🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

「強み」にこだわりすぎない

私たちはしばしば、「自分の強みは●●なので、この道を選ぶ」と言ったり、誰かから「日本の強みを活かして勝つ方法は何か?」と尋ねられたりします。

強みに焦点を当てるべきだとよく言われますし、過去の経験を生かすことは理屈でも、コストパフォーマンスの面でも理にかなっています。

 

しかし、強みにこだわることは「縛り」ともなりえると思っています。なぜなら、「自分に強みがないから挑戦しない」という結論に容易になりえるからです。

 

強みにばかり目を向けると、これまでに自分が培ってきたスキルや能力の範囲でしか道を選択できなくなります。それは過去の延長線上でしか未来を選択できないということであり、過去によって未来がすべて規定される、ということでもあります。

でもそれって本当にそうなのでしょうか。

未来はもっと可能性に開けているはずですし、私たちの意思で変えていけるはずです。

 

たとえば、学部生の4年間の専攻が「文系」だからといって、その後の数十年の職業を自分の専攻のみに限定する必要はないはずです。他の分野に興味があれば、勉強すればいいだけだからです。最初は大変で、コスパが悪く感じるかもしれませんが、2 年ぐらい真剣に勉強すれば新しい強みを作ることができます。

 

事業においても同様です。たとえば Climate Tech のような、急激に市場が立ち上がってきている領域では、自分たちの持っている技術や強みに関係なく、その機会に身を投じることが大事ではないかと思います。機会が大きそうなのであれば、そしてそれが解くべき課題なのであれば、日本の強みがあろうとなかろうと、その領域に賭けるべきではないでしょうか。

 

それに、その機会に身を投じることで、「実はここでこんな自分の能力が使える」「実は日本にこんな技術がある」ということが分かってくることもあります。ある意味、自分の強みは遡及的に見出され、振り返ってから後付けで「強みが発見される」ことも多いのではないでしょうか。たとえば、「実は自分は営業が人より上手だった」「実は日本の中小企業が作る部品が新しい蓄電施設に使えた」というものは、機会に身を投じてから分かることです。

そうして機会に身を投じて挑戦してく中で、新しい自分たちの強みも磨かれていくはずです。特に機会の大きな新しい領域では、数か月頑張るだけで、その領域で日本で有数の専門家にもなれるはずです。

 

だからこそ、

  • 「強み」に目を向けるのではなく、「機会」に目を向けること
  • 「過去」を意識しすぎて囚われるのではなく、「未来」の可能性に対して拓けること

を意識したほうが良いのではないかなと思います。

そして機会や未来がそこにあると思うのであれば、そこに飛び込むことで、自分の強みを発見し、新しい強みを作り上げていけるのではないでしょうか。

 

 

(補記)

とはいえ、私たちは強みに目を向けてしまいがちです。その理由として、

  • コストパフォーマンスへの意識、特にコストへの意識が強いから
  • 長期的な成果よりも、短期的な成果への意識が強いから
  • 勝ったときの利益の大きさよりも、勝率への意識が強いから

という3点があるように思っています。

1点目のコストパフォーマンスについてですが、確かにほどほどのリターンしか期待できないときはコストを考えるべきだと思います。つまり、多くの場面では強みを意識した方が良いように思います。一方で、リターンが大きく跳ねうるときには、コストの相対的な重要度は下がります。なので、機会が大きいと感じる状況に限り、強みをいったん置いておくほうが良い、というのが今回の話です。

また、2点目の長期的・短期的な成果については、短期で成果を出そうとすると、確かに今ある能力をベースに考えていくべきということになります。しかし、長期であれば、その間に強みを育んでいくこともできるので、機会に目を向けることが可能になるのではないかと思います。

最後に、勝率への意識が強いと、勝てる戦や負けない戦しかしなくなります。そうすると、「インパクトが大きい解くべき A+ の課題」ではなく、「インパクトが小さくても解けそうな B+ の課題」に注目してしまうように思います。でも勝ったときに大きなインパクトがあり、大きな利益が出そうな課題であれば、勝率が多少低くても賭ける価値はあるはずです。

とはいえ既存企業の多くは、負けないことや失敗しないことへの組織的なインセンティブが強すぎて、賭けづらいという点はあるとは思いますが、それはまた別種の問題として捉えるべきかなと思います。

 

私も含めてこうした思考の癖やバイアスはどうしても入り込んできます。だからこそ意識的に癖を認識して、そこから抜け出るような努力が必要なのかなと、個人的には思っています。