🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

生成 AI を前にアントレプレナーシップ教育はどう変わるのか (2025 年版)

アントレプレナーシップ教育の一種として、公共政策を使った「政策起業」のワークショップを実施しました。

テーマは「クマ🐻対策」です。

冬眠の時期を迎えたため、現在は下火となっていますが、今年、クマは日本全国を揺るがす社会問題となりました。さらにクマの出現の二次影響として、本来進めるべき政策や自治体業務がクマのせいで一部止まった、という話を聞いています。

 

今回行ったのは、この「クマ被害」という社会課題を学生が分析して、それに対して政策を起案することで解決する、そんなワークショップでした。

その成果物のピッチ資料をご覧いただければと思います。

この資料を「学生が提出した資料」と言われてぱっと見たとき、多くの人が高く評価をするのではないかと思います。

しかし、学生がこの資料を作る(出力する)のにかかる時間は約30分です。

こちらのワークブック(公開版)に従って操作をするだけで、上記ぐらいのものは30分とかからずできてしまいます。

(なお、実際に参加いただいた学生の方が作った資料ではなく、私がサンプルに作成したものです。)

 

学習評価の難しさ

ではもしこの資料が、学生の提出物として提出されたとき、私たちは学生の学習をどのように評価すれば良いでしょうか。

ツールの利用の巧拙で、成果物のできは変わってきはするでしょう。しかしアントレプレナーシップ教育は、ツール利用をうまくするための授業ではないはずです。

それに学生は、この一連の作業で何を学んだと言えるでしょうか。それはアントレプレナーシップを身につけていることにつながるでしょうか。

もちろん時間内には社会課題を考えるための時間は取っていますし、AIによる成果物を評価して善し悪しを判断はしているのだろうと思います。しかし、「考える」「学ぶ」の強度という観点では、従来とは異なる頭の使い方をしていると言えるでしょうし、アントレプレナーシップの何を学んだと言えるのか、どう評価するのかはかなり難しい問いとなります。

これは生成AIによって、学生の努力と学生の成果物の質がアンバンドルされる、ということでもあります。

 

すでに使われ始めている

実際、今年の後半のアントレプレナーシップ教育の授業では、学生の皆さんが生成AIを使ってスライドやアプリを作って提出する例をいくつか見ました。オーディエンスから最も高い評価を得たのもそうした生成AIツールを使いこなす学生だったように思います。

教育でなければそれでいいのかもしれません。しかし教育が主目的だとすると、その評価は正当なのか?というのは問うべき問いのように思います。

ビジネスで成果を出すことが教育的にも優れていること、と割り切ってしまえば、生成 AI を使った成果物が良いかどうかで教育評価をすれば良いと思いますし、ソロプレナーのような人をを生み出す教育はやりやすくなったかもしれません。しかし、それがアントレプレナーシップ教育かというと、さすがに違うのでは、と思います(商業の授業ならそれでいいのかもしれませんが…)。

 

評価の難しさ=設計の難しさ=そもそも何を教えるかの難しさ

一般的な授業でも、レポートで学生を評価することが難しくなったと聞きます。社会により近いアントレプレナーシップ教育においては、成果物の質で評価することが学習評価はより難しくなっていくことになるでしょう。

かといって、生成 AI 以前の授業内容のままアントレプレナーシップ教育を続けてしまうと、実社会と教育との乖離が進んでしまうことになります。それはそれで避けたほうがよいのでは、と思っています。

 

今後、場合によっては学生のアウトプット(成果物)の質ではなく、活動量などのプロセスで評価していくことになるのかもしれませんし、もっと別の方法があるのかもしれません。

今年度の私の授業でも生成 AI を使ってアプリを作るような内容を含みましたが、まだそのときはスライドの生成はできていない状況でした。さらに当時は、生成 AI を使ってもアイデアが良くなる傾向はあまり見えず(むしろ生成AIがあるせいで試行錯誤が減っている印象もあり)、まだ大丈夫かなと思っていたら、NotebookLM 等の周辺ツールの進歩などで、上記のクマ対策のワークショップのように、授業の設計によってはアイデアの質を担保できるようになるかもしれない…と思うようになりました。そうなると、授業の構成を大きく変えなければなりません。

 

 

いずれにせよ、アントレプレナーシップ教育の設計はどうするべきなのか、ひいてはアントレプレナーシップとは一体何なのか、それを改めて問わなければならないと感じた1年でした。

(おそらく1年後には生成 AI をとりまく状況も変わっていると思いますが、ただこの問いはそこまで変わらないのだろうと思っています。が、いったん2025年版ということでまとめました。)

NotebookLM によるまとめ

NotebookLM による本記事のスライド