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Takaaki Umada / 馬田隆明

起業家の不足: 2022年の日本のスタートアップエコシステムの課題

2022年現在、日本のスタートアップエコシステムにはたくさんの改善点があるとされています。たとえば経団連が2022年にまとめたスタートアップ躍進ビジョンには、2022年時点での課題がいくつも挙げられています。

ただ、この5年を見てみると様々な制度や環境が整ってきているのも事実です。スタートアップフレンドリーな制度や組織がいくつも立ち上がり、VCからの投資額やファンド組成額も順調に増えています。

他国と比較して足りない部分はもちろんまだまだありますが、10年前や5年前と比べるとスタートアップエコシステムは全体的に改善傾向であるように思います。

そんな中で、あまり変わっておらず、数々の課題の中でも最も大きなボトルネックになっているように見えるのは、起業家の数であるように思います。これについて、データを見ながら考えていきます。

データから推測する起業家の数の減少

INITIAL のまとめた 2021 年の資金調達のレポートを見てみましょう。

2021年 Japan Startup Finance 〜国内スタートアップ資金調達動向決定版〜 https://initial.inc/enterprise/resources/japanstartupfinance2021

投資金額(調達金額)は毎年伸びてきており、リスクマネーが順調に伸びてきているのは赤色の棒グラフを見ても分かるところです。もちろん、諸外国と比べればまだ数分の一や数十分の一かもしれませんが、少なくとも勢いよく増えてきてはいます。

一方、緑色の線グラフで示されている資金調達社数は、2018年をピークに、2021年は約70%まで下がっています。さらに「設立後経過年数別の調達者数割合推移」(p.24) も、1年未満の企業は年々下がっています。

つまり、全体としての投資金額は増えているものの、創設されたばかりのスタートアップへの投資は増えているわけではない、ということがデータから示唆されています。

創設されたばかりのスタートアップへの投資が増えない原因としての「起業家の数」

こうした数字になる原因を考えてみましょう。

まずデータ自体に疑いを持つこともできます。少額の資金調達は表に出ないものが多く、捕捉できていない調達がある可能性もあるからです。ただそれはどの年もそう変わらないはずのため、経年変化については大きな影響は及ぼさないと考えます。

次に考えられる理由としては、

  • 投資家が若いステージに投資しなくなった(求められるレベルが上がった、シードからアーリーに投資の軸を移した、など)
  • 投資に値するアイデアが少ない(投資対象となる領域が変わった、など)
  • 起業家の数が少ない

などが考えられます。

これらの理由の中では、日々起業の初期の人たちと関わっている中で筆者が感じていることとしては、起業家の数の減少が最大の理由ではないかと思います。

同様の悩みを投資家から聞くことがしばしばあります。「起業家がいないから自ら作りに行く」と、VC主導で起業するプログラムやスタートアップスタジオを検討するところも増えてきています。私も個人の感想として、起業家の数はさほど増えていないという印象です。

投資資金を増やす以外の策が必要

リスクマネーの額は年々増えているのに、資金調達の数や起業家の数が増えていないことを考えると、「VC に回すお金を増やせば、起業家が増えるわけではない」ということが言えるのではないかと思います。もちろん今後、遅効的に効いてくる可能性もありますが、現時点ではその傾向は見えていません。

となると、スタートアップエコシステム全体をより良くしていくためには、資金量を増やす以外の「起業家の数を増やす」手立てを講じる必要がありそうです。

しかし、その手立てを選ぶときにも注意が必要です。

たとえば、無理やり起業の数を増やすことはできるでしょう。たとえば「大学から50社ずつスタートアップを輩出せよ」と号令を出すことで、数は増えます。しかし、無暗に起業の数を増やすことが政策として正しいかどうかは議論がありますし、傾向的に否定的な論のほうが多いように思います。実際、日本でも大学発ベンチャー1000社計画というものを行いましたが、あまり評価は芳しくありません。数を増やすために無理やり起業を増やす取り組みが始まると、歪んだインセンティブを生み出してしまい、後処理が大変になるリスクの方が大きいように思います。

なので、「起業家の数を増やさなければならないから、起業家の数をなんとしてでも増やす」という後先を考えない取り組みは危険です。起業の数が増えていない原因を考え、そこにアプローチしていく必要があるように思います。

そこで続く記事では、なぜ起業家の数が少ないのかについて考えたいと思います。

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