起業家教育に注目が集まっていますが、起業と言ってもどのような事業を指すのかは様々です。最低限生きていくための事業をするためのやむを得ない起業もあれば、リスクを取って急成長をするようなスタートアップ的な事業のための起業もあるでしょう。
しかし現在、起業という概念を扱うときに、すべての起業が一緒くたに扱われてしまっている状況があるように思います。
そうした状況を踏まえてか、MorrisやKuratkoらは2016年の論文で、事業の性質からベンチャーの類型を四つに分けています。
- サバイバル
- ライフスタイル
- マネージドグロース
- アグレッシブグロース
それぞれ簡単に解説すると、
- サバイバル - 生きていくためのビジネス
- ライフスタイル - 自由や趣味のための起業。比較的小規模で、拡大はそこまで考えていない
- マネージドグロース - 着実な成長を志向
- アグレッシブグロース – 急激な成長を志向
となります。なお、先進国の起業の85%程度はサバイバルかライフスタイルの事業での起業ではないかと指摘されています。
起業家教育を行う上では、「どういった事業を生み出す起業家を育てていこうとしているのか」をある程度意識する必要があるように思います。
たとえば、それぞれの事業で必要なスキルは異なります。
同論文の表に基づいて考えると、サバイバルであれば作ることと売ることのスキルがあれば良いでしょうが、アグレッシブグロースを狙うのであれば、イノベーションに関連するスキルを身に着けておかなければならないかもしれませんし、株式での資金調達などの方法を知る必要はあるでしょう。一方、ライフスタイルであれば資金調達でも借り入れに関する知識で十分かもしれません。
それぞれの事業を起こす起業家の間で、起業家アイデンティティ (entrepreneurial identity: EI) などが異なることが指摘されています。サバイバルの事業を起こした起業家は EI が低く、次いでライフスタイルの事業を起こした人も EI が低くなっています。一方でマネージドグロースとアグレッシブグロースの両者には EI が高い傾向にあります。
もしグロースを目指す事業を作る起業家を増やしたいのであれば、EI に介入するような教育をするというのも一つの手かもしれません。しかし全事業のうちの15%でしかないとすれば、そうした教育をするべきなのか、ということも考えなければならないでしょう。
どういった事業を起こす起業家を、何の目的で育てるための教育なのかを考えたうえで起業家教育を設計・実施していく必要があるように思いますが、そうしたときのためにこうした類型は一つのヒントとなるはずです。