🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

R&D (研究開発) から RDD&D へ

R&D (研究開発) ではなく、RDD&D という言葉を聞くことが増えました。

この RDD&D は、

  • Research (研究)
  • Development (開発)
  • Demonstration (実証)
  • Deployment (展開・普及)

の頭文字をとったものです。

たとえばアメリカのエネルギー省 (DOE) の技術移転室 (Office of Technology Transitions) のミッションは RDD&D だと言っています。つまり、単なる技術の研究開発だけではなく、普及までを見るのが自分たちのミッションだということです。

この RDD&D について少し考えてみましょう。

 

RDD&D と言われ始めた背景

どうして R&D ではなく、RDD&D の視点が必要なのでしょうか。

それは、技術を供給する側の R&D に注意を向けるだけではなく、Deployment を意識することが、技術の社会実装の観点からはとても重要である、という認識が広がってきたからでしょう。

DOE が関与するエネルギー関係でいえば、仮に技術開発 (R&D) 自体がうまくいっても、その新しい技術が普及・展開されなければ、エネルギー転換にはなりません。そのため DOE の長官はしばしば「Deploy, Deploy, Deploy」と Deploy (展開・普及) の重要性を重ねて訴えています。

そして実際、Deployment まで見据えて技術開発をしなければ、うまく普及はしていきません。しばしば「技術で勝って、ビジネスで負けた」と言われますが、R&D の時点で高く評価される性能等の評価軸では勝っていたものの、Deployment のときに必要になるコストや運用しやすさといった評価軸では負けていて、うまく普及しなかったということなのかもしれません。

 

Deployment における支援

この Deployment には、これまでの R&D とは異なる支援や政策が必要です。

たとえば、資金的な面を見てみましょう。

Deployment のフェーズにおいては量産のために工場建設等で大きなお金が必要です。量産ができなければ価格が下がらず、価格が下がらないと需要が生まれず、需要が生まれないと量産ができない、という鶏と卵の関係が発生します。これが打開されなければ、折角開発した技術が使われないまま終わってしまうのです。そこを打破するには Deployment における補助が必要です。

RDD&D とお金の関係。Two More Valleys of Death for Hard Science Tech (mdeia.org) のものを一部日本語訳し、RDD&D と対応させたもの

DOE は RDD&D のそれぞれのフェースで支援をしています

  • R&D では国立研究所や研究開発の資金提供。ARPA-E などのプログラムの提供や、開発に近いところでは SBIR/STTR、I-Corps や技術移転室での支援。
  • Demonstration は、実証専門の担当室や、水素・DAC・炭素回収等の一部技術のハブの構築。
  • Deployment ではローンプログラムの提供など

その他、Deployment では Breakthrough Energy Catalyst などが、そこでの触媒的な役割を果たそうとしています。

「優れた技術さえ開発できれば、勝手に売れていく」というのは中々起こらず、こうした一連の支援がなければ、優れた技術は市場で日の目を見ない、ということです。

私たちが R&D を考えるときも、RDD&D までスコープを伸ばして考えてみることで、やるべきことがより詳細に見えてくるはずです。そして Deployment までが大事だという視点は、技術開発にも新しい視点をもたらしてくれます。

これまでは「作った技術をどう普及させていくか」という技術プッシュの視点、サプライサイドの視点が強かったものの、これからは市場からのプルの視点、つまりデマンドサイドからの視点でも考えていかなければならない、ということです。ビジネスからしてみればある意味当然ですが、支援の形はそうではなかったため、ここを是正していこうという動きがあるのではないでしょうか。

 

RDD&D + D の設計

RDD&D に更にもう一つ D を加えるとしたら、Demand です。需要が高まることで、その需要を満たすべく技術開発が進むこともあります。

たとえば公共調達はその手段の一つです。より環境に優しい商品しか買わない、と政府が決めれば、そこに需要が生まれ、その需要を満たすべく製品開発が進みます。

民間でもこのような動きはあります。First Movers Coallition は、カーボンニュートラルに向けて、必要な技術の市場創出に向けて、先進ユーザーとなる企業が購入をコミットするというプラットフォームを設立しています。会社としてこうした宣言をすることで、現場の人たちもグリーンな製品を買う稟議を通しやすくなるのではないでしょうか。

また Advanced Market Commitment (AMC) を使って、事前にスペックを示し、これが達成出来たら高値で買う、ということが、Stripe を中心として設立された Frontier などでなされています。AMC については Rethink priorities のレポートなどが詳しいです。

技術に基づくビジネスでは、主に技術リスクと市場リスクの2つのリスクがありますが、そのうちの市場リスクを減らし、「何を作れば買ってくれるのか」という予見性を高めることで、技術開発自体が加速していくのではないかと思います。

こうした仕組みや制度設計は相当うまく設計しないとうまくいかないので、やればよいというわけでもありません。たとえば、FIT もその一種だったと考えられますが、制度設計にはいくつもの反省があると言われています。

ただ、需要の予見性を高めたり、需要を創出して市場を生み出すことができれば、そこにイノベーションや産業が生まれてくる可能性も大いにあります。そうした需要創出のイノベーティブな方法が模索されているのが現在だと言えるでしょう。

 

まとめ

もしこれから R&D 系のスタートアップをしたい、あるいは生み出していきたいのであれば、RDDD&D 、つまり

  • R&D (研究開発)
  • Demonstration (実証)
  • Deployment (展開・普及)
  • Demand (需要)

のそれぞれにおいて、適切な支援をしていくことが重要だということではないか、という記事でした。