🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

人類や国の課題を1%解く

世界や日本には大きな課題がいくつかあります。そうした大きな課題を大きく解くことができれば、つまり世界や社会の課題に大きく貢献する事業を作ることができれば、金銭的な見返りを得ることができます。

Bill Gates らの Breakthrough Energy Summit に参加してきて、「年間510億トンの1%を削減できるソリューションでなければ投資はしない」と何度も聞く中で、「大きさ」が重要だと改めて感じました。

取り組む課題が大きくなければ、そして解決策がその課題の大部分を解決できなければ(あるいは大部分を解決できる可能性がなければ)、世界からは注意を向けてもらえず、お金などの資源を獲得することも難しい、ということだろうからです。

 

ただ、その求められている「大きさ」は多くの人の想像を超えることが多く、なかなか伝わりづらいと感じていました。

そんな中、 「年間510億トンの1%を削減できるソリューションでなければ投資はしない」という「1%」というのは、なかなか良い大きさの示し方ではないかなと思いました。すべてを解決するほどには大きくはないものの、一方で世界や日本の課題の1%はかなり大きな課題だからです。

 

たとえば世界の課題であれば、

  • 年間GHGの排出量の1%を削減する
  • 人間の健康寿命を1%長くする
  • 教育を受けられる人を1%多くする

などはかなり大きな規模の課題でしょう。

日本の国家課題であれば

  • 日本の労働供給の1%を代替する
  • 日本のGDPを1%上げる企業/産業を作る
  • 日本のエネルギー自給率を1%上げる
  • 日本の食糧自給率を1%上げる

あたりでしょうか。これらが実現できれば、かなり大きな事業につながります。

 

例)労働人口

より具体的に見てみましょう。たとえば、日本で間違いなく来るのは労働力不足です。2040年には1100万人の労働供給が足りなくなると言われています。

https://www.works-i.com/research/report/item/forecast2040.pdf

人口が減って消費者が減るという面もありますが、問題は、高齢者が退職することで労働供給が減る一方で、高齢者は消費者として残り続け、労働需要と労働供給のバランスが崩れることです。特に建築や小売り、物流や教育、医療や介護など、生活維持サービスはこれまでと変わらないか、これまで以上の需要が見込まれています。

その結果、「消費者に比べて、労働者がかなり減る」ということになり、生活維持サービスに大部分の雇用が確保されます。そしてイノベーションを起こしていくような雇用に労働者を割り当てられなくなると、社会全体で「生活を回すだけで精一杯」になり、新しい取り組みなどを行えなくなる悪循環になっていきます。

現状は実質的な移民によってまかなわれていますが、一方、円安の影響やアジア圏での少子化傾向で、これからも外国からの労働者に頼らせてもらえることができるかどうかは分かりません。

いかに生活維持サービスのサービスレベルを保ちながら、サービス提供に必要な人を減らすようなイノベーションを起こせるかです。

人材の流動性を上げたり、リクルーティングのサービスで人の最適配置を目指すことも重要ですが、圧倒的に人が足りなくなるとしたら、もはやそれだけで解決する問題ではありません。それにソフトウェア「だけ」で解決できる問題も限定されます。そもそものやり方を変えたり、ロボットのようなものをうまく入れていくしかないのでは…と思います。

2040年には1100万人が足りなくなると言われているのなら、その1%である「2040年までに10万人分の雇用を不要にする」ようなイノベーションを求める――これぐらいがちょうど良い課題と解決策の大きさのように思います。

それがどれぐらい難しいかというと、産業別就業者数を見るとわかりやすいかなと思います。

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html

その取り組みが100個成功すれば労働供給不足を回避できます。しかし全部が成功するわけではないので、今から300個ぐらい10万人の雇用を不要にするような取り組みがあって、そのうち100個が成功すれば…という感じでしょうか。

いずれにせよ「そのサービスは単なる効率化ではなく、国内の10万人分の雇用を代替できる道へと続いているのか」は、かなり難しいとは言え投資家や支援者にとって一つの良い判断軸になるのではと思いますし、起業家の方の事業のゴール設定のときにも大きな課題の1%を解決できるかどうか、ということを考えることもできるでしょう。1%というのは規模感としてなかなか悪い数字ではないように見えます。

 

まとめ

小さな取り組みに意味がないというわけでは決してありません。それには間違いなく意味があります。ただ、大きく解決できれば、その分だけ大きな価値が生まれることもまた事実です。そしてその可能性に人は賭けたくなるのが人の性なのだろうと思います。

スタートアップが急成長するためには、最終的に大きな課題を解決しなければなりませんが、その適切な規模を推定するときに、「人類・国家課題の1%を解決する」というのはなかなか良い規模感ではないか、という話でした。