🐴 (馬)

Takaaki Umada / 馬田隆明

ディープテック・スタートアップへの誤解

スタートアップ全体への支援から、徐々に特定領域のスタートアップへの支援へと政府の軸足が移りつつある中で、「ディープテック・スタートアップ」への注目が増しているように感じています。そして実際、いわゆるディープテック・スタートアップに対する国の支援も手厚くなっていくという発表もなされています(例: 政府、先端スタートアップに3割増の1400億円支援へ 24年度目標 - 日本経済新聞 (2024/06/03))。

スタートアップに適した領域が時代とともに変わる中で、今後伸びうる分野に投資が増えることは、個人的にはとても好ましい動きだと思っています。

 

一方で、「ディープテック・スタートアップ」が何を指すのかをある程度定めないと、適切な支援が行われないのではないとも考えています。

実際、私の見えている範囲でも、「ディープテック・スタートアップ」という言葉の意味が人によって違っているように思います。そしてこの状態のまま様々な支援施策が実施されると、どんなに予算が増えたとしても、適切に配分されなくなってしまい、その結果、期待されていたような成果が生まれないのではないかと危惧しています。

そこで本記事では言葉の定義を整理しながら、筆者が考えるディープテック・スタートアップに関する誤解を挙げ、ではどういった理解で進めていけば良いかについて書きたいと思います。

 

ディープテック・スタートアップ振興の目的

まず大前提として、多くの挑戦は素晴らしいものであり、応援した方が良いと思っています。一方で、「国が支援する挑戦」を考えるときには、「何のために、何を応援(優遇)するのか」、つまり目的と対象を考える必要があります。

そして国によるスタートアップの支援を考えたとき、その目的は国の経済成長がほとんどのように思います。

そうすると、ディープテック・スタートアップの振興の目的は、次の世代の経済と雇用を担うような大きな企業につながるような起業を振興することであり、短期間で急成長する企業としての『スタートアップ』、いわゆるハイグロース・スタートアップの促進であると考えます。

これは起業全般を促進することとは異なります。

もちろん、短期間で急成長する企業としてのスタートアップを生むために、その前段として起業そのものを促進する、ということは手段の選択肢の一つとしてあるとは思いますが、あくまで急成長するスタートアップを輩出することが目的である、ということが本論の前提となります。

ここからの議論は、あくまでそうした経済成長を見据えたディープテック・スタートアップ振興の話だとお考えください。

 

ディープテック・スタートアップに関するいくつかの誤解 

こうした前提に立ったとき、ディープテック・スタートアップで指し示されるものにいくつかの誤解があるのではないか、と感じています。その代表的なものをいくつか整理してみます。

誤解①:ディープテック・スタートアップには革新的な技術シーズが必要である

ディープテック・スタートアップというと、『研究開発成果の事業化』や『革新的技術の事業化』と紹介されることが多いように思います。この場合、「研究成果ありき」や「大学発」が前提とされています。

しかし、そうした技術シーズがない場合でも、ディープテック・スタートアップは生まれてきています。

たとえば、2024年6月に上場し、1500億円を超える初値をつけたアストロスケール社は、ディープテック・スタートアップに分類されることが多い会社です。一方で、アストロスケール社が利用した最初の技術は大学の研究シーズをベースにしたものではないと認識しています。

また、H2 Green Steel というスウェーデンでグリーン鉄鋼を作る会社も、ディープテック・スタートアップのように見えます。しかし技術は神戸製鋼のMIDREXをベースにしたもので、彼ら自身で開発したものではありません。

最も成功したディープテック・スタートアップとも言える Tesla も、大学の技術や最先端技術を使っているわけではありませんでした。

つまり、ディープテック・スタートアップは、大学や研究所の技術が必ず起点になるというわけではありません。

ではなぜこれらの会社がディープテック・スタートアップのように見えるかというと、難しい技術を扱っているように見えること、そしてある程度枯れた技術であったとしても、それを組み合わせたり、追加の研究開発・技術開発できるかどうか、量産のリスクなどがあるからではないかと思います。そして技術の強みが最初になくとも、事業を進めていく上で技術が強みになって、ディープテック・スタートアップになっていく、という場合もあるでしょう。

もちろん、事業化する前に先端の研究シーズがあって、それを商業化することでディープテック・スタートアップになる場合も多くありますし、そうである方がリスクが低く、望ましいことは間違いありません。また、創薬など、サイエンスが競争優位性に直結する領域もあるでしょう。でも決してそれ「だけ」がディープテック・スタートアップではない、ということです。

しかし、現在の日本の支援は前者の「最先端の研究シーズがある」前提での支援にかなり偏っているように見えていて、そうなると上記の3つの例のようなスタートアップは除外されてしまう点を懸念しています。

 

誤解②:ディープテック・スタートアップは先端技術を商業化する起業のことである

一方、研究から生まれた先端技術を商業化すれば、スタートアップになるかというと、そんなことはありません。

たとえば現在、大学発ベンチャーの85%は、売上が1億円未満だという統計があります。これは利益ではなく、売上です。

ディープテックだから売上が上がるまで時間がかかる、と思われるかもしれませんが、以下の図のように、数十年経っても売上が1億円未満のところが多く、技術の商業化ができたとしても大きな企業にはなっていません*1。

https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_innovation/pdf/028_06_00.pdf

つまり、多くの大学発ベンチャーは、先端技術を商業化しようとしている『ディープテック』の企業ではあるかもしれないものの、短期間で急成長する『スタートアップ』ではない、ということです。

それはある意味当然で、スタートアップの売上を左右するのは、「顧客のどういった課題を解決するのか」であって、解決策に先端技術を使っているかどうかではありません。その技術が大きな課題を解決できるなら大きな売上になりますが、そうでないなら小さな売上になってしまいます。

社会的に重要な病気に対する創薬等であれば、その先に大きな市場が待っているため、市場のことを考えずに優れた研究をすれば良いでしょう。しかし、研究の先に必ずしも大きな市場があるわけではありません。

ただ、これは決して多くの研究に価値がないというわけではない、ということは付け加えさせてください。そもそもの研究技術と事業に必要とされる技術の間に大きなギャップが存在します。

研究から生まれた技術の多くは先端的な技術です。そうした新規性を追い求めた技術の中に、ペプチドリームの元になった研究などの潜在的に商業的価値を有する飛び抜けたものもあります。しかし研究の多くは、研究者が論文を書くという目的のために『新規性』という価値を強く意識して生み出されるものです。その文脈では先端的で価値があるのですが、それは商業的にも価値があるとは限らないのです。

そのため、もしスタートアップを目的とするのであれば、「先端技術の研究開発」をただ振興すれば良いというわけではありません。しかし、現在のディープテック・スタートアップ振興にはややその傾向があるように思います。

そうした振興を進めることで確かに『ディープテック』の条件を満たす起業は増えるかもしれませんが、『スタートアップ』である条件を満たすのは難しくなります。そして『スタートアップ』の条件を満たさない小さなビジネスになってしまうがために、多くの投資家から断られる起業が増えることになるのではないかと思います。

 

誤解③:ディープテック・スタートアップは取り組む課題が意義深い

ディープテック・スタートアップのディープテックを「深い課題であること」や「社会課題を解決する」こととする向きも一部ではあります。

しかしたとえば、食事のデリバリーをするという目的のために、最先端のロボット研究開発費をかけるのであれば、それは表層的な課題かもしれませんがディープテックではあるのでは、とも思います。もちろん、食事のデリバリーを労働力問題などの社会課題に紐付けることはできますが、そこは色々と作文できるところでもあります。

一方、課題の意義深さを基準としてディープテックかどうかを判断してしまうと、貧困や格差などの深い社会課題に、枯れたソフトウェア技術で挑もうとする事業もディープテック・スタートアップとなり、従来のスタートアップのほとんどが含まれてしまいます。すると、わざわざディープテック・スタートアップという言葉を使って腑分けする意味が薄まってしまいます。

なので、あくまで課題の性質に囚われず、解決策側の性質に着目し、解決策に含まれる技術リスクが高い場合に、『ディープテック』という言葉を使い、深い課題に挑むほうはインパクトスタートアップなどの『インパクト』という言葉に寄せていった方が、議論は混乱しづらいように思います。

 

誤解④:投資家はディープテック・スタートアップへの投資リスクを取らない

まずリスクについて少し整理すると、事業のリスクを把握しようとしたとき、かなり簡略化すると、技術リスクと市場のリスクの2つを考えます。

https://speakerdeck.com/tumada/zuo-tutekaramai-ru-to-mai-tutekarazuo-ru-to-mai-reruyounisitekarazuo-ru?slide=18

海外で創薬などの領域に投資が集まるのも、その領域は「作れれば売れる」、つまり技術リスクは高い(作れるかどうか分からない)ものの、作ることさえできれば売れることは分かっている(市場リスクが低い)からです。

もし「作れるかどうか分からない」技術リスクを取るのであれば、市場リスクは低くしたい、と思うのが投資家としての性ですし、実際に海外でも、市場リスクと技術リスクの両方が高い領域に積極的に投資しているところはそう多くないように思います。もし両方のリスクが高い領域に投資するなら、成功したときに相当のアップサイドが取れるようなものにしか投資できません。たとえば核融合などは、その一種かもしれません。エネルギー問題がすべて解決できると、莫大な富を生むからです。

日本全体として投資家や市民がリスクを取らないという面はもちろんあると思いますが、むしろ「リスクを十分に下げることができていない」というほうがより良い表現のように思います。

やるべきことはもっと大きなリスクを取ることだけではなく、技術・市場リスクの両方を下げる方法を学ぶことや、そうできる環境を作ること、技術サイドと市場サイドの相互理解を促すことも対策としてできるようになるからです。

実際に、市場リスクを下げるような取り組みを技術サイドの人たちが十分にできているかと言えば、そうとも言えないように見えています。それに「投資家はリスクを取らない」と言うよりも、むしろ「投資家に事業(市場サイド)を作る能力やリスクを下げる能力がない」「リスクが高くても投資できるような、アップサイドを想像する能力がない」と言うほうがより痛烈な批判になるようにも思います。

 

誤解⑤:ディープテック・スタートアップは市場があるかどうか分からない

「新しい技術は作れるかどうかも分からないし、作ってみないと市場があるかどうか分からない」ということが時々言われます。たとえば、さきほどの例として挙げた、ロボットなどの一部の領域は、技術的に実現可能かどうかも、市場があるかどうかもまだ見えないことが多いでしょう。

ただ、先ほどのリスクの話で整理したように、技術リスクと市場リスクのどちらかはせめて下げておきたいと思うのは仕方がありません。そして、ディープテック・スタートアップが技術リスクを主に取る事業であれば、せめて市場はあることは担保しておいたほうが良いように思いますし、むしろ、「市場があることが明確なところ、もしくは今後市場が急成長しそうなところに、技術を作りに行く」ことがスタートアップ的な成長をするための鍵のように見えています。

かつてのTeslaなど、両方のリスクが高い状況で始まったディープテック・スタートアップもあるので、市場があるかどうかが分からない場合ももちろんあります。しかし、そうした事業ばかりではなく、むしろ市場がある分野、もしくは今後市場が急成長しそうな分野でのディープテック・スタートアップが割合としては多いほうが、国全体のポートフォリオ全体としては健全であるように思います。

 

誤解⑥:他の競合となる技術に性能とコストで勝てば良い

他の競合となる技術に性能とコストで勝ったとしても、そこに大きな市場がなければ小さな事業で終わります。

「競争に勝てるか」はもちろん大事ですが、商業という観点では「適切な場所(市場)で競争をしているか」も大事です。技術偏重で始まった場合、短期的な「競争に勝てるか」というところに集中してしまいがちのように思います。

また、技術は製品のほんの一部の要素でしかありません。技術は製品という一つのシステムを形作る要素の大きな一つではありますが、一方でそれ以外の要素との相互関係の中で製品は作られていくため、そうした全体をうまく設計しなければ、技術という一つの要素がどれだけ強くとも、全体として負けてしまう可能性があります。そうした全体を考えながら、どういった技術が良いのかを考えていく必要もあります。

https://speakerdeck.com/tumada/ji-shu-toshi-ye-wo-sisutemu-to-reiyagou-zao-deli-jie-suru

 

技術リスクを取る急成長型の起業=ディープテック・スタートアップ

ここまでの議論を整理すると、個人的には、『ディープテック・スタートアップ』は

  • ディープテック:高い技術リスクを取った事業をしている
  • スタートアップ:短期間で急成長することを企図している

という2つの条件を満たす新しい企業、あるいはそうたい起業のスタイル、という風に捉えると整理しやすいのではないかと思っています。

難しいのは『短期間での急成長』

この2つの条件を考えたとき、実はより厳しい制約は『短期間で急成長する』という条件を満たすかどうかです。市場が急成長していた2010年代のITですら満たすのが難しかった条件なのだから、当然と言えば当然です。

その条件を満たすためには、すでに市場が大きい、もしくは急激な成長を遂げそうな市場を選ぶことを最初に行って、その上で技術リスクを取る、といったような、市場から逆算した上で技術リスクを取る、という発想が強く必要のように思います。決して、技術シーズ起点だけで考えるものではありません。

仮にもし技術シーズ起点で考えるのであれば、かなり事業サイドのことをきっちりと知る人(経営者や投資家)と、その技術シーズを事業に併せて柔軟に追加開発できる人が必要のように思います。

「そんな会社少なすぎる」という反論に対する反論

こうして書くと、「現実的に考えて、そんな企業は少なすぎる」「理想主義的すぎる」といった反応をされる場合もあります。

でもだからといって、どちらかの条件を抜いた起業の振興を行ったり、別の種類の起業を振興して当座をしのごうとすると、そもそも何の目的のためにディープテック・スタートアップを振興しようとしたのかが分からなくなってしまいます。さらに悪いことに、人やお金や時間といった資源も分散してしまい、むしろ本来の目的達成を阻むことにすらなってしまうかもしれません。

現実がどうあれ、その先が難しい道であれ、意義のある目的地に辿り着くための手段を考えることが創造性を発揮する場所であるはずです。もちろん達成するのは難しい道ですが、それでも目的はぶらさず、ゴールから始めて最善の道を考えていくことが重要だと思っています。

 

これからのディープテック・スタートアップの支援を考えていくために

(1) 名前を切り分ける

日本では、2000年代から起業全般の意味で使われている「ベンチャー企業」と、2010年代から新たに使われ始めた、急成長を志向する起業の「スタートアップ」という2つの言葉があり、ときには峻別されて、ときには一緒くたにされて使われています。

そこで、かなり日本の文脈と慣用に依拠した言葉の使い方ではあるのですが、技術の商業化を目的したスモールビジネスやインディービジネスでの起業を従来の「ベンチャー企業」という言葉を用いて『ディープテック・ベンチャー』と呼び、大きく跳ねうる起業を『ディープテック・スタートアップ』と呼んで、それぞれ切り分けて、異なる言葉や概念として議論するべきではないかと思います。

それぞれの起業の形態に、それぞれ異なる価値があります。起業が作る社会的価値は、経済的価値以外にもあるからです。大学で培われた研究を社会に実装していくことや、大学発の企業が地域の産業に貢献していくことは、生まれた企業の時価総額などだけでは測れない価値を持っています。

ただ、国としての経済成長や多くの雇用を生むという観点だと、あくまで短期間で急成長するディープテック・スタートアップを主に支援していくべきだとは思います。

なので『ディープテック・ベンチャー』や『ディープテック・スタートアップ』といった違う名前をつけて、それぞれの概念を丁寧に分けていくことで、より適切な資源配分がなされると思っています。

(2) 補助金での評価の方法を、次の投資フェーズとアラインさせる

ディープテック・スタートアップの多くは、最初期にお金がかかることが多く、どうしても補助金に頼ることになります。

しかし従来の研究開発の事業化の支援の補助金においては、「失敗しないかどうか」、つまりヒット率が重視して見られているように思います。税金を使う以上、失敗することを避けるインセンティブが働くことや、審査員が大学や大手企業の研究者が中心だったためのように思います。

しかし、スタートアップの投資家の世界では、ヒット率よりもホームランの大きさが大事だと言われています。そして補助金は実は、投資家よりも早い段階でお金を出すことになるため、スタートアップの投資家よりも「ヒット率よりもホームランの大きさ」を重視して選ばなければ、次のスタートアップの投資家につなげることができません。つまり現在、「成功率を重視するシード投資前の段階(補助金)」と「ホームランを重視するシード投資の段階」に大きなギャップがあるということです。

この結果、補助金事業としては「失敗が少なかったので、事業として成功」なのかもしれませんが、投資家サイドからすれば「全部小さな粒でしかないので、投資できない」ということが頻発します。これは評価の方法が異なるために起こる悲劇であり、この是正をしていく必要があるように思います。

(3) もっと退出させる

失敗しないことに重きを置くことが、企業の存続率の高さにもつながっているように思います。以下の調査では、大学発ベンチャーの起業後5年の存続率は米国で5.5%、日本で 108.7% という数字になっています。

存続率も高いばかりが良いわけではありません。

なぜなら、企業が長い間存続してしまうと、別の商業化であれば技術や特許が、長期間にわたり特定の企業に占有されてしまうからです。知財は20年経てばその効力を失います。もし1つの企業が1つの知財を10年有してしまうと、知財の寿命は残り10年となり、その知財を使った起業は行われなくなってしまうでしょう。

公立大学から生まれた知財は、発明者への帰属もあるものの、公共財の面も持ちます。失敗して会社を閉じれば再利用されたはずの公共財を、特定の企業が持ち続けることはあまり良いこととは言えないように思います。

これも前述と同じく、評価の問題であるように思います。どのように評価するかをきちんと考えなければ、ディープテック・スタートアップは生まれてきづらいように思います。

(4) 事業から逆算して技術を集める&研究開発費を出す

日本の大学において広がっているギャップファンドや、NEDO の NEP 開拓コースなどはあくまで技術起点のものとなっています。「技術ありきで事業を考える」のももちろん大事ですが、一方で「事業ありきで技術を考える」ことも重要で、こうした取り組みへの支援は現在ほとんどありません。

しかし、米国ではARPA-EやDARPAなどの研究機関がこうした逆算式の研究開発を推進していますし、Breakthrough EnergyもFellowsなどの仕組みで、事業領域を指定した研究開発に補助金をつけているように見えます。こうした取り組みが日本でも必要かもしれません。

つまり、従来とは方向が逆である「市場起点のギャップを埋めていく」ための「リバースギャップファンド」といった仕組みを作り、市場から逆算(リバース)する形で、研究にお金をつけていく仕組みなどがあると良いのかもしれません。

ただ、通常のギャップファンドが「研究成果」という長年の具体的な成果物に対してお金をつけるのと違い、こちらのリバースギャップファンドは市場選定や事業計画などをまず具体的な成果として考える必要があるでしょう。そのためには、事業開発をする人が必要で、ここは課題として残ります。

また特定の大学だけでやるのは難しいので、共同研究などの形で他大学を巻き込む、といったことが必要かもしれません。

(5) 「大きくなる事業化」の支援の方法論を磨く

研究成果を単に商業化するのではなく、大きくなるような支援をしていく必要があるように思います。それをかなり強く意図して初期から設計しないと、大きな事業にはなかなかなりません。「大きくなればいいな」と願って天命を待つのではなく、「うまくいけば大きくなる」ように最初からせめて少しは設計しておくことが大事です。

もちろん、医療や創薬等の市場ではこれらの領域ではが大きなことが多いため、あとは市場の要求するスペックに到達できるか(&競合に対して優位かどうか)どうかが勝負です。こうした領域は『研究開発成果の事業化』という研究成果ありきの事業化の動きで良い領域のように思います。

一方、そうでない領域の場合は、いくつかの工夫が必要のように思います。

たとえば一つはカンパニークリエーションやベンチャークリエーションなどの方法です。事業や市場を知る側の人間が、投資というよりも自ら作っていく手法の中で、大きくなるであろう事業を作っていく方法が選択肢としてあるように思います。

また、闇雲に研究開発費をつける前に、大きくなる事業計画を描く支援をしたり、開発するべきスペックを決めに行くことを支援したり、技術経済性分析やLCAの費用負担をする、といった「市場リスクのデリスキング」の支援を行って、「作れれば売れる」という段階に早期に持っていき、そうした段階で研究開発費をつける、といった流れを作ることも有効ではないかと思います。

またギャップファンドについても、どうしても研究者から見ると「研究資金」として捉えられてしまう傾向があるように思います。そこで「ハイグロース・ギャップファンド」などの名称をつけて、「研究の延長線上のお金」とは別の仕組みであることを明示していく、といった努力が必要かもしれません。

(6) 資源配分を考え直す

これまでは「ヒットを狙いつつ、どれかが当たれば良いな」という、シリコンバレーのような確率的な当たり狙いの方法が模倣されてきたように思いますが、その際にヒット率高めでアップサイド低めのものに対しての資源分配が多かったように思います。これを買えていかなければならないように思います。

たとえばバーベル戦略のようにです。すでにスタートアップ投資という段階でバーベル戦略の9:1のうちの1のハイリスクな側への投資になっていますが、その1の中の0.8は「リスクは大きいけれど、まともにやれば大当たりが狙える領域」に充て、残りの0.2を「確率的に当たるかもしれない超ハイリターンなもの」に投資するなど、資源配分の方法と評価の方法を考えなければならないようにも思います。

この20年で日本のスタートアップエコシステムにおける経営者やノウハウの層の厚みが増してきたのは事実ですが、今以上に大きく跳ねる企業を作ろうとするなら、戦略の大きな要素の一つである「資源配分」を考え直す必要があるように思います。

 

まとめ

ここまで書いてきたことは、主に短期から中期にかけて、ディープテック・スタートアップを生み出していく考え方です。長期的には、科学研究に予算をつけて、研究をきちんと進めていくことが、将来的なディープテック・スタートアップにもつながっていくであろうことは最後に付記させてください。

またこの記事は私個人の意見であり、現在の私の視点から見たときの『誤解』と今後の改善案です。今後様々な活動を進めていく中で意見も変わっていくと思います。

ただ、支援が増えようとしている現在、せめてその方向性に対して、数年間この領域に関わってきた中で学んできたことを活かしていただけるのであればと思い、文章としてまとめました。

何かの参考になれば幸いです。

*1:経産省の定義する「大学発ベンチャー」はすべてがディープテックの起業ではないのですが、一方で、ディープテックの起業も多く含まれています。