引用

「未来を実装する」を実装する

未来を実装する』の「おわりに」にこのようなことを書きました。

こうした「社会実装」や「未来を実装する」というコンセプトを社会実装するには、情報を伝えるだけではうまくいきません。本書ではインパクトとそこに至る道筋を少し示しただけであり、これからこの内容についてのガバナンスやセンスメイキングを実施していく必要があるでしょう。それは著者の宿題です。

ということで、『未来を実装する』を2021年1月の出版したあと、この書籍を"実装"する活動をしてきました。

 

出版後、公開イベントや社内講演で30回程度お話しさせていただいたほか、時間の許す限り対話もしてきたつもりです。Twitterで『未来を実装する』について言及いていただいている方々にも御礼の返信もさせていただきました。センスメイキングの章で挙げたような活動を地道にやってきたつもりです。こうした活動を通して、書籍を読んでいただいた皆さんとつながれたのも良い経験となりました。

また、ガバナンスに多少でも貢献するために、政府系の委員仕事なども引き受けさせていただきました。

これらの活動を通して、少しでもこの本のコンセプトが実装できたのであれば良いなと思いますし、宿題がある程度こなせたのであれば良いなと思います。

 

今後、「社会との実装」が本当に必要な、気候変動対策や規制に挑むスタートアップなどが増えてくることを願っています。

来年はもう少しだけ先に進めるために、社会実装に関するコミュニティ活動を強化しようかなと思っています。ご興味あれば『未来を実装する』特別サイトからご登録ください。

 

2022年はまた本を出す予定です。『未来を実装する』よりも、もう少し現場寄りの内容になる予定ですが、ご興味あればまた手に取っていただけると嬉しいです。

スタートアップ側に不利な協業契約にならないように(とその対策)

スタートアップが注目を浴び、日本全国でオープンイノベーションの取り組みが広まるにつれて、スタートアップが他企業と共同で何かを行うことが増えました。また各産業の深い課題に取り組むスタートアップも増え、初期の段階から顧客企業との間でNDAなどの契約を交わすことが増えているように思います。

そんなとき、スタートアップはどうしても不利な立場に置かれがちです。そのため国として是正の動き(下記に紹介します)が出てきているのですが、そうであるにも関わらず、オープンイノベーションをビジネスとする一部の企業などが、スタートアップ側に不利な契約を持ち掛けるケースを聞きました。そこで注意喚起も含めてブログにしておきます。

契約の隠れた注意点

PoCやライセンス契約での不当な契約や、共同研究における知的財産権の帰属、成果物の利用の制限などは、不利なところが分かりやすいので、契約書のやり取りの中で問題に気付けるスタートアップも多いのではないかと思います。

ただし、それ以外にもいくつか気を付けるべき点があります。例えば以下のようなものです。

  • 損害賠償責任の一方的負担 (何かしらの損害が起こった際はスタートアップが一方的に負担するとの文)
  • 取引先の制限
  • 最恵待遇条件

これらの一部はNDAなどの時点で入っているケースもあります。たとえば損害賠償責任については、何かしらの不慮の事故により損害賠償が発生したら、スタートアップはすぐに倒産の憂き目にあうかもしれません。

契約に不慣れなスタートアップや立場が弱いスタートアップは、名の知れた企業や実績のありそうなオープンイノベーション仲介企業から「これが雛形です」と言われると「そういうものか」と思って、飲んでしまうように思います。しかしこれらにはそれぞれリスクがあるため、契約書はきちんと読むことをお勧めします。

対処するには…

不利な契約に気付いたときに役立つのが経済産業省・特許庁・公正取引委員会と委員によって作られた「モデル契約書(新素材・AI)」と「スタートアップとの事業連携に関する指針」です。

これらのモデル契約書や『スタートアップとの事業連携に関する指針』は単に知識として活用できるだけではなく、これらを基に「国のモデル契約書や指針に反するのでは?」「公正取引委員会の見解として、優越的地位の乱用と見做されるかもしれません」と伝えたうえで「これはお互いにとってリスクです。良い落としどころを見つけませんか?」と先方に言うと、国の御旗の元で交渉が可能になります。

実際、これらを参照しながら「これが一般的な契約ですよ」と見せて契約を進めている支援先のスタートアップもあり、大変役に立っています。

業界としてより良くしていくために

大手企業側から料金を取り、スタートアップとのマッチングなどを行うオープンイノベーション企業にとっての、顧客はスタートアップではなく大手企業であり、大手企業側に有利な契約書を使おうとするインセンティブがあるのは分かりますし、大手企業側の法務が自社防衛的な措置を含みたがるのも分かります。

ただ、こうした動きがあるとお互いの信頼を損なってしまい、オープンイノベーションを本当に進めたいと思っている人達にも悪影響が出てきます。そこで今一度、スタートアップを斡旋するような企業やスタートアップとの協業を考える企業の皆様におかれましては、「モデル契約書(新素材・AI)」と「スタートアップとの事業連携に関する指針」、それらに加えて「スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告):公正取引委員会」を参照いただき、自社の契約書の状況をチェックされると良いのではないかと思います。また自社内の法務にも、こうしたモデルのひな型をうまく使うことで、適正な内容に変更できないかという相談もできるのではないでしょうか。

スタートアップもこうしたガイドをうまく使って、契約において交渉をすると良いのではないかと思います。