🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

『解像度を上げる』の裏話 (2) もともとは世に出ない予定だった?!

書籍の『解像度を上げる』には元となった同名のスライドがあります。*1

前著の『未来を実装する』の校了後、2021年1月頭ぐらいに時間ができたので、授業準備で忙しくなる3月までに一気にスライドを書くことにしたのが、解像度についてのスライドを書くきっかけでした。

『解像度』スライドは公表するか迷っていた

今でも覚えているのは、この『解像度』のスライドをざっと作った後に、「このスライドを世に出す意味はあるのだろうか……?」と不安になって、周りの同僚に相談したことです。

あまりにも当たり前のことを書きすぎていて、「当然すぎて新しい情報はないのでは…?」という不安がありました。他のスライドではそこまで思うことはないのですが、解像度のスライドは特にそのような気持ちが強かったように記憶しています。

その後、同僚の皆さん相手に一度話して、フィードバックをもらって一度修正し、出さなくてもいいかもな…と思いつつも、「とはいえ作ったし、世の中からの反応がなくても、アイデアへのフィードバックをするときに使えるので出そうか」と思って出したら、大きな反応があってびっくりしたことを覚えています。

2021年のツイートで同じようなことを話しています。

スライドを出した後の反応を見て勇気づけられ、「これなら本にできるかも」と思い、スライドをベースに原型となる原稿を一気に書いたのが2021年のゴールデンウィーク、そのあと英治出版様に2021年5月21日にご相談のメールを送って、そこから書籍化の話が動き始めました。

スライドに対してのWebでの皆さんの反応がなければ、今回の本はおそらく発売されてないでしょうし、本を書こうとも思わなかったと思います。

2021 年 5 月 21 日の企画持ち込み時のメール

「知っておいてほしい情報×思考×行動がまとまっている」ことが価値

解像度のスライドの内容を「当たり前」で「新しい情報がない」と思っていた、と書きました。

実際、内容に物凄く新しい知見が含まれるわけではないのかなと、今でも思っています。思想書のような目が覚めるような洞察がそこまで含まれているわけではないと思いますし、Amazon などのレビューでも満点の 5 を取るような本ではないかもしれません。

しかし、深さ、広さ、構造、時間といった「整理の仕方」や、これまで多くの方々がもやもやと思っていたことが言語化されている、という点には、価値があるのかもしれない、と今では思っています。

とりあえず整理されて網羅されてある、という教科書のような価値です。あくまで入門書であり、ここをベースにより"深めて"いくための土台ということになるかもしれません。ベテランの人には読みながら「そうだよね」と思ってもらえれば、そして若手の人には考え方を大枠で掴んでいただいて、行動を始めてもらえれば、それが価値になるのではないかなと。

そうした意味で、本書の使い方としては、皆さんが思っている「当たり前」を他の人に伝えるときに使ったり、若手の新入社員に「知っておいてほしい情報×思考×行動」を知ってもらうために渡してみたり、というあたりが最適なのかもしれない、と思います。

「当たり前=定番」にもなる?

「当たり前」だと皆さんに思ってもらえるということは「定番」にもなれる、ということでもあると思い始めています。

もしこの『解像度を上げる』という本で、「誰もが知っておくべき知識をうまく整理できている」と思っていただけるのであれば、様々なビジネス思考系の定番本のラインナップの中にうまく入ることができると良いなと思いますし、ビジネス経験の長い方々には、そうした使い方をしていただけると嬉しいなと思っています。

*1:発表当時は『解像度を高める』という名前のスライドでしたが、本の出版に合わせて『解像度を上げる』に変更しています。

『解像度を上げる』の裏話: 実は第2部があった?!

ビジネススキル系の本にしては分厚めの『解像度を上げる』ですが、実は第2部がありました

しかし編集の途中でまるごと削って、幻の第2部となってしまった、という裏話があります。

 

第2部で書いていた内容は、『仮説』についてでした。

この仮説の部分を削ったときのやり取りは、以下のようなものです。

〇〇様
お世話になっております。
ご確認ありがとうございます。
はい、私もさすがに長いなと思っておりますので、構成も含めて少しご相談させていただければと思います。
個人的には仮説の部(8万字程度)を丸ごと削ったうえで、あとは少しご相談しながら項目を削っていくという形かな…と思っております。

 

2021年12月10日の編集者の方宛のメール

 

なぜ「仮説」の部があったのか、なぜ削ったのか

仮説の部を書いていた理由はこのようなものでした。

  • 課題や解決策の解像度自体もある種の仮説だから
  • 私たちは高まった解像度を基に新しい仮説を作り上げるから

なので、解像度と仮説は両面で考えていく必要があると思っていました(実際、その一部は解像度の本の中にも残っています)。また、仮説に関する考え方のスライドもいくつか出していたのも一つの要因です。

しかし……書き始めるとそこだけで8万字ぐらいの長さになってしまい、今の解像度本の1.5倍の厚さになりそう、ということで、今回は『仮説』の部分はお蔵入りさせた経緯があります。

 

幻となってしまった『仮説』の部分については、今年のGWぐらいに一気に書き足して、今では22万字ぐらいの原稿になっていて、切り離してよかったと改めて思っています(笑)

機会があれば、『解像度本』とは別の『仮説本』としてお披露目できればなと思っていますので、ご興味ありましたらしばらくお待ちください。

 

結構ばっさりと原稿を切って『解像度本』ができている、というちょっとした裏話でした。『解像度本』を持っている人に対して、「実はその本って1.5倍ぐらいあったらしいよ」とちょっとコメントできるネタとして、読者の皆さんに共有させていただきます。



『解像度を上げる』の概要とポイントが 5 分で分かる解説

解像度を上げる』という書籍を 11/19 に発売しました。

この本は2021年に出した同名のスライドの書籍版であり、より詳細な内容にしたものです(当時は『解像度を高める』というタイトルで公開しました)。

主に以下のスライド群の内容を詳細にしたものとなっています。

これらのスライドを読んでみて、何か得るものがあったのであれば、ぜひ書籍も手に取っていただければ幸いです。

www.amazon.co.jp

 

🖼️ 解像度の解像度を上げるためのフレーム

解像度」という言葉が、ビジネスの会話で頻繁に使われるようになったように思います。ただ、その言葉が用いられるときの意味は様々あるようです。

そのため「解像度が足りていない」と誰かから言われたときに、「それが何を意味するのか」「どのようにアクションすれば良いのか」が不明瞭である場合も多いのではないでしょうか。

そこで本書では解像度という言葉の解像度を上げようと試みています。

特に解像度を

  1. 深さ
  2. 広さ
  3. 構造
  4. 時間

4つの視点で整理することで、解像度の意味することを分かりやすく、覚えやすくして、日々のビジネスで解像度という言葉をより使いやすくできればと思っています。

💰バリューを出すための基本も解説

解像度を上げることが求められているのは、起業家だけではありません。日々の業務でも高い解像度が必要な人も多いはずです。

そのため本書は、スタートアップ向けの書籍ではなくビジネスパーソン向け、特に若手向けの方にも手に取ってもらえるように書きました。解決策よりも課題が大事な理由などの基礎的なことも説明しており、新入社員の方などに渡して読んでもらえると嬉しいです。

❓🔨 課題と解決策の解像度に分けて考える

今回の書籍では、

  1. 課題
  2. 解決策

の解像度を上げることにフォーカスしてお話ししています。

本の後半では「課題の解像度を上げる方法」と「解決策の解像度を上げる方法」を、それぞれ深さ、広さ、構造、時間の4つの視点から整理しました。

多くの人と話していて、特に「課題の深さ」が足りないことが多いので、そこについては重点的に解説する章として用意しています。

🧠 思考本を超えて、情報×思考×行動

本書はいわゆる「思考本」のジャンルの本だと思います。

思考本の多くはその名の通り思考に関することが中心に書かれていますが、私個人としては、思考することと同程度に「行動すること」や「質の高い情報を得ること」も重要だと思っています。

そこで本書では解像度を上げるためには

  1. 情報(収集)
  2. 思考
  3. 行動

という3つを組み合わせ、反復しなければならないという立場を取り、思考以外の部分もカバーしながら解像度を高める方法についてまとめています。

🥋 情報×思考×行動のための「型」を紹介

本書を読んだ後に、より具体的に行動に移せるよう、解像度を上げるために必要な「情報×思考×行動」方法を、4つの視点を基に48の型として紹介しています。

より具体的には言語化、顧客インタビュー、サーベイ、分けることと比較すること、抽象化と具体化、先を読むことなどです。

『鬼滅の刃』では「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」などと型が整理されていましたが、そうした形で「課題の深さ 型1 言語化」などと思い出してくれると嬉しいです。

こうした型を意識しながら、まずは行動して、粘り強く取り組んでいた起業家チームは、かなりの確率で高い解像度に到っているように思います(たとえば FoundX に参加していただいていた SoftRoid 社などはその一例のように思います)。

🚩 前半は概念説明、後半は方法論

本書では、前半3章までが「解像度」という概念の整理、4章以降が「解像度を上げる方法」という大きく2つの構造を取っています。

解像度を上げる方法がある程度分かっているベテランの方々は、前半3章まで読むだけでも十分かもしれません。解像度を上げる方法を求めている人は、4章以降もざっと読んで、使える『型』をぜひ見つけてください。

🔭 未来の解像度を上げる

最後の8章に「未来の解像度を上げる」という章もつけています。この章は、前著の『未来を実装する』でよく聞かれた「未来をどうやって描けば良いのか?」という質問に対する答えのつもりです。答えの中でも解像度に関連することしか書けませんでしたが、半分ぐらいはカバーできているのではないかと思います。

私個人の願いも多分に入っているこの章も、その内容が読者の皆さんに伝わると良いなと思っています。

📙 格好良い装丁

『解像度を上げる』、表紙がとても良い感じなので、ぜひ書店に出向いて、手に取ってみてください。

 

目次

第1章 解像度を上げる4つの視点

第2章 あなたの今の解像度を診断しよう

第3章 型を意識しながら、まず行動からはじめて、粘り強く取り組み続ける

第4章 課題の解像度を上げる―「深さ」

第5章 課題の解像度を上げる―「広さ」「構造」「時間」

第6章 解決策の解像度を上げる―「広さ」「構造」「時間」

第7章 実験して検証する

第8章 未来の解像度を上げる

 

11/19 (土) 18:10 ~ 19:00 に Twitter Space で編集者の方と、出版までの裏話も含めてお話しする予定です。もしご都合合えばご参加ください。

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